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2016.03.11

3/11 迷走する待機児童問題への議論

保育園の待機児童問題への関心が高まっています。

しかしそこで語られることがあまりにも印象的なことばかりで、問題解決につながらない話が多く、これでは待機児童対策も迷走するのではないか、と危惧しています。

結論から言うと、保育園を増やした市町村の財政が傷まない地方財政のあり方を構築すること、保育士の確保に全力を挙げること、その上で事業者が適正利潤を確保しながら事業拡大できるようにすること、勤務時間管理などを中心に労働者の保護の強化や育児休業取得を保護して無理な保育所利用を抑制すること、などが中心的な対策です。

今朝のニュースが伝える、官邸発のつまらない小技は、かえって基本的な解決を遅らせます。そのことは小泉政権下で続いたことです。

怠慢的な待機児童問題がひどかった朝霞市でも、ようやく本腰入れて対策が進んだのは、2000年代後半、小泉政権の終了以降でした。

待機児童問題のいちばんの特効薬は、第一次安倍政権で構想されて、福田、麻生政権でかたちづくられ、民主党政権でも守られ促進された「子育てあんしん基金」です。国が毎年300~500億円用意して、都道府県に積立金として送り込むものです。都道府県は、それぞれの県の事情によって子育て関連の支出に使えるというものでした。

埼玉県はこの大半を保育所整備に投入し、それまで1自治体1保育園の開設分しか予算がなかったものを、朝霞市でも3~5園増設する財源となり、人生を諦めさせ市民の能力を退蔵させるような待機児童問題は解決が進んできました。

現在も待機児童問題は続いていますが、年度ごとの急激な児童数の変化の対応が中心となっています。
やはり国からの真水の保育園への財政投入なんだと実感しています。

一方、「保育園落ちた日本死ね」が話題になって以降、保育園問題に関心が高まってきています。一方でそのことで問題解決の量的問題も、技術的問題もわからず政策を左右したがる人が増えていることにやや危惧を持っています。

一つは、安倍政権をたじろがせたことで注目を浴びた民主党の山尾しおり議員の質疑の一部分が独り歩きして真実みのある言説として安倍政権に批判的な人たちのなかで伝播していることです。彼女の言いたいことはだいたい正しいのですが、子育て世代の働く女性が増えていない、という全国集計の数字を引っぱり出して、安倍首相を答弁で立ち往生させたことは、待機児童問題の解決には全く逆効果な展開になりかねません。そのまま取れば保育所は増やさなくてよい、という話にしかならないからです。

あの数字は全国計であって、待機児童問題が出始めた20年前から、過疎地での女性の減少と、都市部での共働き率の高まりが相殺しあって、子育て世代の働く女性の全国計は変わらないということが続いています。保育園の入所児童数も、全国計では微弱に増加している程度です。
大都市圏のベッドタウンで、夫の高所得で家族を丸抱えするライフスタイルが、急激に共働きに変化していることが待機児童問題の大きな原因で、その点では山尾議員の批判は的外れ、安倍首相の方が本質はわかっていないとしても政策課題として認識している、と見ています。
並行して地方では、子どもの数、子どもを産む女性の数が減っている、それは地方創生戦略を必要とした前提だったのではないかと思います。

一方で、今朝の官邸の、ミスマッチに着目という解決案は、この雑な議論に悪のりして、保育所にかける予算を抑制しようとする財務省、厚労省から保育所の運営をひっぱがして商業化したい経産省あたりに利用されているのではないかと思ったりもします。

相変わらずしつこいのは、待機児童問題を解決できなかった規制緩和論(地方分権論を利用した規制緩和も含む)を言い出す人たちがいますが、今はその影響力は大幅に低下しています。しかし、民主党や旧みんなの党、旧維新などの系譜には、新興政党の一部には相変わらず規制緩和が待機児童の解消策になると真剣に信じている人たちがいて、目的が大事なのか手段が大事なのか聞きたくなります。もちろん規制緩和で若干は増えやすい要素はできましたが、規制緩和で福祉は収入が増えるわけではないので、むしろコスト抑制にしか効果が働きません。その結果、保育士への人件費規制が下がり、保育士になろうとしている人が減ってしまった逆効果も生まれています。

待機児童問題の解決策は、市町村がしっかり取り組める意思と、それを支える財源があることが大前提です。
朝霞市の場合、7500人の未就学児に1999年には、900人程度の定員だったものを2015年には2800人まで増やしました。
その結果、市の財政のうち民生費が30%だったものが50%まで、児童福祉費が15%ぐらいだったものが25%に跳ね上がっています。
保育園の建設予算は、先ほど書いたように県の「子育てあんしん基金」から大半がやってくるので、市町村財政はあまり痛みません。
これは、小泉政権の締め付けが国を荒廃させたとする第一次安倍政権による政策転換、そしてそれを具体化して基金として設置した福田、麻生政権、事業仕分けの陰で保育所の整備費用を守った民主党政権の中の良識的な社会保障政策の担い手たちが育て続けたスキームです。
※都道府県がこの基金の使い方をわかっていないと、解決しなかったという結果もあります。

問題は運営コストです。100人規模の保育園を1園増やすと、年1億円程度支出が増えます。国では、国県4分の1、市町村4分の1、保護者2分の1という負担を設定して、国県分は補助金、市町村は地方交付税(自治体の最低限の運営に必要な収入保障の制度、富裕自治体ほど持ち出し負担)で手当しているので、不真面目な自治体でもなければ財源はある、と言い張ります。
ところが、保護者負担が現実離れした金額で、どう引き上げても3分の1ぐらいまでしか伸ばせません。朝霞市の場合は値上げ後も、保護者負担は総額の4分の1ぐらいしかいただけていません。それでも政党機関誌の全国版に、とんでもない値上げの事例として紹介されてしまったぐらいです。さらに待機児童問題を解決しようとすればまだ一段の保育料の値上げが回避できないように思っています。
結局その差、保育園の運営経費の4分の1~6分の1は何の根拠もない財源で保育所運営しなければならないので、道路や公園整備やナントカ会館の建設を犠牲にしても、増設に限界が近づきつつあります。

そうした中で、政治の側が思いつきで、「第三子の保育料無料化」など問題解決ではなく、姿勢を示すだけの支出増の政策を打ち上げるので、本筋のための財源がなくなり、毎年毎年首が絞まりつつある状況です。

待機児童問題を解決しようとするなら、都市部の家族像が大きく変化していることを直視して、そこに集中的に施設整備費と、まじめに取り組んだ自治体がバカを見ない国・市町村・保護者の財源構成を再構築することが必要だと思っています。

そのためには保育所運営経費に関して、もう少し手厚く財源確保し(補助金でいくのか、地方交付税の積算のうちの「児童福祉費」の単価を上げるか)、あとは厚生労働省に結果責任だけを求めるべきで、官邸のように保育所に精通していないところで、細かい技術論に入っていくのは、政策が迷走するのでやめてもらいたいと思うし、そういうことを誘発するようなことは慎重にあってほしいと思います。

消費税の増税はそのために行われたのではないかと思いますが、わずかに年300億円のあんしん基金への支出でお茶を濁されているなぁ、という感じがしています。

待機児童問題が解決しない次の問題は、保育士と事業者の確保です。
保育士に関しては、労働力の保護のため勤務時間が守られる制度設計が必要です。現在は入所児童の頭数で保育士の配置数が決められ、市町村は保育所の運営者にお金が払われています。ところが現場に行くと、11~13時間開所で、8時間労働で、常時規制の保育士数がいるかチェックされるので、差の3時間分の労働力は人件費をピンハネすしてワークシェアするか、常時サービス残業を前提にしないと保育士が手当できないということなります。
まずは労働時間を守らせ、女性の多い職場として成り立つような制度の組み替えが必要です。そのためには全国規模での財源が必要になります。

人手不足なら賃金が上がる、という市場原理が働かないのも保育所制度の課題です。
面白いのは、小泉構造改革のときに、市場原理がないから福祉はダメだと言ってきた経済学者たちが、一転人手不足になると、みんな口をつぐんで保育士の待遇改善と財源確保を言わなくなっています。不思議なことです。

それはさておき、保育士の賃金は、職務給か職能給かという議論にもつながりますが、支出された補助金の人件費は年功序列賃金を想定せず、1人当たり25歳前後の正規職員公務員の賃金水準を払っています。介護に比べたら天国みたいな世界かも知れませんが、長時間にわたり10キロの米袋を2つ担ぎ続ける体力労働でありながら、安全を守るような仕事として、25歳公務員水準の賃金を高いという人はいないと思います。
公立保育園でもなければ、補助金とひもついた賃金でしかないので、本来は、保育士の職能組合が、厚生労働省と中央交渉して賃金を決定して、補助金に跳ね返らせる仕組みが必要なのだと思います。
ブラック経営者がいるかも知れない現場で、2万ヵ所もある少人数職場で、それぞれで労使交渉して労働条件を改善する取り組みをするのは非現実的ではないかと思ってもいます。
福祉だからと組合結成を私利私欲のためであるかのように決めつけて弾圧するような福祉事業者が少なくありません。それも課題だと思っています。人を確保するためには、各保育所で、職場内の民主的な労使関係がどうあるべきなのか、事業者にも真剣に考えてほしいと思います。

●この問題で安倍政権を追い詰めて政策変更を迫ることは有効だと思いますが、左翼の陣地拡大のためにやるなら勘違いとしか言いようがありません。ここも、例のブログから湧いて出てきている困った話です。

●生活のリスクや一時的に課題な負担を税や公の力を借りながら解決するのは、極東とアメリカ以外では議会主義を尊重する左翼陣営のメインストリームの政策なのですが、日本の場合は、反政府運動を焚きつける動員の口実にしか扱われていません。だから保育園で怒れと言った先から、増税(大きな政府)反対とやるから論理矛盾です。保育園問題にぶつかってきた人たちからすると、安倍より小泉がまとも、ということは口が裂けても言えません(安倍首相が危険な存在であることは間違いありませんが)。

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