2000年3月7日 厚生省児童家庭局保育課 御中 認可保育所の設置認可に係る規制緩和に対する意見 団体名:全日本自治団体労働組合  代表者の役職と氏名:中央執行委員長 榎本庸夫 担当局と担当者:健康福祉局 岩間 茂(健康福祉局次長) 意見:(以下の通り)  保育所の設置主体制限の撤廃については、営利企業の保育所運営を認めるものであり、保育制度改革に関連して自治労がこれまで提起してきた条件、@子育ての質の保障、Aセーフティー機能の確立、B公正なワークルールの保障の点から問題があり、自治労としては反対する。  保育事業に営利企業が参入することは、事業者の倒産や事業放棄といった事態が考えられる。保育所に入所している児童は、保護者の居住、勤務などの事情で入所していること、自己決定、自己選択権が十分に表現できない就学前児童であることなど考慮した場合、保育の公的責任が果たせない危険性がある。  今回の規制緩和に至った経緯に、政府行政改革本部規制改革委員会の議論の存在があるが、この委員会の議論の基調である市場原理・自由競争を保育事業に適用することは、保育事業の前提である公共性、継続性、安定性、質の確保が保障されないと考える。市場原理の導入は以下の2点の考えから保育の質にとってトータルでマイナスになると考える。  1つ目は、市場原理は保育労働者のワークルールとモラルを破壊しかねないという点である。保育事業はコストの大半が人件費であり、技術革新で生産性が向上しえない事業である。コスト競争が発生した場合は人件費削減に求めざるをえない。コスト競争が人件費削減や雇用の不安定性として表れれば、保育士の社会的評価や労働モラルは大きく低下してゆくことになる。  2つ目は、市場原理の導入が保育の選択の幅を広げ質を高めるとする、規制改革論の定説には陥穽がある。今日、保護者が受験競争やスポーツ芸術エリート競争に狂奔し煽動する社会のなかで、保育に市場原理を導入することは、社会や子どもにとって必要な保育の質より、保育料や保護者受けする保育サービス競争をもたらす。自己決定、自己選択権が十分に表現できない就学前児童が社会や自分に必要な保育サービスを主体的に選択をすることは例外的なケースであると考える。  今回の規制緩和の大きな目的として、「最低基準を満たす認可保育所をつくり易くし」という文言が盛り込まれているが、今回の「最低基準」を尊重する観点については、最低基準が保育の質を規定する重要な根拠の一つであり、今後も堅持し、仮に設置主体の制限を撤廃するにあたっても、「最低基準」や関係法令の厳格な遵守を求め、監査などで対応すべきと考える。  一方、保育所の設置認可については、2000年4月1日以降、自治事務として厚生省から都道府県または政令指定都市、中核市に移行されるが、各都道府県においても上記の考えを直視し、自治体が住民ニーズに対応できる保育事業を積極的に展開するよう、より一層の政策誘導をすすめることが必要である。  保育は、あくまでも社会の公的責任ととらえた対応をとられることを、厚生省をはじめとした児童福祉に関係するすべての行政機関に要請する。 ※なお、別紙(別添1〜3)に今回の通知案ごとに逐条で論評したので参照されるよう要請する。 別添1 2000年3月7日 厚生省通知(案)「保育所設置認可等について」に対する自治労の考え方 全日本自治団体労働組合 第1.保育所設置認可の指針 1.地域の状況の把握について  設置主体の制限を撤廃するにあたって、待機児童、人口、就学前児童、就業構造、現在と将来の保育サービスの需要を把握推計することを要請していることは、設置主体の制限を撤廃する目的が、待機児童問題や潜在的な保育ニーズへの対応に限定していることと理解し、現在保育ニーズがほぼ充足している地域においては、現状の設置主体のままでサービスの質の向上につとめることとしていると理解する。なお、文中の「多様な保育サービスに対する需要」は解釈の余地があり、「潜在的な保育ニーズ」と改めるべきである。 2.認可申請に係る審査等 (1)定員  この項目について異論はない。 (2)社会福祉法人による設置認可申請  この項目について異論はない。 (3)社会福祉法人以外の者による設置認可申請 @審査の基準 ア.「保育所を経営するために必要な経済的基礎があること」  例示されている「年間事業費の12分の1以上」を流動性預金で保有していることでは経済的基礎にはなりえない。経済的基礎については、申請時の財産状況だけではなく、継続的な運営が可能な経理運営のルールができているか審査する必要がある。経理規定、就業規則等職員給料の根拠規定、予定する保育料徴収額、保育料以外の費用徴収や寄付の要請をしていないかなど、長期的な経営基盤を確認できる客観的な基準が必要である。 イ.「経営者が社会的信望を有すること」  この項目については、何をもって基準とするのか評価できない。 ウ.「次のいずれかに該当すること (ア)2年以上実務経験のある実務を担当する幹部職員あるいは同等の能力のある者、(イ)経営者が社会福祉事業についての知識経験を有すること、(ウ)社会福祉事業について知識経験を有する者を含む運営委員会を設置すること」  少なくとも(ア)についてはいずれかという条件ではなく、必要な条件であると考える。(ウ)については、公立または社会福祉法人を除き、必要な条件と考える。  「実務を担当する幹部職員」の職種、職制が不明確で、審査項目としてふさわしくない。施設の長か主任保育士と明確に表現すべきである。施設の長と主任保育士では大きな違いがある。  また2年という実務経験年数は、措置費制度での施設長の設置施設の条件と整合性をもたせたものと推測するが、短すぎるのではないかと考える。保育の措置費単価では、保育所の施設長の給与水準が最低10年の経験を要しており、幹部職員の要件を2年の実務経験としていることとの整合性が見られない。 エ.「不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者ではないこと」  不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由があるものではないことという条件は、例示にあるもののほかに、会計や業務の監査などを通して厳格に運用すべきである。 オ.「財務内容が適正である」  内容が不明確である。例示のなかで「少なくとも財務内容が適正であるに当たらない」という消極的な審査では適正と判断できない。消耗品の購入費や人件費の不当なカットで損失を計上しないような経営内容や、徴収すべき保育料を著しく減免している運営、経営者への非常識に高額な報酬、経営者の居住する社宅、別荘、私用に用いる車輌などの保有なども、保育所の継続的な運営という観点から、不適正な要件とすべきである。またこれは継続的な審査要件として、認可後も定期的な審査をすべきである。 A.認可の条件 ア.「設置者に対して必要な報告を求めた場合にはこれに応じること」  最低基準を維持するために必要な報告を求めた場合にはこれに応じることとなっているが、設置認可者は、定期的な報告と情報開示を要求し、審査すべきである。 イ.「保育所を経営する事業の会計とその他の事業の会計を区分するとともに、保育所ごとに経理を区分すること」  現在、社会福祉法人に対しては、措置費の使途の明確化を目的に、一保育所一法人とすることになっているが、社会福祉法人以外の設置者についてのみこの条件を緩和することは論理的根拠が不明確であり、問題である。  この条件の緩和をするにあたっても、措置費の使途の明確化と、保育所ごとの経営状況を明確にするために経理の区分については保育事業の内外だけではなく、保育所ごとにも必要である。 ウ.「現況報告書と財務諸表の提出について」  必要な条件と考える。 エ.「業務停止や認可の取り消し」  保育を必要とする児童を受け容れている保育所は、業務停止や認可の取り消しがむずかしく、実効性がない。  保育所の社会的要請のもとに、業務停止や認可の取り消しを歯止めとして実効性を持たせるのであれば、自治体による接収や、自治体の一時的管理の制度が必要である。このことは倒産や業務放棄にいたった保育所の対応策としても重要である。 B市町村との契約  全体に市町村が社会福祉法人以外に保育の実施に係る委託契約を解禁することは、一足飛びに市町村の保育の実施を営利企業に委託することであり、問題が多いと考える。 第2 既設の保育所に対する指導  現行制度のもとで、この項目を必要とする状況が問題であったと考える。 第3 実施期日等 (1)(昭和38年3月19日児発第271号厚生省児童家庭局長通知)保育所の設置認可等については、この施行に伴って廃止されるが、この通知の第1の2の「年度別長期計画の策定」が新しい通知で継承されないことは問題である。現在、これと類似するものである市町村エンゼルプランの未策定自治体が多いことから、この部分については残存させるべきである。 (2)保育所の設置認可にあたり最低基準の適合を求めていることについては、当然と考え、今後も堅持させるべきである。 別添2 2000年3月7日 厚生省通知(案)「小規模保育所の設置認可ついて」に対する自治労の考え方 全日本自治団体労働組合  小規模保育所の設置認可については、過疎地や、大都市部のような土地取得が困難な地域での保育所などの開設や、入所者数の低下した保育所の経営体質改善のために必要な対応と考えており、賛成する。  しかし措置費体系が現行のままであれば、この通知では現状の課題が解決しない。利用者の負担や自治体による超過負担を求めざるを得ないため、措置費の規模別区分とその単価を見直すことが必要である。  今回の小規模保育所の設置については、3才未満児の入所を重視しているところから、措置費の見直しがある場合には、調理員の設置を前提としたものとすべきである。 別添3 2000年3月7日 厚生省通知(案)「不動産の貸与を受けて設置する 保育所の認可について」に対する自治労の考え方 全日本自治団体労働組合  不動産の貸与を受けて設置する保育所については、土地・建物の取得が困難な地域において、民有地の活用によって保育所開設が可能な場合の道を開くものと評価し、基本的には賛成する。ただし、土地・建物の貸与が保育所の運営に不安定性をもたらす可能性もありえることから、土地・建物の安定的な貸与がされるよう対応策が必要と考える。  不動産の貸与を受けて設置する保育所に対して、最低基準の適合を求め、就学前児童の増加傾向のある地域、待機児童のある地域などに限定していることを評価する。  貸与を受けている土地または建物についての地上権、賃借権の登記については、安定的な経営を維持するために必要不可欠と考える。今回の提案では、登記を必要としない要件は、議会や都市計画、事業認可などで規制がかけられている地方住宅公社、基幹的交通事業者、国、自治体であるケースに限定すべきであり、契約期間による登記免除は危険である。  賃借料が地域の平均水準であることや、賃借料の1か年相当の換金性の高い財産の確保、収支予算書などに計上を義務づけていることは、賃借料負担の透明化や安定化に不可欠であると考え、評価する。