10/5 民主党のエートスを理解できる「民主党政権への伏流」
仕事でお世話になっている編集者兼ジャーナリストの前田和男さんから「民主党政権への伏流」という本を送っていただく。
実は、先日メールをいただいて買おうかどうか迷っていて、前田さんが硬派から軟派の本まで書いているので、軟派な民主党本なら買わないでおこうと思っていたので、申し訳ない思いで手にする。
民主党の設立に何らかのかたちでかかわった、非議員、落選などで議員として関われないまま政治生命を終えた人たちのルポルタージュで、私がずっと読みたいと思っていたものだった。
民主党は政権をとるまでさまざまな変化をしてきたが、民主党という言葉の裏側につくエートスみたいなものは、まだ旧民主党のものが核になっているように感じている。おっちょこちょいで、統治能力に何度も疑問符がついている菅直人や鳩山由紀夫がいつまでも人的シンボルとされているのもそれだろう。やがて彼らも引退する時期がくるにあたり、理念を表す綱領や、組織論が確立しない限り、民主党がいかなるエートスを持つ集団なのか、とらえて行動せざるを得ないし、それが失敗した暁には、民主党は新進党のように崩壊することになろう。
しかし読み取るべき旧民主党のエートスは、有から無を経て有を作った設立の経緯から、何か読み取るのは本当に複雑で困難である。最大多数派であった社会党の理念も組織論も否定したし、さきがけのような青臭さだけでもない。生活クラブ生協系の政治運動も入っていてるし、政府の役割もリベラルからソーシャルまでなんとなくごった煮になっている。しかし一定の空気や行動様式の塊みたいなものはあり、それが民主党らしさを形成し、党が危機になる都度、そうではない解決策を選択してこなかった。
そうしたものを探るのに、今までそれを明瞭な言葉で読み取れるのは、横路孝弘や高野孟の自著、菅直人のインタビュー、新聞記事など限られたものしかなかった。選挙で責任を負わされる政治家が当事者として当時のことを無用に書いて混乱を生じさせることはできないだろう。そういう意味で、今回、落選したままの元議員と、政党や政党の準備段階の裏方のみなさんの証言を集めたことは有意義な作業だったのではないかと思う。
取り上げられたのは、元議員で錦織淳さん、松原脩雄さん、研究者で高木郁郎さん、住沢博紀さん、政治の裏方として金成洋治さん(細川元首相の側近)、三浦博史さん(平成維新の会、現選挙アドバイザー)、仲井富さん、河野道夫さん(村山首相秘書官)、若尾光俊さん(オリーブの木運動)、松本収さん(リベラルフォーラムアドバイザー)。
私の関心のあるところでは、仕事に近い、リベラルフォーラムの政策アドバイザーから民主党結成にかかわった裏方の松本収さんのルポルタージュ。松本さんは、私の先輩同僚ともいえる北海道庁の組合雇用の職員から、90年代の政界再編の渦中に東京に連れてこられて、旧総系労組や社会党を開かれた党にしようとした運動をベースにした新党運動の事務方を始める。旧民主党の設立に中心的な裏方として奮迅し、横路氏や、仙谷氏とのかかわりを中心に、民主党の結党までの経緯をまとめてある。
●もう一つ、市民運動をコーディネートしていた須田春海さんの採録集が届く。東京を中心に市民運動をタコツボ化させないために努力された須田さんの過去の著述を読むのが楽しみである。
●連合のシンクタンク、連合総研の月報「DIO」に小野善康阪大教授が取り上げられる。経済学になれない人には2~3度読み返しながら読み進めるような内容になっているかもしれないが、文章自体はわかりやすく、ロジックは難解ではない。雇用創出と景気、増税と財政について非常に容易に理解できる文章である。
濱口桂一郎さんも紹介しているが、最後の文章が良い。
増税による税収を使って雇用創出を行えばよいということに対して、これまで「私には何の得にもならないのに、なんで失業者の雇用のための税金を取られなければならないのか」という反応がたくさんありました。
こういう考え方になるのは、目先の分配のことしか頭にないからです。好況で生産能力がすべて使われているなら、これ以上物やサービスを増やすことができないから、財政政策によって購買力が自分から他人に渡れば、その分だけ自分の消費できる分は減って、他人が消費できる量は増えます。だから損だという主張が成り立ちます。しかし、現在は生産能力が余っている。それを少しでも活用することができれば、経済全体で提供される物やサービスの総量が増えるから、国民全体の便益は必ず上がります。
具体的には、失業者を雇用して介護や保育、耐震化などの社会資本整備を行えば、その分国民生活の質は上がります。それに失業者に払った給与はさまざまな必需品の購入を通して就業者に戻ってきます。さらに、雇用状況が改善すれば、いつ肩たたきにあうかと思っていた就業者も安心しますから経済全体の消費も所得も増えて、経済が活性していきます。
日本は使い切れないほどの生産力があって不況になっているのだから、国民全体がこうしたマクロ的な視点で考え、いまある生産力をフル稼働させるだけで、十分に幸せで安心な社会を実現することができるのです。
問題は菅政権の中枢部がこうしたことを聞いておきながら、どうも理解できていないと思える節が多いことだ。
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コメント
菅首相の場合「増税して雇用創出」を理解していないのではなく、「一時不利益に感じても全体的にプラス」という事を強く言えない事が問題のように見えます。小野教授の考えを閣僚がどう考えているか分からないのも気になりますが。
投稿: horace1225 | 2010.10.06 20:21