12/19 飛び込んでみろなどと説教する前にお前がやれ
きょう開かれた厚生労働省の介護人材を集める説明会の記事に関連して、11月29日の毎日新聞の社説を発見して、なんて偉そうな、とため息が出てしまった。
社説:雇用対策 介護起業のすすめ(毎日新聞11月29日)リンク
「介護を敬遠している」のは「全産業平均の6~8割程度という給料水準の低さ」、「たしかに楽な仕事ではないが、介護を通して得られる感動や専門性に魅力」などお決まりのフレーズが並ぶ。
全産業の6~8割の給与水準というのは正規職員の介護士。この中には、訪問介護ヘルパーのほとんどの時給労働者は入っていない。所得税ベースでの給与所得者の給与平均が450万円前後と聞いたことがあるから、訪問介護ヘルパーを統計に入れたら、給与水準は全産業の5割を切ると思う。
介護に夢物語を語るのはいいが、介護にお金を出すのは社会保険か税金。市民税10%カットを言う市長に拍手喝采を贈ったり、あるいは介護保険料が高すぎるということばかりに報道の焦点を当ててきたマスコミの報道と、それを喜ぶ市民感覚の前で、いつになっても介護労働者の待遇改善は進まない。介護保険が何兆円なんて報道されると、介護にムダがあるとフィーバーするのがマスコミではないか。
そういう因果関係がもう見えすぎているから、若い人はいつまでも介護の仕事を踏みとどまることができない。そういうことをきちんと伝えないで、失業するよりマシだろ、食わず嫌いしているんじゃねぇよ、みたいな説教垂れるんじゃないって。
だったらこんな駄文を書いている毎日の幹部記者も同じではないか。将来性があるだとか、食わず嫌いをするんでないとか偉そうに書くなら、まずあんたがやってみなさい、と思う。職を辞して、退職金を元手に介護事業でもやってみればいいんじゃないかと思う。
介護にとっていいだけではない。これを書いている記者が退職し、毎日新聞の職員の席を一個空けてくれるだけで、若い有望な人材が1人多く毎日新聞に入社できる。
それこそ「発想の転換」ではないか。子どもの教育費が、とかごちゃごちゃ言うなよ。今現に働いている寡婦のヘルパーたちは、自分の子どもを高校に行かせるぐらいまでしか教育のこと考えてやれていないんだから。
●どうも福祉業界の生産性について、マスコミも研究者も、冷静に見れば単純な構図を見落として、希望的観測みたいなことを言う人が多くてびっくりする。民主党も衆院選まではいいとこまで近づいていたんだけどもね。選挙後、有権者の審判を受けずに当選した藤井裕久氏が財務相になり、事業仕分けでフィーバーしているうちにそうした課題は忘れて先祖返りしてしまったもの。
単純なことだが福祉業界は、対人サービスによって成り立っている。したがって、コストは対人サービスの密度×人件費水準ということでしかない。コスト負担はそれを利用者の利用時間数で割返したものである。
機械化もなかなかできなければ、効率化も簡単にはできない。流れ作業でない、ほどほどのケア水準を維持しようとすれば、製造業のようなムダ排除みたいなこともできない。
製造業のように、生産性が飛躍的に改善してコスト改善につなげるようなことは、ある程度の質を維持する前提がある限りできないと断言できる。
経営資源がどのようにインプットされて、それが商品としての福祉サービスにどう返ってくるのか、その入りと出を考えれば、わかる話である。
そして、原資はサービスの受益者にすべて負担してもらうことはできずに、支援の必要のない人たちとリスク共有してもらい、税なり社会保険なり、社会連帯によって負担してもらうしかない。
したがって、福祉業界を魅力ある職場にしたり、参入したくなる魅力ある市場にするとなれば、結果的に税なり社会保険なりのみんなの負担を大きくしていくしかなくなる。
そこの議論を避けて通って、人材確保や新規参入について、個々の福祉事業者や福祉労働者の努力に犠牲を求める考え方は間違いであり、社会にとって害毒をまき散らしているというしかない。
●製造業中心の時代のものの考え方に慣れきっていて、所有権が移転しない、サービス業中心の社会における産業のあり方などあんまり考えられていないんだなぁってやっぱり思う。
社説:雇用対策 介護起業のすすめ
失業率は3カ月連続で若干の改善を見ているが、雇用情勢は相変わらず厳しい。来春卒業予定の大学生や短大生の就職内定率は低く、高校生の3人に2人はまだ就職先が決まっていない。年越し派遣村の当時よりも状況は深刻ともいえる。
有効求人倍率が0.44倍(10月)という中で、やはり大きな受け皿として期待されるのが医療や介護である。特に介護現場では慢性的な人手不足に陥っている事業所が多い。いや、急速に進む高齢化に対して介護施設・事業所そのものが不足しているのだ。政府は職業訓練に力を入れ、介護福祉士らの養成学校は訓練生であふれ返っているが、思ったほど就職に結びついていないという。訓練中は失業手当を延長して受けられ、雇用保険未加入でも生活手当をもらえるため、働く気のない人の避難場所になっているというのだ。
しかし、介護を敬遠する理由としては、全産業平均の6~8割程度という給料水準の低さを挙げざるを得ない。民主党は公約である介護従事者の待遇改善を優先的に実施すべきだ。また、学校やハローワークで「介護の仕事は大変だ」と求職者にブレーキをかける傾向があるともいう。たしかに楽な仕事ではないが、介護を通して得られる感動や専門性に魅力を感じて働き続ける人はたくさんいる。食わず嫌いでいるよりも、まず飛び込み、試用期間中に自分に合っているかどうか見極めてもいいではないか。慣れない人を受け入れる介護事業所は大変かもしれないが、国全体が陥っている雇用危機を救うのは介護しかない。介護をこの国の主産業にする覚悟で臨んでほしい。
支援の質よりも経営を優先する事業所が増え、それに失望して良質な職員がやめていくケースも多いという。こういう人には自ら起業することを勧めたい。訪問系サービスや宅老所ならば多くの準備資金は要らない。20~30代の若者や企業を定年退職したシニアが狭い事務所や民家を借り上げて介護NPOを設立するケースはいくらでもある。苦労はするだろうが、安定して顧客(高齢者)が増え続けていく成長分野でもある。政府が現在検討している雇用対策には介護を担うNPOの創業支援を柱として盛り込んでもらいたい。
わが国の高齢化率はいずれ40%にもなる。過疎地の限界集落だけでなく、都心部でも高齢者ばかりの団地やマンションが増えてくる。どれだけ施設をつくっても追い付かない。町内全体が特別養護老人ホームのような状況になるのだ。国民全員がヘルパー2級資格を持ち、どの町にも小さな介護事業所がたくさんあるくらいにしないと対応できないのではないか。発想の転換が必要だ。
毎日新聞 2009年11月29日 2時30分
| 固定リンク
コメント