6/2 生活保護の規制強化は景気にマイナス
生活保護の不正受給問題に関して、マスコミも世論もやや暴走しているのではないかと危惧を感じています。
生活保護に関しては、現在、十分な提供が行われておらず、これは補足率という数字で表現されています。対象者の2~3割しか生活保護が受給できていません。ですから、議員の圧力でもなければ、無茶な受給を受けている人はごくわずかと考えてよいものです。
また、生活保護費の大半は、医療扶助で、経済的に医療費を払えない方々です。この方々は、無保険の方もいますし、医療費自己負担だけが払えないという方もいます。続いては高齢者です。高齢者の扶助については、いくら働けといっても限界があり、無理に働かせれば今度は若い人の職場を奪うことになるだけですから、給付抑制ができないでしょう。そこで片山さつきや週刊ポストは「扶養義務」という明治民法の概念を引っ張り出してきたのだと思います。
法的べきだ論でいけば「扶養義務」だと思いますが、それが金科玉条のように絶対化できるかということは生活保護問題に関わる多くの人が指摘しているところです。
私は経済的な観念で「扶養義務」が徹底されて、果たしてそれで日本社会がうまく回るのか、という疑問を持っています。生活保護を規制強化せよということに賛同する方々は、財政のことが心配で寝ても立ってもいられないような方だと思いますが、それで社会の経済が回るのか、考えてほしいところです。
生活保護受給者に給付停止をして尻に火をつけて働かせることが景気にプラスなのか。私は否定的に考えています。そういう発想すること自体、仕事がじゃぶじゃぶ溢れている右肩上がりの高度成長期の価値観そのままだと思っています。雇用不況のもとで、求職者数をいたずらに増やすようなことをしても、さらに仕事の奪い合いになるだけです。また仮にそれで生産的活動を始めても、有効需要が低い状態では、生産力過剰の状態をさらに拡大して、デフレを悪化させる、したがって失業を拡大するという結果になるだけです。
また「扶養義務」を強化することは、個々の国民に「親族リスク」を拡大させることにほかなりません。それを生活保護で出せば社会でリスクを分担・共有することになるし、扶養義務で親族に押し込めば、リスクは個別化されることだけの話です。
国財政で3~4%の支出にめくじらを立てる代わりに、収入のなさそうな親戚がいたら、膨大なリスクを背負わされるとしたら、その人が優秀か優秀でないかにかかわらず、収入があっても貧困生活を覚悟しなければなりません。これが幸福な社会なのだろうか、と思わずにはいられませんし、税金で食う(私のような議員を含めた)公務員にとってはそれで財政か健全になって職場が守られるかも知れませんが、社会全体では有効需要を大きく押し下げる危険性があります。
親族リスクというのは本当に深刻なもので、食えない親族への扶養義務を誰が果たすべきかをめぐって、泥仕合が親族内でおこることでしょう。これはこれでまた親族や家族の絆を弱める結果となります。農業国の社会モデルでは農業をさせて家族の一員として扱うことはできますが、工業国で賃金労働者が多数の社会では、生産手段を食えない親族に分け与える手段はありません。親戚から、財布に手を突っ込まれることになるだけで、これはかなり人間のつながりを壊す作用を発生されることになると思います。
●私の祖父母・父は引き揚げ者だったので、戦後、無一文で帰国したとき、住まいや働くところをめぐって親族との難しい関係を体験してきております。なかなか話をしてくれませんでしたが、時折出てくる話から、祖父の兄弟関係が疎遠である理由がわかりました。
●まじめなマスコミは伝えていますが、生活保護の規制強化は、事務量を増大させ、かえって非効率になります。今日の読売では家裁に判断をもとめよという論調がありました。文系インテリにありがちなべきだ論だなぁと感じています。それをやっているヒマと手間は、ケースワーカーの専門的判断より効率的でまともな判断か゛されると思っているのでしょうか。単に客観性が担保されるだけですが、時間や手間は膨大なものになりますし、結果はケースワーカーの報告と大してかわらないと思います。
●もちろん稼働世代の生活保護受給についてただ出しておけばいいというものではなく、社会保障と税の一体改革の中でも若干議論されたように、職業訓練や労働の資質を高める教育などと組み合わせたアクティビィテーションとして取り組む必要があるのだと思います。来るべき景気回復に向けて、その労働力を温存・育成するというぐらいに考えてはどうでしょうか。
●政治家が生活保護の規制強化を言い合っている姿は片腹痛いとしか思えません。行政だってそう簡単に生活保護を認めているわけではなく、不正受給と言われるものの多くは、行政マンがはいはいと出している事例はなく、暴力団等に関わるような不当圧力によるものか、議員の口利きであろうことは容易に想像がつきます。不当圧力についてはだいぶ防御するようになったので、残るは議員です。不正受給を追及する際には、当然、同僚に対して衿を正す姿勢が必要です。せめて生活保護に関する議員の照会や口利き記録の公開ぐらいは提案しないとまずいと思っています。
●その片山さつきが埼玉県知事に出るという噂がたえないんですよ。困ったものです。政治家が個人攻撃をするものではありません。その苦痛に対して、かつて社会党系女性国会議員が訴えられました。判決では免責されたものの、本人はその後の選挙で落選を経験し、そういうことはすべきでないというモラルが確立していたかと思っていましたが。
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