10/26 保育所の規制権限を市町村に移管して成立するのか
昨日の日経新聞で、再び保育所の規制権限の市町村移管を、民主党を中心とする連立政権が推進するということが書かれていた。月内にも合意するそうで、別の新聞では、総務大臣が厚生労働省の抵抗を許さないということが書かれていた。
抵抗というのは官僚だけではないようで、政権内でも、単純な権限の移管に関して危惧や慎重論もあるようだ。「地方分権はもうちょっと別な分野で優先してやるべき」「もうちょっと当事者たちの意見を聴いたらどうだ」という副大臣か政務官がいるのだろう。それだけ、もっと考えてやられる分野だと思う。
保育所の設置基準(保育指針、児童福祉施設最低基準)の市町村移管については、いくつかの矛盾がともなう。今回は保育内容を規定する保育指針について言及されていないことから、主に施設の内容を規定する最低基準について書きたい。
① 市町村が設置・運営する保育所が半数を占めるなかで、その設置者自ら基準を設けることは、矛盾にならないか。おそらく、市町村でルールの規制をするセクションと、保育所の運営を担当するセクションが一緒で、自治体独自基準と言いながら、基準が基準とならないことも起こってくるのではないか。
② 多様な福祉事業者の参入促進や社会福祉の改革を唱って改正された社会福祉法(現在の連立与党の議員も賛成)が、保育所を含む社会福祉事業を運営する組織に第三者評価制度を求めていながら、義務化されていないことや財政問題を口実に、公立保育所を含む保育所の大半が第三者評価を実施していない現状をどうとらえるのか。所属する自治体議員は質問して制度導入を促進した痕跡もない。そうした現状がある上に、連立与党は分権化された保育所の運営に関して質を維持するための方策を全く持っていない。どうやって質を下げるモラルハザードを防止するのか、まったく絵が描かれていない。
③ 日経の報道であれば条例により市町村が独自に最低基準が設けられることになっているが、自治体が特に条例を定めない場合、従来の最低基準が適用されるのか。よくわからない。国が市町村に条例準則を押しつけるようなことをするのか。そうであるなら分権の考え方に矛盾しないか。
④ 最低基準を前提に保育士数などを積算して公立保育園には交付税の補正や、民間保育園には補助金が支出されているが、基準、とくに職員数の基準を緩めた自治体は、いったいどんな補助金単価になるのか。学童保育のようにつかみ金のような交付税・補助金になるのか。そうであるなら、すし詰め保育、低賃金労働者による保育が行われている学童保育のように、自治体によるモラルハザードは起きないのか。
⑤ 分権による規制の緩和と待機児童問題の解消との因果関係が見られない。とくに大都市部は、現在の最低基準に上乗せして基準を重くしている。規制緩和派は規制が緩くないから保育所がつくりにくいと言いながら、地域社会は自治体独自基準で規制を強化してきた。ということは実行に移しても、自治体が質の悪い保育所を作る抜け道は用意できても、本当に待機児童問題を解決しなければならない大都市部の問題解決には直結しないと言える。
⑥ 幼保一元化を推進しているが、幼稚園の職員数規制とのバランスはどう考えるのか。
⑦ 最低基準の緩和による質の担保をどのように行うのか。
⑧ 共働き家庭やひとり親家庭の意見を、自治体にどう反映させるのか。今のように9時~17時の自治体の審議会等の開催状況や、専業主婦ばかりを相手にした地方議員の地域活動を前提としては、保育所利用者の自治体への意見反映は不可能。
⑨ 職場環境が悪化するにともない、現に就労する保育士の質の低下は起きないのか。職員規制を強化している介護などの施策と矛盾しているのではないか。
⑩ 新規参入を促したいなら、公設で保育所をどんどん作っていく、か、保育所を儲かる事業にするしかない。後者については、今の補助金を経営者がピンハネする仕組みを拡大するか、今の補助金に利益分を上乗せするしかない。分権原理派や規制緩和派が予期しない結果になるだろう。
などの具体的問題があるように思う。
●まぁ、政治主導が何よりな政権なんでしょうから、当事者がどう考えようと、実態がどうであろうと、政策効果の因果関係がどうであろうと、内実も検証しない分権推進派に評価されるために、優先順位もなく政治的象徴となりやすいところから全面的な規制緩和を推進するんでしょう。政治主導はわかったのですが、その理論的背景にあった国民主権とはどういうことなのでしょう。
●保育所政策について、官僚は想像以上に幅広い利用者団体やシングルマザーの団体などを含めて意見交換をしながら政策変更を行ってきて、政治家の得点のためだけに、利用者も何も無視してうち上げられた今回のようなことはしていない。国民主権ということではどちらがどうかという問題にもなりかねない。
●保育所を使っている保護者、ましては直接の利用者である乳幼児についてはどんな国民主権があるのでしょうか。保護者については働いて税金を納める人が余計バカを見るような社会なんですかね。昼間文句言いたければ、女房を家においておけ、ということなんでしょうか。子どもについては、先日、神野直彦さんがNHKスペシャル「子どもの貧困」で「声なき声にどれだけ耳を傾けられるか、子どもは有権者でもないし、乳幼児は声もあげられない」という発言をしておられたのを思い出す。
●待機児童問題の原因が、国の規制にあると断定するなら、規制が分権され、緩和された来年の4月には劇的に待機児童が解消していなければならない。それが政策効果なのでしょう。もし待機児童が減少していなくて、保育の質だけが下がって、働く子育て世代の家庭の子育てを現政権が痛めつける結果になったとするなら、政策としては失敗。全国の200万世帯の保育園利用者家庭は、7月の参議院議員選挙では連立与党3党、民主、社民、国民新党への投票はボイコットしていかなければならない。
●こういうときに出番であるはずの社民党。しかし意外でしょうが、社民党のご党首は、民主党の保育関係議員よりもずっと保育所の規制緩和には推進的な思想を持っています。そのご党首は、母は家でという持論をお持ちになっていた社会党出身市長による市政のもとで保育所を整備してこなかったため保育所事情が劣悪な横浜市に在住し、保育園で苦労したことらしいのですが、規制緩和と待機児童問題が無関係な問題であると理解できないようです。
社民党の政策に漠然と質について述べられていますが、規制をどう制御していくかという議論は全くありません。
今の連立与党の中で、保育所の質を事前に担保する仕組みを考えている議員に、今は力がないということでしょう。事後の質の担保、児童福祉施設第三者評価などの方法についても、全く考慮されていないということでは、先日書きましたが、規制改革会議や小泉構造改革以下の問題だと思っています。
こういうときに力を発揮し抵抗勢力であった橋本派も瓦解しています。残るは公明党と共産党だけという情けない状況です。
●地域では認可外保育所ですら新規は一時保育でしか受け入れられない事態になっている。少子化ばかりに目を奪われて、もっと多くの女性が働く社会になっていくという見込みを甘く見過ぎていたことによる事態だろう。「保育所を作れば作るほど需要を誘発する」などと審議会でバカなことを言って無責任な対応を取った過去の行政担当者もいた。
地方に6権限移譲 厚労・総務相、月内合意目指す
国から地方への権限移譲を巡って、長妻昭厚生労働相と原口一博総務相は、保育所や特別養護老人ホームの設置基準など6つの権限を自治体に移譲する方向で調整に入った。待機児童や要介護者の急増に対応し、自治体が条例で地方の実情に沿って柔軟に制度を運営できるようにする。鳩山由紀夫政権は地方分権改革推進委員会が勧告した規制緩和策のうち実行可能な項目を早期実現する方針。両大臣は10月中の合意を目指す。
両大臣が調整に入った地方への権限移譲の原案には「地域主権に向けた取り組みをできる限り早く国民に明らかにするため」と目的を明記。地方から要望が特に強い6項目をあげている。具体的には、保育所、特別養護老人ホームの設置基準のほか、保育所の利用者の要件、都道府県の職業能力開発校の管理運営の外部委託、障害福祉サービス事業の基準などで、条例で自治体が独自の基準を設けることができるようにする。 (09:01)
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