11/3 八代尚宏先生の弟子の論調
八代尚宏が小泉純一郎や宮内義彦とともに沈没したかと思ったら、その教え子の鈴木亘という研究者が活躍して保育所の規制緩和を民主党周辺に働きかけているらしい。
フォーサイトという雑誌に書いたその記事の書き出しがインターネット上にでているが、人の僻み、妬み根性を刺激するどうしようもないものだ。
東京都の0歳児保育が月50万円もかかっているから、規制緩和すべきだ、というもの。東京都はじゃぶじゃぶの財源があるから、保育に関して独特な手厚い仕組みが用意されていて、最低基準どころではない環境が用意されている。これこそ「地方分権」のたまものというべきもの。
東京都の23区から一歩出れば、厚生労働省の標準的保育が基準となって、それはこの手の規制緩和論者が50万もかかっているんですぅ、なんて水準には遠く及ばない。新自由主義経済のおかげで恵まれすぎた東京23区の例を挙げて、認可保育所にすべてが問題あるかのように言うのは間違いだろう。その他の地域で0歳児にいくら使っているのか、書かないでお金がかかりすぎる印象操作をしているのは研究者として不公正な態度だろう。
ちなみに、23区以外のほとんどの自治体が用いている厚生労働省水準の保育費用では、4~5歳児にでもなれば1人月3万円も公費は使われない。
さらに保育士が1200万円もらってけしからん、局長クラスの給料だ、というようなことを書いている。園長は厳格な任用制度を使っている東京23区であれば、課長補佐クラス。出先機関の運営について責任があって、このくらいのポストは問題とは言い難いだろう。
課長補佐がそれ相応の給料をもらうことは問題と言えるのか。たとえ、課長補佐が局長級の給料をもらえる仕組みがあるなら、保育園制度の問題ではなく、公務員の給与の運用の課題なのだろう。
新自由主義者は、高所得者が出ることはすばらしい、と常日頃言っている。でなければ、格差が出ても彼らが消費や投資を牽引するから将来的に国富になる、というロジックが説明つかないからだ。しかし、ことほど福祉労働者に関しては、全く逆のことばかり言う。福祉で世間のサラリーマン並に順当に努力した人が、一流企業のサラリーマンのそこそこの給料程度もらって、「もらいすぎじゃないの」と言う自由はあっても、絶対的な悪と決めつけることはできないだろう。もっと楽して2000万とか稼げる仕事があるからだ(コネとか原資がないと就職できないような仕事だったりしますが)。それをだめと言ったら、新自由主義者が否定したはずの社会主義、それもかなり窮屈な社会主義と同じようなことになる。
全く不思議な世論操作である。
●規制緩和論者の見落としているところは、保育の規制緩和で需給調整が自動的に行われ参入業者が増えるということ。
ところが保育事業は、公費による社会再分配を行わなければ利用に耐える価格のではない。もっとも市場的な福祉サービスといわれる介護保険制度でも、公定価格を決めて、公費の支出基準を決めるしかない。でなければ、私学でやっているような不公平、不平等といわれている傾斜配分、究極の裁量行政になりかねない。
その上で、利益が発生する必要があるが、これは保育料の保護者負担を増やすか、公費に利潤を加えるか、人件費を搾取するか、どれかしかない。そうでなければ、保育業者はどんなに保育需要があっても、採算割れすれば撤退せざるを得ない。倒産するということだってある。そうなったら待機児童問題の蒸し返しなのである。
まぁ、こんなこと言っても、経済学の需給曲線を使って、だから「福祉関係の人たちは世に疎い無知蒙昧」と言い放たれるだけなんでしょうけどもね。
しかし契約制度をうたいあげながら、財源をケチった結果としての、介護保険制度の惨憺たる現状をみると、結局やっぱり財政をきちんと出さないと福祉は成り立たないということ。
●ただし保育のことでは青い鳥の八代先生の弟子さんの鈴木亘さん、ホームレスをカモにする医療機関の問題点について、非常にまともな見識を持っていることも併せて言っておかなければいけない。
以前、仕事で生活保護のレセプト点検員のヒアリングをしたことがあるが、医療機関の医療保護費の請求をチェックするとほんとうにひどいことを医療機関に言われるらしい。
「潜在待機児童八十万人」を解消するために
学習院大学経済学部教授
鈴木 亘 Suzuki Wataru 〔一九七〇年生れ。上智大学経済学部卒。日本銀行勤務。大阪大学大学院博士後期課程単位取得退学(経済学博士)。大阪大学社会経済研究所、日本経済研究センター、東京学芸大学を経て、二〇〇九年四月より現職。規制改革会議専門委員(保育担当)。主著に『生活保護の経済分析』(共著、東京大学出版会、第五十一回日経・経済図書文化賞受賞)、近著に『だまされないための年金・医療・介護入門』(東洋経済新報社)がある。〕
小渕優子前少子化担当相(左)から事務引き継ぎを受ける福島瑞穂新担当相=2009年9月17日、東京・霞が関【時事】(このコンテンツは9月19日発売のフォーサイト10月号に掲載されたものです)
認可保育所に入れない待機児童が急増している。保育業界の「既得権益の闇」にメスを入れなければ問題は解決できない。
千代田区五十七万円、杉並区五十六万円、台東区五十五万円、大田区五十四万円…。その他の東京都二十三区も軒並み四十万―五十万円台。この数字を見て、何の数字かピンと来る人は、相当の保育事情通である。実はこの数字、各区の公立保育所において〇歳児一人当たりにかかっている保育費用なのである。年額ではない。驚くべきことに月額である。
厚生労働省が管轄する正規の保育所(認可保育所)には公立保育所と私立保育所がある。私立の場合はまだマシで二十三区平均で二十九万円であるが、それにしても、認可保育所で子供を育てるということは、なんと高くつくのだろうか。
保育費用の大半は人件費であるから、この恐るべき高コストの最大の原因は保育士たちの人件費の高さにある。例えば東京都二十三区では、公立保育所の保育士(常勤)の平均年収は八百万円を超え、園長に至っては千二百万円近い。東京都庁でこの収入を得ている公務員は局長クラスであるから、二十三区では各公立保育所に一人ずつ「局長様」がいることになる。いやはや、保育費用が高くつくのも無理はない。(以下有料)
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コメント
はじめまして、週刊ダイヤモンドの記事から鈴木亘氏の議論を知り、調べて貴サイトにたどり着きました。
大阪市内の認可保育園の園長です。
保育関係だけを見させていただきましたがごもっともな、そしてよく調べられているご論だと感じました。
時事通信フォーサイトの記事は全部見ることができますが、ダイヤモンドの記事はこの記事をコピペしたようなものに感じました。
(http://www.jiji.com/jc/v?p=foresight_9001 1~4)
東京都品川区の公表した「給与・定員管理等について」の4頁に東京23区(特別区)保育士の平均給与月額が公表されていますが、それによれば同23区福祉職(保育士など)職員の平均給与月額(08年現在)は417,448円。すなわち公立保育所保育士の平均年収(平均年齢42.6歳。月給×16.5ヶ月)は約689万円です。
http://www.city.shinagawa.tokyo.jp/ct/other000012000/20kyuuyo.pdf
これを見ても鈴木氏の議論は嘘を根拠に積み上げられていることが明らかですが、このような人物が現職の内閣府・規制改革会議専門委員(保育分野担当)であるということに大きな危機感を覚えます。
投稿: さこ | 2009.11.19 16:57