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2010.10.13

10/13 鈴木亘氏の再評価は中止。相変わらず改革勢力vs抵抗勢力の新自由主義神話

文芸春秋の鈴木亘・学習院大教授の保育所の論文を読む。

少しはまともになったかと思ったが、やはり勧善懲悪物語。東京の公立保育所にお金がかかりすぎるという話をむりやり待機児童問題に結びつけ、世間のルサンチマンに呼びかけて、自らの経済イデオロギーを押し込むパターン。

とにかくこの人の頭にあるのは民=効率的、公=非効率という決めつけと、世の中改革勢力対抵抗勢力という単純な社会に対する理解。
民と公は統治・被統治の関係しか思い浮かべられないのかも知れない。それぞれ一長一短あって、その時々にその目的に応じて使い分けるべきものだと私は思うのだが。

儲かりもしなくて、労働集約型産業で、ガバナンスが容易でない保育所事業は、公費の積み増しがなければ儲からず、人件費が高騰すればたちまち経営方針を転換しなければならない。規制緩和したからと、バウチャー制にしたからと、容易に公立保育園以上の質の保育事業者が参入するとは思えない。
いきがかりに思い入れがあったり、脈略のある人が経営していない限り、長続きしない。
下手な小細工をして、制度を複雑難解にしたり、収拾のつかないトラブルに備えながら民間参入を無理矢理促すことがどうなのかと思うところもある。
規制ゆるゆる民間参入促進路線をいくらやっても効果がないと私は思う。あまりやりすぎると、劣悪事業者を招き入れる危険性が排除できなくなる。
それより、待機児童問題が問題なら、保育所が増えるかだけを考えるべきだ。いくらやっても事業者が出てこないなら、明治期の鉄道建設や製鉄事業ではないが、東京都内では公立保育所を肯定して公立保育所の新設を求めた方が問題解決が早いのではないかと思っている。そもそも23区全体では税金が余っており、保育所が思うように増えないのは、コストの問題より、土地取得や、開発とのバランス、住民の専業主婦率の高さなど、もっと別な複雑な問題があると考えた方がよい。

鈴木氏のような勧善懲悪物語を信じて改革やってみて、今の保育所にまつわる諸問題、特に、最大の問題となっている待機児童問題が解決するんですかということ。この問題、そんなに甘い問題じゃないというのは、いろいろな話を聞くとよくわかる。

●また鈴木氏が取り上げる事例が、分権のゆがみというか、保育料2万円で保育コストが50万円などと指摘するが、これは東京の自治体の独特なやり方のせい。それを厚生労働省の周辺に圧力団体が暗躍しているというような評価の仕方は、保育制度について全く理解していないとしかいいようがない。厚生労働省はこのような極端な保育料とコストのアンバランスを認めるような路線は敷いておらず、むしろここ10年は逆方向の施策を打っている。平均所得が300万円ぐらいの自治体で、月5万円以上の公立保育所の保育料を徴収するよう指導している。東京の極端な話は、地方分権的な文脈のなかで形成されてきたもの。

●鈴木氏が保育所不足で苦しんだいわれが書かれて、それはそれでよかったが、どうも話の内容から武蔵野市ばかり出てくる。
富裕層が住み、専主婦率が高く、安価に保育所を整備できた高度成長期に十分に整備してこなかった自治体。そういうところが急に共働き率が高まり、保育ニーズが急激に発生して困っている。認可外保育所などの緩和的なシステムも十分に地域に育っておらず、ひどい思いをするのは当たり前という状況。つい最近まで、給食もなかったという。
共働き+子育ての人が住むべき街と住んではならない街とがある。

●鈴木氏を再評価できるかと思ったが、やはりダメ。もっと役に立つ議論をしてほしいものです。

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コメント

鈴木氏の
http://webronza.asahi.com/synodos/2010100600001.html
”志をもって辞めた官僚OB”
という表現に苦笑しました。
在職中はどんなに頑張っていても敵、同じことを続けていても、所属を辞めたらその瞬間から志の高い仲間。自分がどんなに幼稚な二分法の世界に生きているのか理解していないのでしょうね。

http://kashino.tumblr.com/post/1365417335
この方は一般人の鈴木先生賛成派(?)みたいですが、
自己観測範囲とか経験でしかモノを語るのは
専門の学者さんとしてはご遠慮ねがいたいものです…

投稿: 匿名希望 | 2010.10.23 06:12

間違ったことおっしゃっているわけではないと思うので、次回からは匿名などと言わずに、本名またはハンドルネームをつけて投稿してくださいな。

それはともかく、前者はまったくおっしゃるとおりで、小泉構造改革の化石みたいな発想です。

後者については、ひどい文章ですがいくつか真理を突いています。
地域社会の保護者会連絡会は、某党派に牛耳られていて、イレギュラーな保育を利用している人への差別、保育者のわがままに近い要求に対する迎合、発達段階論を信じない人への冒涜など行われているのは事実です。昨今の福祉政策の市民参加に猛烈に抵抗するのもこの勢力です。私のまちも某党派の市議によって封じられました。
しかし、研修者ならその党派を見破ってくださいなとも思います。この件では罪のない社会党を巻き込むのはよくないと思います(むしろ旧社会党系はもっと保育問題に関心を持ってもらいたいぐらい。その無策ぶりに強い自己批判を求めたい気持ちだ)。
また、プロ市民を批判しているようですが、アメリカのように新自由主義が貫徹される国でも、欧州のような協議を重視する社会でも、交渉の前面に立つ人が雇われ活動家であることは珍しくありません。そもそも仕事との両立で追われる保育のユーザーの場合、保護者自身だけで運動を作ることは相当難しく、雇われ活動家を使うというのは有効か知れません。相手は公務員というプロ市民&組織力なんですから。
問題はそうなったときに雇われ活動家としての質だと思います。民営化反対闘争してもいいですが、それしかできなかったり、地域の民間保育所への差別意識を蔓延させるというのでは失格でしょうし、それなりの困った人へのニーズに対する処方箋を示せないといけない、社会連帯をきちんと形成できるかどうかも試されるでしょう。
公立保育所を利用している自分たちさえ良ければいい、具体的な問題解決への処方箋がかけず、増税はいやだし保育料負担はいやだし、しかし保育料下げろ民間委託阻止、という誰かの責任ありきの保護者会活動では早晩破たんをきたすし、コネ入所した人の保護者以外の求心力低下はまぬがれないと思います。
何言っても最初から結論が決まっているような運動はただの消費財。購入して済ます対象であって、積極的に参加して汗をかきたいと思いませんから。

投稿: 管理人 | 2010.10.23 06:58

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