財務省が配偶者控除の見直しの検討を進めているが、展開も提案も報道もデタラメな感じがしています。
元々は、不合理な配偶者控除の全面廃止が課題だったはずのこの話が、いつの間にか配偶者控除の拡大が検討されて、かつてあった配偶者特別控除の復活、つまり女性はいつまでも従の立場で働きに出ることを固定化させる話になっています。
メディアで「103万の壁」という言葉が一人歩きしていますが、この金額設定の意味は伝えられていません。そのなかで単なるソントク、感覚的な議論ばかり続けられています。
「103万円」は、
給与所得を得る人の初乗りの控除としての65万円と、
低所得だと適用しようがない本人の基礎控除38万円を配偶者控除として振り替えるようなかたちになっていて、
配偶者のいる本人の賃金労働が合計103万円まで、所得税がかからないようになっている考え方です。現在の配偶者控除は、どうかと思うところはあるものの、制度的には中立的な考え方の範囲内と言うことができます。
しかし、これを130万だの150万円だの拡大することは、その分、配偶者だという立場に税の特典を与えることになります。また、「壁」を意識する人がいれば、130万円や150万円が壁となります。
103万円の壁を超えると損なのか、という問いに対して、
本人(多くは妻)は壁をほとんど意識する必要はありません。超えた分に5%、もう少し稼げば10%と少しずつ税金がかかるようになっているからで、いきなり初乗りで何万円も税金が発生することはありません。
問題は配偶者(多くは夫)の税です。夫が税率20%に乗っていると、「壁」を超えて38万円の配偶者控除が本人控除になると、38万円の20%で、倍以上税金が増えてしまうということになります。
しかしこれってよく考えたら変ではありませんか。
基礎控除なり配偶者控除は、最低限の生活コストに税金をかけない、という考え方があるはずです。しかし
低所得者の場合、その控除の結果、1人38万円の5%、1万9000円しか減税されない。
高所得者の場合、その控除の結果、1人38万円の45%、17万1000円も減税される。
どうも変なんです。まさに人間の属性による逆進性で消費税どころではありません。それを何の説明もなく「103万円の壁」という言葉で、自分たちだけが損しているかのような感情を煽って、ドサクサ紛れに拡大しようとしているのです。
本来、配偶者控除の見直しは、廃止として税収確保策(増税)だったのが、見直しと称して財源がいるというのです。おかしくありませんか。
政府や自民党はさすがにそのあたりを気にしているのか、今度打ち出したのは、
「1000万円以上は配偶者控除を適用しない」
という考え方です。しかし給与所得者の場合、額面の収入の2~4割まで給与所得控除で割落とされますから、年収1500万円までが適用になります。税率でいうと33%の層まで減税を拡大するということになります。またこれを始めると、夫の側に1000万円の壁というものが発生して、また話をややこしくします。
おかしなことだらけに話が展開しています。
メディアは考え方を伝えず、今、配偶者控除をもらっている人だけの感覚でソントクしか伝えません。安倍政権の独特な日本会議的な家族観を忖度しているものと見られます。
配偶者控除をどうするのか、もう1回、話をリセットして議論してもらいたいものです。
話の振り出しは、人の可能性と必要性に応じて働くことで、所得税のソントクを気にしないで済む制度です。特典を拡大することはこれに逆行することになります。
🌑改革の処方としては4パターンではないかと思います。
改革1 税の中立性と、本人の個人情報の観点から、配偶者控除は全面廃止
改革2 配偶者控除を廃止て、高所得者・低所得者かかわらず一律・固定額の税額控除(38万円の5または10%)
改革3 配偶者控除が基礎控除見合いだとすると、基礎控除を配偶者に振り替えられる適用緩和
私は税に身分的特典を加えることは、生き方の選択によって税金で不自然なことばかり起きるので全面廃止がベストと考えますが、それで低所得者がきついなら、定額の税額控除に切り替えるべきだと思います。これによって、低所得者の減税は守られ、高所得者は減税幅が縮小するということになります。
🌑メディアの報道のひどさは、メディアに関わる仕事の多くが男性優位社会で、男が主、女がパート労働ということが当たり前とする感覚に基づいているのではないかと思います。1000万円以上が適用されないということで、「専業主婦からの反発」などというコメントをしています。それで損するのはわずかな高所得な夫を持つ家庭だけでしょう。低所得な専業主婦まで巻き込んで高所得者の特典を守ろうとする報道はいかがなものかと思います。
具体的な計算にもとづかず感覚的議論ばかりされています。
🌑なお、生活給的な運用をしている日本の正社員の賃金制度のもとで、配偶者控除の適用をもって、配偶者向けの家族手当が加算される仕組みを持っている職場は大企業や役所では少なくありません。こちらのソントクの方が大きいのでしょう。
配偶者が働くか働かないかで賃金格差をつけるのは、配偶者が働かずに家にいてくれれば、本人を無制限に残業させることができる、ということの裏返しでもあります。日本国憲法の勤労の義務があるのに、人を働かないことで利益を与えるのは、公序良俗に反する制度ではないかと思うところもあります。
企業でも徐々に見直しが始まっていて、今年はその統計的反映として、公務員も、人事院から配偶者手当の縮小が勧告されています。
朝霞市も12月定例市議会で、職員の配偶者手当の縮小が提案されると思います。その中身が、困ると声を挙げる職員団体もないのに、イデオロギー的にお手盛りをしていないか、きちんとチェックしたいと思います。