6/25 社会保障と税の一体改革の採決にあたって
社会保障と税の一体改革があす衆議院で採決になるということで、自民党と民主党との力関係がこんな状態だとこういう落としどころしかないんだろうとわかりつつ、納得性の低い結果だったなぁと思っています。
社会保障については、何にも無くなったという言い方をする人がいますが、これは間違いで、最低保障年金や後期高齢者医療制度の廃止など、民主党が具体的な運用まで想定した構想を何一つ持たなかったし、慶大の権丈先生に言わせれば絶対できない政策を、この際と揚棄しただけの話ではないかと思っています。
子ども関係については、今の認可保育所制度が守られながら、新たに7000億円の財源がつくことになって、これは、今の保育所関係の国の予算の倍以上にあたる金額なので、かなり思い切った政策展開ができるようになると思います。
また国民健康保険の保険料軽減なども打ち出されており、貧困層の健康悪化を招いているこの制度の問題解決に向けて動き出す要素が出てきます。
介護保険の利用料軽減、保険料軽減、介護基盤整備などにも予算が投じられることになります。
生活保護の上に就労支援をかみ合わせるためのコストも計上されています。
そうした政策は、成熟した先進国になるために必要なことで、それを書き込んだメリットは率直に評価すべきではないかと思います。
問題は年金財源に使われる部分がかなりあるということです。年金財源はただちに雇用や消費に反映されず投資に回されるため、私は不景気のときには年金財源のための増税はすべきではないと考えています。
一方税の方は議論が迷走していて、私自身どのように評価してよいのかわかりません。ただ、先進国としては、それでも消費税は低いと思う一方、社会保障の改革が値切られて、財政再建のための増税の割合が高くなってしまっています。このことは景気を冷やす作用を産むと思います。
ただし、そうであっても増税が景気を冷やすという一面的な表現ばかりで議論がされて、それに対する打ち返しがギリシャみたいになる、という論争も、かなり不毛であり、無意味であり、未来に向けた創造性がまったくない話になっていると思います。
●増税について過去山ほど書きましたが、私の増税に対する考え方を整理しておきます。
〈増税の是非について・根源的な課題〉
・日本政府の財政状況は厳しく、30兆円程度の基礎的収支マイナスが存在し、未来のための新しい政策をやろうとすれば、増税を回避することはできないと受け止めています。
・社会保障分野については、従来、非効率な経済が内包してきた地域共同体、家族共同体に依存して解決してきたものが、そうしたものがいよいよ解体されて、西欧先進国並みに社会の力で解決せざるを得ない段階に入りつつある。したがって国民に不幸を強要しない限り、しっかりとした財政が必要だと考えています。
・私は社会民主主義者なので、人々が元気になれる政府の給付はしっかり整備し、生まれた環境が悪かったり、社会的なリスクに直面しても、努力できる社会にすべきだと思っています。そのために必要な財源はきちんと国民に負担を求めるべきだと考えています。
〈増税の使途と景気について〉
・社会保障の充実、特に介護や保育、医療、教育など国民生活に対する現物給付に関わる財源確保のための増税は景気とは関係なく、あすにでも必要だという立場です。いつも財源でぶちあたり、セーフティーネットをはりめぐらせることは失敗に終わり、むしろ底割れを起こす改革が行われています。宮本太郎北海道大学教授の認識と同じです。
質の高い社会保障、社会保障を支えるチープレイバーの解消と支える人材確保の課題などを解決していくためには、財源確保は不可避です。またそうした財源は不況時でも一定確保できる消費税がベターだと思っています。この増税は政府が吸収することなく雇用増と低賃金にあえぐ社会保障関係労働者の賃金改善にまわり、消費性向が上がり、景気には中立どころかプラスに影響するでしょう。
・財政再建のための増税はいつか必要ですが、今のような不況時、デフレ時にやってはならないと考えています。集められた現金は金融機関に回収されて、投機資金になるだけで、実体経済との乖離がひどくなって、これではデフレが悪化します。
・年金財源のための増税も、今はやってはならないと思っています。年金は積立金というバッファを通じて給付に回るので、年金のための増税を行えば積立金の運用を通じて投資資金となってしまいます。そのことは投機のための市場を過熱させ、やはり財政再建の増税同様にデフレ経済を悪化させます。社会保障のための増税というときに注意すべき点です。
〈増税の税目について〉
・所得税の累進強化については、考え方を保留します。所得を得る労力や社会的効果の割に、税率が低め設定されているキャピタルゲイン、利子、配当金課税については総合課税など強化する方向が必要です。
・相続税については、文化財保存などの理由を除けば増税が必要です。
・法人税については、国際比較もあり、国際的に法人税のダンピング競争をまず止める協定をすべきだと思います。その上で、長時間労働のために長時間保育が必要になっていたり、マンション乱開発して福祉ニーズを広げたり、財産権を楯に企業がやりちらかした結果としての社会に負荷に対する公正負担を求めていく考え方が必要であると思います。今の時代のように株主価値が重視され、内部留保を蓄積することが美徳とされている状況のもと、企業の活動の後始末を社会が行っていることについて、所得税と消費税を中心に処理することは限界があると思っています。
・現物サービスの社会保障財源として消費税は景気に影響されにくくもっとも良質な財源です。
・年金への財政支出のために行う増税には、所得に比例する給付になるので、逆に所得税を充当するのが好ましいのではないかと考えています。
〈消費税の逆進性について・技術的な課題〉
・消費税の逆進性について、目くじらを立てるような問題ではないのではないかと思っています。むしろ、学校給食費、国民年金保険料、国民健康保険の人数割、住民税の人数割課税、公的社会保障を利用したときの利用料、産婦人科や助産院での出産料など、消費税以上に問題のある負担はあると思いますし、個人住民税などは一律10%なので消費税同様の逆進性がありますが、問題になりません。
・消費税の逆進性を指摘する際、食料品が話題になりますが、日本では金持ちはそれに比例した食費をかけているという論もあります。
・社会保障の利用料関係や、社会保障の整備不全による私費負担のサービス、たとえば出産料や認可外保育所の保育料などの負担は改善され、それだけで逆進性の解消につながります。そういう部分に手厚く改革の財源を盛っていくことができれば、逆進性の問題をはるかに上回る効果が出ます。
・軽減税率には反対です。流通業者に多大な事務負担をかけることとがあります。特にコンピューター化されたこの社会でそのソフトやマスター入れ替えのコストは莫大なものになります。また、軽減税率の対象となる品目についても、肥料や農機具など工業製品であったり輸送費であったり包材費であったりして、そこは消費税を負担することになるので、差益の部分だけが軽減されるだけで、実際には最終の価格には大して効果がありません。
・どうしても逆進性解消が必要ということであれば、所得税の基礎控除を拡大したり、もっと低所得者に恩恵を与えるのであれば税額控除などを行うことが最も社会に負荷のかけないやり方だと思います。
●今回増税反対の小沢一郎氏は、自由党時代、消費税10%所得税廃止を公約にしていました。これは今回小沢一派が消費税反対を声高に叫んでいる理屈とはかなり矛盾する話です。最近はたった10年もたたない昔のことすらみんな忘れて、マスメディアに出ている今の政治家の「ふいんき」で話していることがもてはやされたり、罵倒されたりすることに、嫌なものを感じます。反原発政策などにもそういうところが表れています。
●マニフェストに違反しているのどうのという議論があります。確かに国民への約束が変更されたということは問題だと思いますが、政治というのはそういうことがつきもので、問題はその説明責任です。それでいうと野田首相には問題があります。しかし一方であのマニフェストは何なのというのもあって、実現可能性や財源との調整などおそろしくテキトーに決めていった過去があり、恐らく小沢一郎氏も実験を持ったらやりもしないことが書き連ねられていたわけです。そうしたマニフェストを何一つ見直さずに進もうというのは、怠惰としか言いようがありません。
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コメント
趣旨に大いに賛同します。
なお、一点だけ、事実関係が違うような気がしました。
>軽減税率の対象となる品目についても、肥料や農機具など工業製品であったり輸送費であったり包材費であったりして、そこは消費税を負担することになるので、差益の部分だけが軽減されるだけで、実際には最終の価格には大して効果がありません。
ここは「差益の部分だけが軽減」されるのではなく、全体が軽減されるはずです。
つまり、標準税率が10%、軽減税率が0%の場合、
仕入れ:110円(うち本体100円、消費税10円)
利益:100円
で、最終的に販売するものが標準税率の対象なら、
仕入れ110円+自分の利益100円+消費税10円=220円
で売ります。
一方で、これが軽減税率の対象なら、
仕入れ110円+自分の利益100円-仕入れ分の消費税の還付10円=200円
で売ります。還付があるのを忘れておられるのではないかと思います。輸出戻し税と同じ理屈ですね。
私も専門家ではないので、違っていたらすいません。
投稿: まろりい | 2012.06.29 18:01
>>所得税の累進強化については、考え方を保留します。所得を得る労力や社会的効果の割に、税率が低め設定されているキャピタルゲイン、利子、配当金課税については総合課税など強化する方向が必要です。
私は過去に累進性が大幅に緩和された経緯を考えれば、再強化すべきという立場ですが、キャピタルゲイン、利子、配当金の総合課税化によりそうした所得への税率アップをすることはもっと主張されるべきだと思います。
投稿: yi | 2012.07.01 19:59
軽減税率について、各人が構想しか打ち上げていない段階ですので、食料品の製造原価に入る工業製品の消費税の扱いについては、白紙だと思います。
これに戻し税をするとかなり税制としては複雑で、どこまで遡及して請求するかというのは、難しい問題となります。また食料品として売ったものが、工業製品として転用できるものであったりした場合も、かなり難しいと思います。
軽減税率というツールに固定した議論に振り回されるのではなくて、実際に経済的に困っている人にどのようにしたら消費税増税を緩和できるのか、と考えるべきじゃないかと思います。その結果、私は軽減税率というやり方は優れていないという結論になりました。
社会のシステムを複雑にしてまで消費税という徴税方法が否定されるものではないと思います。
投稿: 管理人 | 2012.08.18 12:34