2/3 岩波書店のコネ採用を擁護する
岩波書店がコネ採用を公然と行っていると、NHKあたりが騒ぎ始めている一方、ユニクロの外国人との差のない採用が賞賛されている。何かそのコントラストの付け方に違和感がある。
一つは、チェーンの小売業で大量に人を必要とするユニクロと、せいぜい200人しか従業員がおらず、知的品質にこだわっている出版社とで、採用のあり方は全然違うのではないかと思う。
数については本当に弁護したい。想像してほしい。200人の企業にどれだけの採用担当者がいて、そこに1000人が応募したらどういうことにになるかだ。日本の中堅企業が従業員数1000ぐらいではないかと思うのだが、そこに5000人が応募して、まともな採用審査ができるかということである。実は私の前職の自治労でも、50人の職場で毎年1~3人程度採用するところ、2000人が応募してくる。数ヶ月間1人の職員が専従となり、皮肉な話だが派遣労働者も借りて、何とか処理している。このぐらいの倍率になると、公務員試験のように機械的に点数で足切りしたりせざるを得ない。
コネがなくても門戸を開けなどという人がいると思うが、200人の企業の職員採用だったらコネのある人のなかでも優秀な人は選べると思う。それに今回は著者のコネという条件もあり、岩波書店のような硬派の出版社で働く意欲があるなら、岩波新書の1冊や2冊はファンになって、著者の1人か2人とは推薦状1つ書いてもらえるぐらいの関係づくりができているべきじゃないかと思う。
ところで世の中の企業はほんとうに一般公募でやっているのだろうか。
一般公募といいながら、コネも何もなければ採用しない企業なんて山ほどある。だから就職活動の学生は一年以上かけて必死に企業の従業員に接触しようとするのではないか。国会議員や企業経営者の二世三世で選挙に出てくる候補者の前歴を調べると、テレビ局や電通に、在籍年数から数えるとどう考えても腰掛けでしかいなかったなんてのが珍しくない(で、こうした企業や企業に腰掛けさせてもらった政治家候補者が小泉構造改革を賞賛していて、本当の既得権益というのはこういうところで守られているんだと実感しました)。こうしたところは全部でないにしてもコネ採用があると言わざるを得ない。
どうも採用というのは入学試験のように画一的な基準があってかっちり採用されなくてはならない、という思いこみ自体を否定してかからなくてはならないと思う。
企業といのうは個人同様、多様性があるべきだし、そのことで資本主義社会は公正な競争が行われれば発展をしていくものだと思う。そのためには従業員の採用は、企業の専権事項だと思う。
しかし企業の裁量と開きなおっばかりいてはいけないことが3点ある。
一つは採用差別の問題である。被差別部落や男女などの差別は基本的人権の考え方からやはりやってはいけない。しかしそれの歯止めが関係団体の糾弾しかないというのもなんだか問題のような気がしている。もちろんこんなこと条件にされたのでは採用差別だと思っても、社会の側がそう認識しないでまかりとおっている採用差別もある。転勤拒否者やシングルマザーを採用しないことなどがそれである。
一つは、黄犬契約である。労働組合に入らないこと、脱退することを条件に採用することである。これは法律で禁止されている。黄犬契約のの防止のために、労働組合が採用内定した人に面接する職場もあると聞いたことがある。
もう一つは、日本の企業の採用は、公務員に限らず身分丸ごと買い上げるやり方をしているため、必要な能力で採用されるものではないということだ。採用試験の試験科目、面接で聞かれることのほとんどが職務と無関係で、学校社会での学習態度と人格調査を問うものばかりである。生きる力だの人間力だの試されるのはその延長にある。
そうした中で、企業が応募者に求める最初のハードルはただ一つ、忠誠度である。裏切らないということ。足を引っ張らないということ。
そういう条件である限り、選考基準はコネ的なものか、面接を含めて受験勉強的な抽象的な努力である。岩波に対する批判も、何も、採用が職務ではなく受験勉強的な能力を公正と社会が納得しているとこに病理があるのではないかと思う。
●自治労本部の採用試験は、かつては紹介者を重んじてきたが、入職前に社会運動を経験してきた人が少なくなってきたことをふまえて、15年前ぐらいから紹介者を問わない一般公募にしている。21世紀に入り本格的な就職難になってから、抵抗勢力だ何だと社会の敵のように言われる中で、応募倍率が500~1000倍ぐらいになっている。
●大事なことは岩波書店が、今出している本の品質を落とさず、一定層の読者をつかまえて、倒産しないようにすることである。
●共産党や朝鮮総連はコネ採用・親族採用しているんじゃないか、と皮肉で同意を誘う意見をいただいた。実態はよくわかりません。擁護するわけではありませんが、こういう団体、共産党や朝鮮総連は物やサービスを売って成り立っている組織ではなくて、メンバーシップの信頼関係の中でしか成り立たないので、誰だかわからない人を簡単に雇うわけにはいかず、そういうことは必要な面もあると思う。党支持者のことをバカにしているけど赤旗をノルマだけきっちり売って配ってくるからいいんだ、では共産党が党職員として雇うわけにはいかないと思う。団体の専従者がどう採用され、働き、退職すべきなのか、辞めたいまでもあれこれ考えることが多い。
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