8/22 政治家が打ち上げる保育料無料化って…
最近、新しさを掲げる政治家たちから保育料無料化をぶち上げられます。保育料だけ見れば、消費税1%もいらないというのです。しかしちょっと待ってよ、と思っています。子ども保険などという制度を入れて、出てくるのが保育料無料化しかないなんて話もあります。それだけの財源調達やってそれですか、という感じがしないでもありません。
私ももっと保育園が重視される政治をやれやれ言ってきた側だし、私自身の保育料負担は、地域的に認可外保育しか選択肢はなく、11年の未就学児を育ててるうち8年間利用し、自動車2台買えるぐらい超過負担をしてきたので、保育料は安いに超したことはないと思っています。しかし、保育料を下げることに多大な財源を使ってしまって、他に解決すべき保育園にまつわる様々な政策課題が解決できるのか、疑問です。
端的に言うと、優先順位がおかしくて、票を取るためにわかりやすい政策だけを打ち上げて、財源弾切れ、待機児童問題や質の問題が放置されたまままた40年問題が放置される、ということになりかねません。
保育園に関する財政は、市町村の超過負担によって支えられています。保育園が思うように整備できないのは、この超過負担の財源がなく、様々な支出を削ってひっぱがして調達している現実があり、最近のベッドタウンでは、よほど金回りのよい自治体以外、様々な子育て世帯や障害者のいる世帯に出す〇〇補助金みたいなのを切って、公共施設の新築・改築どころか修繕すら先延ばしにして、標準の行政サービスを提供するのがやっと、という状況です。
そこに保育料を無料化したらどのようなことが起きるのか。
保育需要は少しだと思いますが上がるでしょう。保育園は1施設でそんなに人を入れられません。60人とか90人とかの規模です。朝霞市で未就学児が8000人いて、保育所利用率がわずか1%上がるだけでも保育園が1つ必要になります。新たに必要となる保育園の建設費はほとんど国・県の負担ですが、運営経費は1園で市負担分だけで5000万円が必要になります。ここは無料化した保育料の倍ぐらいの予算がいります。まずこの問題にぶち当たります。
無料化されるのは保護者負担だけですから、その裏側で国や自治体が負担している保育財源は、今の日本政府や自治体の財政からは簡単に出てきません。待機児童問題が放置されたまま無料化すると、想像するだけで変なことが起きそうです。
高齢者や障害者福祉サービスとのバランスが必要です。高齢者の福祉・医療は1割負担、ある程度の所得の人は2割負担、さらに来年度からは高所得者には3割負担が入ります。年金収入だけで他に収入もない高齢者世帯が、保育園と同等のサービスを受けると、介護度により3万5千円~6万円払っていることになります(高所得者限定ですが来年度からはさらに1.5倍になる人がいる)。保育園の利用理由の大半が経済活動のためだとすると、収入のない人の介護利用料を上げ続けて高齢者に貯金しなきゃならない強迫観念を与え続けていることとのバランスが問われてくると思います。
保育料無料化が優先度の低い理由を以下述べていきます。
まず、現在の保育料は所得に応じて負担する仕組みになっており、国の粗っぽい基準をそのまま適用している自治体以外は、低所得者にはそれなりの負担軽減を行っています。
さらに、貧困家庭やひとり親世帯、2人同時に預けている家庭、多子世帯などには様々な保育料の減免・軽減が行われています。それが十分か不十分かという問題はあるかと思いますが、高齢者介護などに比べると、手厚い低所得者への配慮が行われています。
そして保育所の利用理由の大半が、保護者の経済活動にともなうことで、保育所の利用は子どものためでもあり、また親の所得の底支えの機能があります。そのため介護などと違い、所得に応じた利用料負担を制度化しているのだと思います。
そういうことから保育料無料化する意味、メリットは少なく優先度が低い、保育所に着目するなら、義務教育課程や高等学校の様々な負担をなくす方が低所得者のために効果的なことは間違いありません。
そして保育料無料化が少子化対策として効果があるかは疑わしいものです。保育料無料化で子どもが増えたと喜んでいる自治体を見ると、過疎地で、転入人口が増えたのであって、地域の持続性のために人を呼び込むことが中心で、年金や社会の継続性の問題になっている全体的な少子化対策とは全然違う問題です。
保育園や子育ての経済的負担には優先順位が全然ぐちゃぐちゃだと思います。
保育園だけで言うなら、都市部の女性が就労に出るようになった都市部で、待機児童問題を解消することが最優先です。これを放置し続けると、保育資源が確保できるはずの地方も含めて全国一律で、保育園の質を下げてでも収容人員を増やす話や、保育士の奪い合いなどの、下品な改革話を止めることができません。そして都市部の問題であるが故に本当にお金のかかるのです。その話が子ども保険や新しい政治勢力の旗印のどこに書いてあるのでしょうか。
待機児童問題の改善のためには保育所の用地取得、建設費、保育士の人件費、そして今は保育士の奪い合いに富裕自治体がなりふり構わないことをしているので、それをしないで済むような処遇改善が必要です。それだけで保育料以外の財源で1兆円は必要になるのではないかと思います。
次に待機児童問題の出口が見えてきたら、質の問題に取り組む必要があります。質のなかには、事務職・工場労働者を対象にした保育時間とは違う保育ニーズ、在宅保育、病児保育などの、従来の社会の常識ではとらえきれなかった問題への対処と、保育内容そのものの改革・改良の取り組みが必要なります。これも待機児童問題ほどではありませんが、お金のかかる話です。
あわせて日本の長時間労働の矛盾をすべて女性の家事労働と保育園に押しつけている状況を変えるために働き方の改革で、企業に罰則込みの残業規制などを働きかけていかなくてはならない状況です。罰則を込めるということは、摘発したり、指導したりすることをしなければならないし、企業は企業でつらい事業転換が必要になります。その社会コストもばかになりません。
保育料を無料化して、保育園に保護者を入れている家庭を、政党や政治家が歓心買っている場合ではないと思います。
そういうことの一連の改革ができあがってから、保育料の全面無料化は選択すべきオプションのように思います。
現在、待機児童問題がひどくて、保護者のなかには、もっと保育料を払うから保育園増やしてくれ、というご意見をいただきます。保護者たちはそれぐらいの思いでいるので、保育料の値上げを提案しても相当なことをしない限り受け入れられていくような時代です。そこに保育料の無料化政策が実現しても、保護者たちの社会や将来への信頼感は醸成できないように思います。
高齢者福祉とのバランスもあります。
介護保険料はともかく、介護保険の利用料は、もはや介護が必要となり、年金か生活保護しか収入をあてできない状態なのに、払わなければならないものです。それが近年、懲罰的に負担割合が増やされ続けて、現在では一部2割、来年度からは一部3割負担が導入されます。
保育園と同様の週5日、9時間の通所を行った場合、介護度によりますが2割負担で3万5000円~7万円の負担を求められます。
介護保険料の値上げにはいろいろ議論ができますが、本当に困ったときのための利用料が、利用量を抑制するためという口実で負担割合がどんどん広がっていく傾向が続いていて、その不安がみんな老後に向けた貯金を煽っていき、消費が冷え込む経済構造になつています。
こうした高齢者の福祉の利用負担が増やされるようなことがなければ、保育もという声を挙げられると思いますが、逆なことをしているわけです。
しかし、就労という経済活動のための福祉である保育園が、完全に無料化になった場合、そことの矛盾が出てきます。無料になった保育料の分を老後のためにせっせと貯金して、結果として、蓄財が進み消費が冷え込んだら、何のための保育料無料化だったのか、ということになりかねません。とくに今は所得に応じた保育料体系にさらに低所得者には保育料を減免してもいるので、保育料無料化のメリットは、高所得者ほど受けることになります。
年金収入しかなくて収入を増やすすべのない高齢者の福祉の利用料を上げ続けているのに、そんなことやって社会の信頼性はできるのでしょうか。
以上のことから、私は保育料無料化に反対とは言いませんが、も優先順位が違うだろうと思っています。
●保育園の無料化を打ち上げる政治家って、子育て世帯の実態をあまり見ようとしていないのではないかと思っています。福祉がどのように提供されてどんな効果を持つのか調べもしていないので、即席で、経済的インセンティブをつける政策しか打ち出してこない。同業者として情けない限りです。
●子どものところで言えば、義務教育課程と、実質的に卒業しなければ社会参加のチャンスを失う高等学校通学までの様々な諸経費を無償化したり、負担しないで済む仕組みに変えることが優先課題ではないかと思います。学校給食費の徴収事務など社会の壮大なムダで、給食費の計算事務、徴収事務、未収対策などさまざまな仕事が発生し、最近のように中途半端胃に財政問題に関心を持つ人が増えると、払った払わないをめぐって市民どうしで疑心暗鬼と、他人を悪く言うような風習が蔓延して、社会の信頼性を低下させる一方で、ろくなことが起きません。
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