11/12 政府の待機児童対策特命チームの議論を読んで
政府の待機児童対策が練られているが、大阪市、足立区、三鷹市、ベネッセ、フローレンス、江東区などのヒアリングを重ねた結果、規制緩和の特効薬と新自由主義者たちから強烈に求められてきた認可保育所の面積基準、人的配置についての緩和は見送られる方向になりそうで、最低限のところは守られそうとほっとしている。荒ぶる魂の菅政権のもと心配していたが、長年この問題に携わってきた小宮山洋子氏や泉健太氏が主導するかたちでまとめて、ほどよく規制緩和する穏当なところに落ち着きそうだ。
待機児童ゼロ特命チーム会合 第2回
待機児童ゼロ特命チーム会合 第3回
現場の担当者たちが、待機児童対策で必要なこととして、人的配置の緩和については一切触れられなかったこと、面積基準の緩和についてあまり効果がないと言っていることが効果的だったのではないか。この中でもっとも規制緩和派であるフローレンスの駒崎氏までがこの2点について緩和せよという立場でなかったことが良かったのではないか。
多くの首長の言っていたことは、短絡的な規制緩和ではなくて、①認可保育所は自治体の超過負担が多く財政的に維持できない、②保育所の用地確保が困難、③保育所を運営できる事業者の不足、などが代表的なもので、原因についてはマンション開発にあり、ということも共通していた。
その指摘は非常に的確で、90年代後半から再び待機児童問題が騒がれ初めてかれこれ12年、ほんとうの原因にたどり着くのにこんなにも時間がかかったのか、と思った。振り返ればこの課題は、変な利権と結びつき公的な価値を崩壊させようとして自分の経済学説に拘るだけの経済学者たちのふりまわしに混乱させられてきたと思う。
不安は感じるものの、経営形態の多様化、形式の多様化というところ、安全のための社会的規制は遵守させつつ経営者サイドの努力を評価し促す方向に動いているようだ。
用地不足ということが課題なのですでに国レベルで緩和されている園庭の必置義務の緩和は徹底されそうだが、公園等が活用され、そのことによって地域での公園を活用する保育所に対するネガティブキャンペーンが行われなければ、待機児童問題が発生している地域に限ればやむを得ないと思う。
また今回江東区の小規模保育所「おうち保育所」が事例として推奨されて奨励される見込み。ベビーシッター型の保育ママ制度から、保育ママ制度を活用した小規模型の保育施設に国費が突っ込まれる可能性も出てきた。これについての是非はもう少し見ていこうと思うが、フローレンスのプレゼンにも入っているように、地域の専業主婦資源依存のベビーシッター奨励策より密室性がなく、協同的な運営になることは前進だろう。
議論の中で、待機児童問題が発生している自治体が、おしなべて地方交付税の不交付団体ばかりであり財政に余裕があるとみなされ(詳しく書くとまた1記事できあがってしまうが)、保育所を作っても、それに見合った国の保育予算が基準財政収入額の範囲に吸収されて自治体に入ってこない問題が指摘されている。都市部において保育所は自治体の持ち出し・超過負担が保育所増設のネックになっている。
この原因は①地方分権改革で補助金改革として真っ先に保育所運営費が挙げられやられたこと、②地方分権的な基準設定で東京都など都市部の保育基準が高いことである。
②についてはいろいろあるがまた別の機会にしたい。①に関して、これは保育所運営費補助金を地方交付税にした弊害だ。当初、財源を地方分権すれば待機児童問題は解決できるとするようなチチンプイの論理があったし、歴代の政府が行政学者や経済学者の意見ばかりを聴き、効果やあるべき具体的な帰結を想像もしないで原理主義的に地方分権を進めたことの問題だろう(安全にかかわる分野はどんどん地方分権しているのに、趣味的な事業が多い国土交通省がらみは交付税化されず補助金または交付金で中央官僚の統制を死守しているんだよな。ほんとう対照的)。使途をある程度制約しつつ、細かい制約を課さない交付金化するのがあのときの落としどころだったのではないかと思う。
ヒアリングの結果出てきているものは、需要追随型の対症療法的な待機児童対策ばかりであることが限界。
待機児童問題の原因として今回のヒアリングで自治体側が指摘したのは①共働き社会への変化に対して、社会が何もできていない問題、②マンション開発だ。①ついての議論はされても、②の議論がされていない。
今回のヒアリングで待機児童問題が発生している自治体が原因として共通して指摘されているのは、マンション開発。根本には住宅政策があり、焼畑農業のようなマンション開発があると思う。不動産業者が子育て世代をターゲットにもうけるだけ儲けて、その尻ぬぐいを自治体にさせて売り切ったら知らん顔でトンヅラしてしまっている(不動産屋ってそういうビジネスモデルなのかという疑問もある。建物を上に向かって建てて土地価格をつり上げて売り抜けたらボロ儲けできる今の不動産業界の常識を変えないと)。いくら保育所を作っても次から次にマンション業者が財産権をタテにマンションの建築確認申請を出して通してしまえば、後は何の規制もできない。建築確認申請に自治体が難癖つければすぐ訴訟をちらつかせられる。そして自治体財政は痛めつけられる。
マンション開発に対して自治体の規制が一切できない状態が続けば、待機児童対策はもぐらたたきゲームのようになるだけ。同じ市区町村内でも、10年したらその地域に保育所がいらなくなって、全然他の地域で待機児童問題が深刻になる、ということが避けられない。マンションの開発規制や、都市部での成熟した住宅地の育成、中古マンションのための市場育成、新たなマンション開発にあたっての保育所設置義務など通じて、需要の側のコントロールが必要だ。
●相変わらずなのがベネッセスタイルケア。待機児童問題の有効な対応策をあまり提言せず、観念的な保育理念ともうけを他に使わせないと株式会社が参入しない、という自分のエゴしかプレゼンしていない。自治体が保育所の民間参入の敷居を下げない理由は、新自由主義の経済学者と結びついて経済原理の正義ばかりふりかざして、公益性をふまえない議論展開と公立保育所批判しかしない大手民間保育所業者たちの体質にあると思う。公費を投入するのだから、使途についてては社会合意が必要。それが形成されるよう納得性の高い議論を展開し、民間保育事業者自身の情報公開を進め、使途が変な使われ方ではないと証明するなど、努力しなければ、通らない話だと思う。
そもそも民間大手保育事業者の利潤の大半は払うべき人件費と実際に払った人件費の差額。
●朝霞市内も相変わらずマンションの乱開発が止まらない。ようやく住宅を購入して転居してきたて、住宅ローン返済のためにも共働きしようとしている家庭が、保育所不足の壁にぶつかる。
●マンション開発がゆるやかに進んできた新座市がここ数年、ひどい開発ラッシュになっている。開発が進んでいるところが市の中心部から離れているため、保育所も少なく、ひどい問題になっていくのではないかと心配している。
●認可保育所は制度としての完成度が高く、労働組合としてはこれを軸に守っていくというのが本筋。ただ私の中では、こうした保育所制度と経営主体が多様化する中で、人的資質に依存する保育の質を守るためには、認可保育所の水準を到達目標にしながら、認可保育所以外の新たな保育で従事する保育労働者を組織化して、安定した職場環境や、現場からの職場改善、看護士のような共通のベースとなる労働条件の考え方がきちんとされる仕組みを作っていくことが必要だと思っている。労働組合側の組織化の努力不足もあるし、逆に民間保育経営側がベンチャー型経営者か善導主義の家父長的経営者が多く、その体質から労働組合嫌いが強いことも克服してもらわなければならないと思う。
ミニ保育所増やして待機児童減らそう 特命チーム原案2010年11月12日8時52分朝日
待機児童の解消を目指す菅直人首相の「待機児童ゼロ特命チーム」が、「保育ママ」が複数で子どもの世話をする「ミニ保育所」の普及や、一定基準を満たした認可外保育所への補助拡充を柱とする対策原案をまとめた。財源には「安心こども基金」を活用するほか、来年度予算案に60億円程度を盛り込むことを想定。週明けにも関係閣僚らが修正・追加点を検討したうえで最終案をまとめ、正式に発表する予定だ。
原案は、待機児童の約8割を占める3歳未満児の解消に焦点を当てる。
保育ママは、保育士や一定期間研修を受けた人が、就学前までの子どもを自宅で預かる国の事業。家庭に近い環境となる一方、保護者からは質の担保などを心配する声もある。また保育ママ側も、個人で子どもを預かると体調が悪くても休みづらく、担い手が不足しがちだった。双方の不安を解消するため、複数の保育ママが1カ所で子どもを預かる「ミニ保育所」の普及を目指す。
このため、現行では個人か保育所に限られている保育ママの補助対象を、NPO法人など多様な事業者に拡大する。全国一律の賃貸料補助(月5万円)も、都市部など賃借料が高いところは国庫負担を引き上げる。事業者が複数の保育ママを雇えば、保育ママの代替派遣が可能となり、処遇改善にもつながるとする。
参考にした先進事例のひとつは、NPO法人がマンションの1室を借りて、3人の保育ママが9人を預かっているケース。賃貸物件を利用することでコストを低く抑えられるほか、複数の目があることで利用者にも安心してもらえるという。
■待機児童解消に向けた特命チーム原案■
・複数の保育ママが集まって子どもを預かる「ミニ保育所」の普及
・保育ママの自宅改修費や、自宅以外を借りる場合の家賃への国庫補助引き上げ
・保育ママ事業の運営主体をNPO法人へ拡大
・基準を満たす認可外保育所も補助対象に追加
・保育事業者が都市部で土地を借りる際の賃借料を補助
・事業所内保育所への補助要件を緩和
・認定こども園の定員要件を引き下げ、参入を促す
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