4/12 「金融緩和の罠」
日銀にお札をバンバン刷らせて景気回復を図る「リフレーション派」考え方を採用して、外国為替、株価がとりあえず改善している安倍政権。維新、みんなの党、他の自民党総裁候補が小泉構造改革的な新自由主義になりがちで、民主党も新自由主義的経済政策と社民主義的社会政策との間をいったりきたりする中で、腰を据えて小泉構造改革ではない価値を求めていることについては、安倍政権の姿勢を評価しています。しかし実際に経済政策としての効果はどうなのだろうか、日銀が刷りまくったお金がほんとうに失業をなくすのか、インフレなんて本当に来るのか、来たときにはどういう顛末になっているのだろうか、そんなことを考えます。
そうした中、大阪大学の小野善康先生から「金融緩和の罠」をお贈りいただきました。津田塾の萱野稔人准教授が、「デフレの正体」の藻谷浩介さん、BNPパリバ証券の河野龍太郎さんと、小野教授と対談するかたちで、アベノミクスが採用したリフレーション派の経済学の危険性をわかりやすく説明しています。
藻谷さんは、生産人口減社会のなかで、インフレ誘導策など不可能、トリクルダウン理論は高齢富裕層の貯金だけが積み上がって、それを銀行を通じて国債に化け、その国債が年金に化け、高齢富裕層と銀行と政府の間でぐるぐる資金がまわっているだけと喝破しています。必要なことは即効薬はないと断りながら、高齢富裕層から若者への所得移転、生産人口を補うための女性の就労を促進する様々な施策を進めることを提言しています。
河野さんは、金融緩和は金融システムが危機のときにのみ有効な施策で、金融危機のない不況時の金融緩和は国債購入にばっかり投資が振り向けられて、民間経済が成長しない、各国経済にバブルをもたらす、立ち直れないほどの財政パニックをもたらす危険性がある、と指摘しています。やや3人のなかでは小泉構造改革的な観点に近い批判になります。
小野教授は、買う物に満足感が少ない成熟社会では現金保有願望が何より優り、そのために現金をいくら市中に回しても、特定の人たちの現金保有にばかり回ってしまって、人余りカネ余りは解消されないと指摘。通貨供給力をいくら増やしても消費者物価指数は増えも減りもせず、GDPも上がらないことが続いていることを示しています。その上で、とにかく雇用につながる政策が必要と提言しています。また今回は円の信用崩壊についていつもになく厳しく指摘していて、そうした観点から安易な国債発行依存に警鐘を鳴らしています。
三者に共通するのは過去の金融緩和が全く効果がなかったと検証していること。消費額の増加分は燃料高騰分など物価上昇以外の要因によるものと明らかにしています。
●書店には17日頃から発売になるということのようです。
●藻谷さんが本書のなかで以下のようなことを言っています。
「リフレ論の信者に、ある共通の属性があることは間違いないでしょう。それは「市場経済は政府当局が自在にコントロールできる」という一種の確信を持っていることで、だからこそ彼らは日銀がデフレもインフレも防げると信じるわけです。
これを私は「近代経済学のマルクス経済学化」と呼んでいます。昔ならマルクス経済学に流れたような、少数の変数で複雑な現実を説明でき、コントロールできると信じる思考回路の人間が、旧ソ連の凋落以降、近代経済学のなかのそういう学派に流れているということではないのでしょうか」
おおむね同意します。少し違うのは、①リフレ派だけではなくフリードマン派も同様の傾向が見られる、②マルクス経済学でも様々で、「マルクス主義経済学」と言われる類の人たちに限定しておいた方がよいのではないか、ということです。いずれにしても経済学は心理学とならんで、対象に絶対的な評価を下せると誤解する危険性があります。
●藻谷さんの主張がどこまで経済全般に指摘できるかわかりませんが、すくなくとも地域分析、地域経済分析において藻谷さんの年齢層別人口の推移をみながら考えていくやり方は参考になります。私も市議会では、社会保障関連政策についていろいろ意見していますが、考えるときに最近は藻谷さんの手法をトレースして、保育の将来像、義務教育の将来増、高齢者福祉の将来増について検討するようにしています。
●ちなみに朝霞市で年齢層別人口の推移を確認すると、現在のところ少子化はなく、微弱な高齢化があるものの、バブル経済のよる地価高騰にぶつかった団塊の世代の人口は他市に比べて少ないことがわかります。したがって朝霞市において少子高齢化の対応をまじめにやると、かなり的を外した政策を取ることになります。
一番の課題は、私の属するアラフォー、1965~1975年頃に生まれた世代への対応です。現在はそれが保育所不足やマンモス校の存在として現れていますが、あと20~30年経つと、今の3倍ぐらいの高齢者福祉の需要になってきます。この頃、全国的には、まだ高齢者介護の需要は続いていますが、ピークは過ぎ、整備し終えた高齢者介護サービスを十分に活用できる段階に入り質を求めることが考えられる段階になりますが、朝霞市においてはサービスの量的確保に追われている状態となる可能性があります。
●アベノミクスによって一時的な経済浮揚が始まっていることについては一定評価しておきつつ、これが万能のものとはならない、場合によってはデフレ不況の克服策とは逆行するものになるのではないか、という冷静な判断が必要です。民主党が陥りがちですが、アベノミクスに対して何か言わなくてはと思うあまり、ケインジアンなのか新古典派なのかよってたつ経済理論がわからないような中途半端なクサし方をしてしまい、結果が出ているように見せている安倍政権から逆襲され、さらには対抗理論として根拠薄弱なことを見透かされるような批判をすべきではない、と思います。そうした間違いをしないための一冊だと思います。
| 固定リンク
コメント