10/12 小泉構造改革より悪い民主党の保育所政策
毎日新聞が、保育所の設置規制撤廃を画策し年内にも実施されると報じている。これが実施されれば、八代尚宏氏が宮内義彦氏と認可保育所を攻撃し続けた小泉構造改革より質の悪い改革がされることになる。
現在、国・県・市町村でフルの補助金を受けられる認可保育所の要件を満たすためには、県知事の認可が必要であり、そのための条件は、①保育内容については「保育所保育指針」を守った保育をすること、②施設については「児童福祉施設最低基準」を守った施設、人員配置をしていること、となっている。その基準を満たせば、②に見合った人件費や運営経費が積算された補助金が保育所を運営する法人(かつては自治体にも補助されたが、今は使途制限のない交付税化された)に支給される仕組みになっている。
保育所保育指針も、児童福祉施設最低基準も、ともに法律ではなく旧厚生省の通知として出されており、地方分権にあたって妥当性があるのか、と問題にされ続けてきた。また規制緩和の議論からも、規制撤廃の叫び声でこれら規制の廃止が提案され続けてきた。しかし、日本の保育所がサービスはともかく、一定の質を底座さえし、アメリカのように金次第の保育にならなかったのも、この基準があったからだ。
そももそ通知で自治体を縛るのはナンセンスという正論とも言える価値観はともかく、なぜそれで保育所だけが狙われたのかが腑に落ちない。待機児童問題が深刻化して解決することが政策のヒットになるからだろう。
保育所の参入ハードルを下げるということで②の基準を下げ、新規参入業者を増やして待機児童問題を解決する、というのが今回の民主党の皮算用。それで本当に政策効果が上がり、保育所が増え、待機児童問題が解決されるのだろうか。私は疑問に思っている。地方分権は何のためにやるのか、という視点なしに、やりやすいところから、声なき国民のセーフティーネットから突っついていくというこういう下品な議論にほとほとうんざりしてくる。小泉構造改革がどうのこうの批判していても、結局はこういうことかと思う。
これまで保育所に関して規制緩和を繰り返して、めざましいほど保育所が増えたのだろうか。そうではない。待機児童問題が解決が前進したのは、都道府県や市町村で待機児童問題に積極的に対応した自治体だけ。保育所を作るということを具体的にしない限り、基準をいじっても何しても、保育所は増えない。
相手が子ども、儲からない産業、安全性やセーフティーネットの機能が求められるなどの理由から、規制緩和チチンプイでは解決しないのだ。
保育所政策に関して民主党は知識不足で、夜郎自大な国家論の道具にするから、保育所にからむ政治運動では、民主党は、共産党や公明党の後塵を拝しているのだろう。保育所利用者が、質の高い保育を維持してほしいと望みながら、地域社会や保護者会で共産党や公明党の勢力争いに利用されていてうんざりしている現状を、民主党はどう考えているのだろうか。
今回の案がこれまでの規制改革会議系の提起よりさらに良くないのは、第三者評価が提案されていないことや、改革にあたっての利用者や事業者との合意形成の手続きもふんでいないで、密室で一部の新自由主義のエコノミストの意見を聴いて判断しただけのところが小泉構造改革での保育所の規制緩和よりひどいものを感じている。
八ッ場ダムの建設中止で、長野原の住民には対話をしたり補償金をたっぷり払う約束をしているのに、セーフティーネットそのものである保育所利用者についての対応がこれかと思うと、民主党の有権者観が見えてくるし、結局はマスコミがぎゃあぎゃあ騒いだものしか対応しない政党なのだろう。
政策調査会の廃止によって、声を吸い上げる機能を消去してしまったことも、こうした体質をさらにパワーアップしてしまっている。
●保育所の規制を本来は自治体が作るというのは美しい絵だろう。
しかし、大多数の自治体は数百人程度の職員で、2~3年ごとにありとあらゆる職場を転々としなければならない働き方をしている。児童福祉分野、福祉分野だけを歩いて、保育所の基準設定がどうあるべきか専門的に判断できる職員を育て配置できないのが現状だ。
そうである以上、いくら分権してもいままでの基準を使うか、学童保育のように無基準になっていくか、しかない。まったく政策効果がわからないことになりそうだ。
補助金制度も、今は基準があってそれを積算しているが、どういう保育園にどのくらい出すのか、問われるのではないか。今の補助金額のままで規制緩和をやれば、基準をとめどもなく下げた自治体の自治体または保育所事業者が、補助金をピンハネできる構造になる。規制緩和にあわせて下げれば、保育の質が低下する。どちらかの選択肢しかない。
いきなり補助金を廃止して交付税にするという考えもあるだろう。それは筋が通っているが、待機児童問題に苦しむ大都市部の自治体は不交付団体が少なくないため、交付税であれば一銭もお金が入って来なくなり、やっぱり待機児童問題は解決しないということにもなる。
そんなことも民主党政権は考えて打ち上げているのだろうか。
●保育所に関して、これまで一部の民主党議員が政策を囲い込んでしまい、民主党全体の政策にしてこなかった。その議員が今回、入閣できなかったため、今回の民主党政権の思いつきのような政策に歯止めがかからないのだろう。
●私は仕事の事情やら、通園環境の事情から(自治体独自制度の)認可外保育所にずっと子どもを預けてきている。規制緩和論者が言うように確かに保育士たちの誠意や努力は認可保育所と遜色ないように感じるが、やはり低賃金で、保育士たちの入れ替わりが激しいなどの問題があると思っている。
また、認可保育所があり、そこと比べられるから認可外保育所でも遜色のない保育を維持しようとする力学が働いているわけで、認可保育所に預けている人ばかりがいい思いをして、という議論に一部の新自由主義的価値観をもった民主党議員は火を焚きつけたいのかも知れないが、残念なことに認可保育所の質がどうなったっていいんだ、とは思ったことはない。
保育所:政府、設置基準規制を緩和へ 待機児童解消狙い2009年10月12日 2時30分 更新:10月12日 2時30分毎日新聞
政府は11日、認可保育所の設置基準などの規制を緩和する方針を固めた。国が地方自治体の業務を法令で規制する「義務付け・枠付け」の大幅な見直しを求めた地方分権改革推進委員会第3次勧告を受け、保育所については自治体が設置基準を条例で自由に決められるようにする。11月までに必要な法令の改正を整える方針で、自治体の条例改正が進めば、早ければ年内にも実現する見通しだ。
民主党が衆院選のマニフェスト(政権公約)に盛り込んだ「保育所の待機児童の解消」が期待されている。
保育所の設置基準は、児童福祉法に基づいて厚生労働省の省令「児童福祉施設最低基準」で規定されている。例えば、2歳以上の幼児が入所する保育所は(1)保育室か遊戯室(2)屋外遊戯場(3)調理室(4)トイレ--の設置が義務付けられ、保育室の面積は幼児1人について1.98平方メートル以上、屋外遊戯場は1人につき3.3平方メートル以上など細かい規定がある。
自治体からは「保育所の設置環境は地域で異なる。地域の実情に応じて運営できるよう、施設の基準設定を市町村に移譲すべきだ」(全国知事会)などの声が強まっていた。分権委も8日、国による保育所の設置基準が不必要な「義務付け・枠付け」だとして、廃止や見直しを求める第3次勧告を鳩山由紀夫首相に提出した。
政府は、保育所の基準緩和を早期に実現できないかを検討。長妻昭厚労相と原口一博総務相が9日に協議し、厚労省令の改正を検討する方針を確認した。保育所の設置基準のほか、省令で乳幼児の年齢ごとに細かく規定されている保育士の配置人数についても、見直しを検討する。
厚労省によると、待機児童は都市部に集中し、全待機児童数の8割程度を占める。都市部では、保育室の面積や屋外遊戯場を十分に確保できず、認可保育所が増えにくいため、待機児童の増加につながっているとの指摘もあった。【石川貴教】
【ことば】▽待機児童▽ 保育所に入所を申し込んでも満員で入れない児童のこと。09年4月時点(2万5384人)では前年比で3割増となり、同方法で統計を取る01年以降最高となった。自民党政権時代の08年、政府は10年間で利用者を100万人増やす「新待機児童ゼロ作戦」を発表し対策に乗り出したが、効果はまだ出ていない。
| 固定リンク
コメント
まったくそのとおりです。民主党に期待がありますが
あまりに保育について無知。最低基準の一任とともに、昨日出てきたのは保育単価が過剰すぎる、と事業仕分け。どこが過剰か、0才児3対1の定数を守ろうとすれば、赤チャン1人に16~7万いるのです。それでも職員給与は低くなるのです。子どもの食事、保育材料、職員の社保の事業主負担など人件費だけではありません。管理費などすべてが入っているのです。最低基準と単価の仕組みを勉強してほしいですよ、長妻さん、原口さん、仙石さん。
投稿: 木原克美 | 2009.11.04 23:24