10/16 介護労働者の待遇改善の交付金の申請が低調
介護職員処遇改善交付金の申請が低調という毎日新聞の記事。
http://mainichi.jp/life/health/news/20091015ddm041040086000c.html
この交付金は介護労働者に月1万5000円の処遇改善をするための交付金。介護労働が重労働であるにもかかわらずひどい低賃金で、人材流出が激しく、大学、専門学校、高校の介護労働者育成の科目に応募が集まらないという、人材枯渇によって制度破綻が見込まれる中での、対応策として前政権が実現した補助金。しかし申請が少ないという。
経営学的には、労務管理の専門家のブログ、「吐息の日々」で書かれている。ここでは、賃金改善は収入が安定しないとできない、一時的な交付金で賃金改善はできない、と論じている。経営問題としては妥当な論評だと思う。
記事でも、申請が低調である理由として厚生労働大臣が理由として、
①政権交代による継続性
②交付後の継続性
を挙げ、事業者が不安があるとし、継続し、増額することをめざすとコメントしている。
しかし、賃金改善を当事者である労働者の側からプッシュする労働組合の側から言うと、それだけではないように思う。
この交付金は「良質な事業者にしか出さない」として、細かい事業水準のチェックを求めている。その申請手続きが難しく、小規模事業所などではケアマネージャーや介護福祉士が1人でも中途退職をされると交付金を返還しなければならなくなってしまうなど、事務手続きや運用が煩瑣で、忙しすぎて事務仕事の処理に追われて困っている介護事業者にはとても申請するに躊躇せざるを得ない交付金である。常勤雇用ではなく時間給労働者ばかりの介護事業者にとって、人の出入りは他の業界より激しく、継続的に計量的なレベルでの人材の質の担保は難しい。
労働組合で学習会をやっても、当の労働者にはちんぷんかんぷんで、職場でどのように経営者に賃金改善を要求したらよいかわからにくく、対応に苦慮している。
本来、この政策目的は、良い事業者を伸ばすために行うのではなく、介護労働者の待遇改善による呼び戻し、定着促進が第一の目的なのだから、介護事業者に仕事を増やすようなかたちではなく、表玄関からきちんとお金を出すべきだろう。良い事業者の育成は、賃金改善と抱き合わせでやるべきではないように思う。
したがって介護報酬を大胆に改善して、各都道府県で介護労働者の最低賃金のあり方についてガイドラインを示すべきではないか。また、介護予防に本来的な効果があった、軽度介護者に対する介護保険の適用を元通りに広げるべきではないだろうか。
介護報酬の改善をやると、今の制度のままでは、介護保険料の上昇が自動的に行われることから、高齢者、とりわけ声の大きな高齢者の反発は避けられない。しかしやっぱり(正社員で退職した高齢者であれば)年金収入より低い賃金の若者が結婚もましてや出産もままならない賃金で介護労働をしている現状を放置しておいて、介護保険が成り立つのかと疑問に思う。特に非正規労働者が3分の1を占める今の20~30代の人たちが介護保険に対する信頼は継続できないだろう。そうなれば昔の介護保険のない時代に戻り、老後はカネ次第か社会的入院→院内感染で死亡ということになる。
介護保険料のの負担割合のあり方や、基礎年金やそれ以下の収入しかないような低所得者の保険料のあり方についてあわせて答えを出す必要にも迫られる。しかしそれを出し惜しんで、交付金というかたちで、煩瑣な手続きを現場に押しつけて、介護労働者の流出を放置するよりは、正面突破した方が全体としての負担は少なくて済むのではないかと思う。
●この交付金、どうもうまく申請できないなぁ、なんて話が出ていた中で、それを検証する記事が出てきたことはありがたい。労働組合の組織化があまり進まず、事業者団体も零細事業者の現状まで掴みきっていないこの分野で、政策効果の全貌を伝える記事はありがたい。
介護職員処遇改善交付金:申請率48%どまり
介護職員の月給を1万5000円上げるため都道府県が事業者から申請を受け付ける介護職員処遇改善交付金について、長妻昭厚生労働相は14日、申請率が約48%にとどまっていることを明らかにした。長妻氏は「交付金は継続する。100%の事業所が活用してほしい」と呼びかけた。
交付金は麻生政権が追加経済対策として実施を決めた。長妻氏は▽新政権になり交付金が執行停止になるのではとの懸念がある▽交付金の期限(11年度末)の後の交付金の取り扱いが不明確--などで事業者が申請をためらっていると推測。予定通り約4000億円を満額交付し、12年度以降も4万円増を目指して処遇改善に取り組む。
毎日新聞 2009年10月15日 東京朝刊
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