8/31 生殺しの埼玉県南部の自治体財政
決算の議案書や資料を見ていると、埼玉県南部の自治体財政は生殺し状態だと思うことがあります。
23区の特有の財政制度の枠外にあること、財政力指数の高さと国の支援、財政の硬直度、企業誘致の功罪、固定資産税依存の収入構造の注意点、県境に接しているベッドタウン特有の財政問題の存在などについて書いてみしまた。
練馬区や、板橋区などのベッドタウンと、朝霞市や和光市のベッドタウンに何の違いがあるのかよくわからないのにそこには財政では巨大な壁があって、企業活動の富が集中する東京都23区内は、膨大な法人事業税の上がりが、都区財調という制度で23区内でほとんど分配されます。
一方、埼玉県内に入ると、国が標準的な自治体運営としている、「基準財政需要額」水準すれすれの税収しかなく、また、これが必ずしも税収が足りなさ過ぎるわけではないので、全国的には「豊かな方」の自治体とみなされます。この基準が「財政力指数」で、朝霞市は1.0(指数なのでパーセントでいうと100%)前後をうろついています。
そのぐらいの数字だと、財政に余裕がない、ということはあまり言えず、余裕がないとすれば財政運営に問題がある、と指摘される水準です。
21世紀に入ってからは、児童手当・子ども手当の拡大、後期高齢者医療や介護保険制度の創設、保育関連施策の拡大などにより、市町村を経由して国が行わせる事業も増えており、そのため「基準財政需要額」も上がる傾向があるので、徐々に23区に隣接している埼玉県内の市でも財政力指数が1.0を割り込むことが恒常化しています。
ここ10年は、財政力指数1.0を割り込んだ分を補うための地方交付税を国が払いきれず、一部を国の代わりに借金させる「臨時財政対策債」に置き換えられ、朝霞市もそれを利用せざるを得ないのですが、財政力指数1.0をちょっと下回ったぐらいのこの周辺の自治体では、地方交付税の現金と、肩代わり借金の比率でいうと、肩代わり借金の比率を高めに設定されます。いずれ国が返してくれる借金とはいえ、万一、財政力指数1.0を超えるとその国の返済も踏み倒される危険性があるので、要注意です。
朝霞市も小学校2校の改築以降、大きな借金をしていないので、借金全体の残高は毎年大幅に減りつつありますが、その分、借金の大半が「臨時財政対策債」になりつつあります。残高管理から言えば、借金の残高は破綻するほどの心配はない、と言えますが、ある程度の水準の行政サービスを維持し続けられるかどうかということでは、注意が必要な状況です。
また、以前は、財政の硬直度を測るのに「経常収支比率」が使われていました。市町村が行うべき福祉事業の展開によって、経常経費の比率が高まり、かつては75%が健全とされていましたが、昨今では90%前後が標準的な数字となっています。
ただしこの比率は、あまり根拠のない数字で、公共工事をたくさんやると一時的に下がり(硬直しない)、公共工事を節約すると上がる(硬直化する)ことと、どの使途に使うことが政策的なことで、どの使途に使うことが経常経費なのかという意味づけも、あまりなくなっているので、現在では、自治体の代表的な決算データを一枚に集約した「決算カード」からも消えています。
ただし、過去の経常収支比率を並べて、国が自治体を通じて施策を行うよう打ってくるタイミングと照合しながら、財政の硬直化を変化として見ていくことには意味がないことはありません。
東京に隣接したベッドタウンの自治体財政で、基本となる収入は、個人市民税と固定資産税だ(これで市の税収の8割以上、収入の約5割)ということをつくづく感じます。
法人市民税は、ボーナスだと思え、と教えてくれた近隣政治家がおられましたが、そのことを実感します。企業誘致の努力を求められる方がいますが、市町村には誘致した企業から入る税収は少なくはありませんが、個人市民税や固定資産税に比べると圧倒的に少ない額です。
さらに、最近の企業は、生産拠点の移転を国境を越えて激しく行っています。
三重県亀山市のように、一時はとても景気が良かったのに、10年経ったら、急な雇い止めで身動きのできなくなった派遣労働者の生活支援と、彼らが住んでいたアパートの空き家化が社会問題になった自治体もあります。
企業が意味がないということではなくて、地域の経済構造とは全く別物の企業誘致をしても、あまり幸福にならないということでもあります。
固定資産税が大幅に入ってくる状況は、自治体にとって、不動産価格を高止まりすることの弊害を実感させにくくし、むしろ歓迎させるインセンティブを持ちます。地主も、既にマイホームを買った人も、固定資産税の支払いをのぞけば、土地価格の高止まりは資産保有願望を満たし、歓迎されることです(ただし不動産を換金する意図のない所有者にはただ税金が高くなるだけですが)。
不動産価格が高いということは、街の評価であるとともに、一方では商業や工業の新規参入を阻みます。とくに儲かるか儲からないかわからないベンチャー事業や、社会的には必要とされていても土地生産性の低い事業(保育所や介護施設)などが育つには大きなハンデとなります。
最近、朝霞市で新規参入の商業がほとんど見られず、撤退が早いのも、分譲マンションにして土地を売る方が高く値段がつけられ、そのために地価や家賃が高止まりしている影響も否めません。
生活が豊かな市民生活を実現するためには、地価をつり上げる効果を持つ分譲マンションのこれ以上の開発を抑制し、中古住宅の市場の育成が課題なのではないかと思います。
ただしそのことは市の税収を引き下げていきます。悩ましい副作用もあります。
市民生活の豊かさの演出を、税金で実現できるのは限られた場面しかありません。むしろ不幸の回避のために政府部門というものはあるはずで、多少固定資産税の税収が下がっても、市民が住宅費の支払いで汲々としたり、新規参入の商業・工業の事業者が、不動産にかかる経費に思い悩むことはできるだけ少ない方が効果的だということではないかと思います。
また大都市周辺の自治体の特有の財政課題についてはあまり認識されていません。
・財政力指数はよい、借金もあまりない、しかし地価が高くて何か施設を造ると、しばらく借金返済でプライマリーバランスが大きく崩れて、資金繰り難におちいる構造です(黒字倒産の構造)。朝霞市はこの点で現在は深刻な黒字倒産を予防しなければならない状況におちいっており、本来なら中期的な財政再建に入る必要がある状況です。
・国民健康保険の財政についても。サラリーマン家庭の人口比率が高すぎることと、昨今はちょっとした自営業者でも仕事を法人化しているので、国民健康保険の加入者が、定年退職者、フリーター、失業者、農家、政治家しかいない構造になっています。定年退職者については他に健康保険との財政調整のシステムがあるのですが、稼働世代の貧困に関しての財政調整の制度がないので、ベッドタウンほど国民健康保険の財政は悪化しやすい構造にあります。
・働いているところと住んでいるところの分離がベッドタウンの成り立ちなので、保育や介護などの最近増えている政策が、どうしても需要を作り出す企業にワークライフバランスなどを働きかけることができない、東京の企業活動の結果、出てきた需要に対してサービスを供給していくしかないので、財政的にもコントロールが難しい。
・自治体の提供するサービスを、23区水準の利用料で提供させることが要求されたり、23区で取られている様々な無料化、費用負担抑制策と比較されながら実施を求められるために、財政構造が悪化しやすい。
などなどの特有の問題があります。
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