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2010.06.14

6/14 消費税増税の議論についての補足

所得税の累進強化と相続税の課税ベース拡大がたいした税収増にならず法人税引き上げは難しい、と書いたことにご意見をいただいているので、説明したい。

主にこの意見に反対される方は、消費税増税の前に所得税の累進課税の強化と、相続税の課税ベースの拡大と、法人税率の引き上げをやれ、という主張をお持ちで、かつそれが所得の再配分にも、消費税増税も回避できると何もかも混同されている方々なのではないかと思う。

私は課税のモラルの問題としての所得税の累進課税の強化と、相続税の課税ベースの拡大はやるべき、という点については、批判してくださる方々と価値観が一致している。

しかしそれだけで消費税増税を回避できるほどの税の欠損が補えたり、保育や教育や医療に必要な財源を確保できるのかというと、そういう額にはならない。申告所得のある人だけでも年収1000万円以上の人は5%しかいない。この人たちに、消費税増税に補えるほどの税収を期待できることは、まずありえない。同様に相続税も課税ベースを拡大してもさほどの効果はない。

相続税の課税ベースを拡大する目的は、相続によって得られる財産が所得や消費などに比べて不労所得の色が強く、それなのに所得や消費課税より税金がサービスされているのであれば、財やサービスを作る努力より相続にうまみがあれば、努力がばかばかしい社会になるからやるべきなのであって、それでやはり不足したり必要な財源を用意できるわけではない。余談だが、財産の使途を大きく制約される国宝や文化財などを相続した人に、他の人同様の相続税を課すことはナンセンスであろう。

消費税引き上げで景気が冷え込んで、税収が落ちたという批判もいただいたが、これは見解の違いだろう。このときは税負担の変更のほかに、橋本行革と称して、急激な支出の絞込みが行われた。その後、あまりにもひどい景気の落ち込みがあり、小渕政権に移行して、公共事業の大盤振る舞いが行われた。1998年の景気の落ち込みは、たかだか2%の消費税の増税だけではない。
むしろ、増税をせず未来に確信の持てない福祉や医療を享受し続けることによる将来不安の方が不況原因である。とにかく大多数の人が多額の現金を残さずとも、転職支度金以上の退職金などというものがなくても、安心できるような社会にしなければ、現金保有願望こそが不況を作り続ける。

法人税については、日本の場合外形標準課税がないため、赤字申告企業に課税できない。6割が課税できない企業であるため、残りの4割の企業が今の法人税を負担していて、まじめに税を申告・納税している輸出産業を中心とする法人には、かなり過酷になっているという話は一理ある。これも諸外国との比較の話で、輸出産業が納税者である以上、やはりあまりにも諸外国との税負担の格差があれば、下げるのを止めることができても、上げろというのは無理であろう。諸外国との法人税の下限税率を決めないと、なかなか難しいのではないかと思う。そういう意味で、G20での峰崎財務副大臣の働きは評価されてよい。
法人税の負担を上げるとすれば、社会保険料の企業負担分をどう考えるかによってのみ可能だということになる。
なお、消費税導入前の税制のイデオロギーであるシャウプ勧告では、法人の所得は最終的には配当や賃金によって個人に帰属していくため、過大な課税はすべきでないという考え方になっている。

ただ、現実問題、営利活動をする企業は、政府部門が作り出すさまざまな社会的資源を、個人同様食いつぶして活動している。製造業であれば仕入、出荷にあたって道路を使い、不動産業であれば売った住宅への水道供給や居住者への福祉・教育資源の提供が行われ、小売店であれば水道やごみ処理のほか、来客のための道路整備などもある。そのことに対する適正負担をどうするかという議論はもっとされるべきだろう。

要は、全体の財政の帳尻併せに必要な税財源をどうするか、何がモアベターな選択肢かということとと、税による所得の再分配や公正な価値の実現というあるべき選択肢との話を混同すべきではないということ。
消費税がモアベターというのは、消費した分しか税金がかからないことだ。逆進性とかいろいろあるが、人頭税ではないから、所得に比例した税金しか取られない。余談だが、今の住民税については累進税が廃止され単一10%の税率になったため、逆進性ができたと言えるのに、誰も逆進性を指摘しない。

消費税による財源で将来不安が解消され、福祉資源や教育資源が整備されれば、それは間違いなく経済的弱者の経済的負担を軽減し、社会に対する参加の機会を増やす。月収20万円の人が消費税5%上がっても、月1万円以上の増税にならない。そのことで子どもを塾に通わせたり、保育所に入れなくて高い無認可保育所やベビーシッターに預けなくて済み、病院での自己負担がなくなり、しかもそれらのサービスが将来的に財政不足で切り下げられるという不安にさいなまされなければ、低所得者にとって増税が悪いのか、高齢者に増税が悪いのか、明かな話だと思う。
逆進性などと言って、いつまでも経済的弱者が恩恵を受ける制度整備を怠ることが、経済的差別の固定化につながる。

さらに、増税のほとんどを財政再建の資金にしてしまえば、銀行にお金が余るだけだが、その半分を福祉や医療や介護や教育に使えば、それは人件費になり、それで所得を得た人が市場を豊かにする。とくに福祉や介護ではたらく人の賃金は極めて低く、ちょっとやそっと賃上げしても、貯蓄に回ることはなく、市場に返され、福祉や介護ではない人の所得にもなる。

消費税にまだまだわだかまりのある人には、さまざまなお金の流れを見て、理解してもらえたらと思う。

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コメント

>私は課税のモラルの問題としての所得税の累進課税の強化と、相続税の課税ベースの拡大はやるべき、という点については、批判してくださる方々と価値観が一致している。
>しかしそれだけで消費税増税を回避できるほどの税の欠損が補えたり、保育や教育や医療に必要な財源を確保できるのかというと、そういう額にはならない

どちらもおっしゃるとおりかと、思います。
しかしこの事実に基づいた場合、出てくる回答として「相続税の(課税ベースのみならず)税率大幅引き上げ」では駄目なんでしょうか。究極的には「(控除のルールを抜本的に見直した上で)非控除部分の相続税率100%」ですね。相続税100%なら、金融資産だけでも年間50兆円を遥かに超す税収が見込めると思うのですが。
無論、「節税」の横行が懸念されますが、不動産は逃がれられませんし、金融資産についても、海外逃避を防ぐのは背番号制と無記名債廃止程度でなんとかなる代物。難しいのは法人化による節税への対策、贈与税の位置づけ、といった点くらいで、少なくとも所得税に比べれば遥かに捕捉が容易なはずです。黒川氏ご指摘の通り、不労所得への課税であり、高齢者層の消費活発化も期待できることから、社会の活力を毀損する方向でもありませんし。

高率相続税の問題点として、一般論としては、
・民間資本を吸い上げてしまい、民間経済が資本不足に陥る
・一世代あるいは20年程度立つと税収が減ってくるため、恒久財源としての安定性に欠ける
といった点が懸念されますが、日本の現状に照らし合わせると、前者は空前の金余りの現状では問題にならず、後者は「巨額の財政赤字解消のための一時的財源(累積赤字が減るまで保てばいい)」と考えれば、両者とも大きな欠陥とは言えないと思います。

私は現在の財政危機と社会保障の破綻に大きな懸念を持っています。これに備える税制としては
・短期的には、「相続税100%」による累積債務解消、プライマリーバランス回復。
・中長期的には「消費税20%、福祉目的税化」による社会保障制度の安定化
・中長期的成長戦略としての「法人所得税廃止」
くらいの思い切った税制改革が必要だと思っています。
国民が望む「安心社会」すなわち社会保障に関する不安感を解消するには、どうしたって社民主義的な「大きな政府」が必要なはずですが、それを担うための税制は必ずしも「金持ちから取れ」的な発想にこだわる必要はなく、消費税のような逆進性のある課税も忌避せず「担税力有無」「経済への悪影響の多少」で判断していけばいいのでは無いかと。(むしろ「金持ちは生かさず殺さず」でしょうかw)


>法人税については、日本の場合外形標準課税がないため
これは誤解を招く表現ではないでしょうか。国税では2002年以降(大企業のみですが)、法人住民税についてはそれ以前から、赤字企業でも納税しているはずかと。

投稿: Shin | 2010.06.15 10:18

 皆さん、今日は。国道134号鎌倉です。
 先日は礼儀を欠く、恫喝的な表現内容の書き込みをしたことを、お詫び申し上げます。趣旨には変更はありません。

>全体の財政の帳尻併せに必要な税財源をどうするか、何がモアベターな選択肢かということとと
>消費税による財源で将来不安が解消され、福祉資源や教育資源が整備されれば

 私は、この認識は甘いと思います。
 消費税増税論者は、消費税が増税されれば、全体の税収も消費税の増税分は増えると思っているようです。
 しかし、橋本龍太郎内閣で消費税の税率を引き上げた結果、所得税と法人税の減収額が消費税の増収額を上回り、全体として税収が減ってしまいました。消費税の増税によって財源による将来不安が解消されるとは思えません。

 また、黒川さんは消費税の増税で社会保障を充実させることができると思っているようですが、やはり甘いと思います。

 消費税増税論者については、以下の3つに分類されると思います。
 ①財政再建のための税収確保策として消費税増税を唱える人たち。主に財務省です。
 ②法人税の税率引き下げに伴う減収を穴埋めする財源として消費税増税を唱える人たち。主に日本経団連などの財界です。
 ③社会保障財源の確保として消費税増税を唱える人たち。主に黒川さんなど、労働組合や市民運動にかかわってきた人たちです。

 この中では、①と②の人たちの発言力が拮抗しており、③の人たちの発言力ははっきり言って大きく見劣りしています。

 私は、③の人たちは、①や②の人たちに利用されるだけだと思っています。消費税が増税されるだけで、全体の税収は減り、社会保障の費用も減らされることはあっても増やされることはないという、最悪の展開が目に見えるようです。

 私は、消費税の負担が重くなるだけで、将来不安をかえって大きくするだけの消費税増税には断固として反対せざるを得ません。

投稿: 国道134号鎌倉 | 2010.06.19 13:25

>>国道134号鎌倉さま

利用されているかどうか、ご自分でお調べになってください。

①に関しては利用されてもよいと考えます。借金の利子を増やさないという効果があります。
今は低金利だから良いですが、それでも毎年の利払いは10兆円弱です。長期金利が2%になれば、金利だけで20兆円になります。金利が上がったのに、それに対応する物価上昇がなければ、あっという間に財政は赤字になります。

②については怒りはごもっともです。法人税率の国際ダンピング合戦という問題があることは理解しますが、消費税上げたいのなら、法人税引き下げは先送りしないと理解されないかも知れないと思っています。ただし、法人税の特別措置は大きく見直し簡素化するということですから、単純に法人税が大幅に下がるということでもないようです。

投稿: 管理人 | 2010.06.20 13:53

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