7/3 電力料金に原発事故リスク分を加算した方がいい
原発撤退のコストについて、小出しに報道がされている。
20年後の電気料金、原発撤退なら月2千円増(読売新聞)
月2000円で安心が買えるなら、それでいいじゃないかと私は思う。
本文中にもあるが、事故リスク含めて原発存続のコストが電力価格に上乗せされたら、こんなものでは済まないはず。原発の事故リスクのコストについて、誰も計算に入れてこなかったことから、脱原発によってコストが上がるという話が展開してしまっている。
私は昨今の反原発派にも問題があって、原発事故のコストを価格に転嫁するな、とか発送電分離、などコスト比較ができなくなるような議論を展開し、結果として原発存続の方がコストが安い、という現実を作り出してしまっているように思う。
自分を含めて東電ユーザーには申し訳ないが、事故コストを電力料金に(全部か一部かは議論のしどころだが)転嫁してはじめて、コスト論での原発存続論をつぶせるのではないかと思っている。これを全額政府の金や、発送電分離の送電事業売却資金でまかなったとしたら、原発利用の痛みは全く自覚されないまま、原発問題がうやむやのまま推進され続けることになるではないかと思う。
●発送電の分離には正直のところ反対。
結果として同じ電気を購入し、同じ経路をたどり入手している電力なのに、送電施設だけ売却してどこからか現金を捻出するという話に、何か変だと思っている。落とし穴や副作用はないと思えない。小泉構造改革のようなものを感じる。あのときも小泉元首相はサヨク的な価値観のうち個人主義的な部分を強調し、絶叫していたわけで、地獄の道はなんとかでしきつめられている、という話ではないか。同じく原発の事故補償について東電だけで何とかしろと言う一方で電力料金の値上げけしからん、と言っているような人はおそらく発送電分離による現金捻出を念頭に置いているのだと思うが、それでいいのかと思っている。
また、推進論者は、発送電分離をすれば送電会社が自然エネルギーを買い取ってくれると楽観的な見通しを示しているが、現実にはまだコストの高い自然エネルギーによる電力を優先して購入するとは思えず、逆に、経営上の都合で送電業者が受け取り拒否した場合、どうなるのか、という議論がされていない。
現時点では自然エネルギーによる電力の強制買い取り制度などを実現すべきで、そのためにはある程度公的な地位を持った会社がきちんと存在する必要があると思う。さらには今のような完全民間企業ではなくて、利用者とのコミュニケーションで成立するような仕組みが、経営的には非効率でも公的な存在である以上、必要ではないかと思う。
地域小電力への対応が必要だが、これはある独占を緩めて対応する必要があっても地域で作った電力をその地域で消費する仕組みを前提に考えるべきで、発送電分離で間に送電業者が居座ることの弊害をむしろ危惧している。売り物になる送電業者というのは、それなりの独占性があってこそのものだからだ。
また電力がバラバラの会社をたどって供給されることの不安はぬぐえない。今、私のところに通じている某社インターネット回線がそうだが、結果として発生してしまった停電などに、何時間にもわたって会社間で責任のなすりあいのやりとりにつきあわされる危険性がある。
●会社をバラバラにして売ったり買ったり事業譲渡して現金を作るような行為はある程度必要と認めながらも、そのようなことを全面的に正当化するような議論について、私は倫理的な問題を感じている。全員ではないが、反原発運動をやっているようなヒューマニストたちが、数年前、従業員や顧客や商品をそっちのけで会社や土地を切り刻んで金融商品的に取引することを「ハゲタカ」などと呼んで蔑んでいたのは何だったのかと問いかけたい。
●昨日の白が今日は黒みたいなご都合主義的な展開が多いのは政治だけではなく、社会全体がそうなっている。イデオロギーは嫌いだが、運動に携わる者、もう少しは思想が必要だと思う。
20年後の電気料金、原発撤退なら月2千円増
東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、原発存続の行方が注目される中、日本学術会議の分科会(委員長=北沢宏一・科学技術振興機構理事長)は、原発の撤退から現状維持・推進まで六つの政策の選択肢ごとに、標準家庭(1か月約6000円)の電気料金が、どれくらい増えるかの試算をまとめた。
原発を放棄し、太陽光などの再生可能エネルギーに移行した場合の負担は大きく、逆に維持すると負担は小さくなるが、同分科会は、今後、原発の安全規制が強化され、存続しても負担増になる可能性もあると指摘。秋にも最終報告をまとめる。
試算は、エネルギー政策の議論に役立てるのが狙い。政府や大学などが公表する発電コストのほか、温室効果ガス削減の国際的取り組み、15%の節電、人口減少、原発の安全対策などにかかる費用をもとに検討した。選択肢は、大きく分けて原発の「撤退」、全発電量の約30%を原子力が占める「現状の維持」、50%まで拡大する「推進」。撤退は、全原発停止の時期によって4ケースに分けた。
現在、稼働中の原発が定期検査を迎える来夏までに全原発が停止した場合は、火力発電に切り替えた後、温室効果ガスを減らす再生可能エネルギーの比率を高めていく。国際的な削減目標を達成するための対策が本格化する2030年には、標準家庭1か月の電気料金の上乗せは、2121円と算出した。
(2011年7月3日03時16分 読売新聞)
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コメント
> 反原発運動をやっているようなヒューマニストたちが、数年前、従業員や顧客や商品をそっちのけで会社や土地を切り刻んで金融商品的に取引することを「ハゲタカ」などと呼んで蔑んでいたのは何だったのか
そう言えば、その手の「ご都合主義的な展開」って、昨今一部で議論に上っている(?)電波オークションにも当てはまる気がしますね。
いみじくも、公的な財産(というかそれに近い存在)を市場原理に委ねてしまおうって発想は郵政民営化と殆ど同じなのに、郵政民営化に反対していた面々ですら電波オークションには賛成だったりするんですよね。しかも、特殊法人や特定局って悪役がマスコミに置き換わっているとこまで一緒。
何か昨今の政治論議って目先の問題ばかりに目を奪われて「裸踊り」に狂奔している様に見えるのは僻目なんでしょうかね。
投稿: 杉山真大 | 2011.07.03 18:13