8/2 ソ連とナチスドイツは同じか違うのか
ナチスとソ連は同じだ、という議論に、ロシア上院が反発したという。ソ連とナチスドイツが同列に語られるものか、そうでないのか、微妙な問題だ。
私は、社会民主主義者として、広い社会主義、労働者解放という思想の両端に、ソ連のような共産主義と、ナチスのような国家社会主義が生まれたことに、残念な思いをしている。
また評論家・呉智英は、広く民主主義そのものがそういう危険性をともなっていて、フランス革命のロペスピエールの独裁からして、ファシズムや共産主義と同じような過ちを犯している、と非難している。
大量殺人こそしないものの、大衆を民族性に熱狂させて敵対党派を解消し一党支配をやるということを、1930年代、英米以外のヨーロッパ諸国で経験している。
思想史に深く立ち入るのは、私には勉強が足りないのでこの程度にとどめておくが、民主主義や社会主義思想にこうした暴走があることを、自覚しておくべきなのだろう。
ナチスの政権維持手段のいくつかはソ連から学習した方法を利用しているし、独特のレトリックで国民を動員して国民の統合を図ったところ、ダメな国を勤労によって立ち直らせたこと、冤罪を辞さず粛清を行い徹底した言論統制を行ったこと、世界的不況からいちはやく脱出したことはよく似たところにあると思う。ボーランド、バルト三国などソ連にもドイツにも圧迫されてきた国からすれば、同列にしか見えないのだろう。
一方で、国対国となるとソ連は第二次世界大戦後半に入るまで攻撃することはなく、スターリン批判や、ゴルバチョフの誕生など、いくつかの軌道修正が図られ、70年にわたって政権を維持したが、ナチスはそれができず専ら個人のカリスマで政府を維持し、個人が去ることで国が崩壊している。社会主義の母国であり諸民族の統合であるという国と、一民族の優位性だけを語る国の思想の作られ方も大きく違う。もともとそこそこの大国であったドイツと、近代化が全然されていなかったソ連とでは、独裁政権の役割も機能も全然違ったことだろう。
1989年~1995年ぐらいまではナチスと共産主義のふりかえりがよくされてきたが、最近、ほとんどされなくなった。この両国の過ちから学ぶべきことは多い。
●私が立憲主義と議会制民主主義の枠内で公共性を重視し、1人ひとりの人権をできるだけ尊重していく社会民主主義という立場に立脚したのも、1989年大学生になった年から、東欧やソ連が崩壊し、ファシズムやソ連の間違いを知る機会を得られたことによるのだろう。
一発革命的なものごとの考え方は、暴力と退廃と、最後は社会の崩壊が待ち受けているということを両国の失敗から学んだからだ。一発革命で世の中うまくいくことはなく、自己を正当化するために次々に政治闘争をしかけ、社会の敵を作り続けなくてはならない。
したがって、非社会主義思想の世界の中でも、何もかも改革すれば変わるかのように宣伝し、社会の敵を作り続けた小泉構造改革のような一発革命的な思考回路が危ないということを、何度もここで警鐘を鳴らしてきた。現実、社会のあちこちの機能がぼろぼろになって自殺者と失業者が溢れかえってしまい、社会を作り直す機能でさえガタガタにされ、目先の生活のことばかりに多くの人がふりまわされている。一方で特定のコネ社会の中にいる人だけが大した労力もかけずにいい思いをして、その危機感からセキュリティーやらリスク管理ばかりが社会で幅をきかすようになって、とっても官僚的な社会になっている。社会全体が不幸になっている。
「ソ連、ナチスとは違う」 ロシア上院、同列視に反発2009年8月2日9時24分朝日
【モスクワ=副島英樹】第2次世界大戦の開戦から70年のこの夏、原因や評価をめぐってロシアと一部の欧州諸国が火花を散らしている。
「ソ連をヒトラーのナチスドイツと同列に扱おうとする試みはロシア国民への侮辱であり、受け入れ難い」。ロシア上院は18日、「責任をソ連に負わせる動きがある」として、こんな声明を採択した。
旧ソ連バルト3国のリトアニアで7月3日、欧州安保協力機構(OSCE)の議会が人権と自由に関する決議を採択。その中に「8月23日をスターリニズムとナチズムの犠牲者追悼の日にする」「20世紀の欧州はナチスとスターリン主義という二つの全体主義体制を経験した」などの記述があることに反発した。
独ソは1939年8月23日にバルト3国でのソ連の権益黙認の代わりに独のポーランド侵攻を認める条約を締結。70年がたつのを機にリトアニアなど旧共産国主導の決議に問題の記述が盛り込まれた。
上院の声明は「39年に始まった第2次大戦は20世紀の最大の悲劇だが、主因をつくったのはナチスドイツの指導層だ」と指摘。「戦争が起こった現実の原因について修正を加え、ソ連にも責任を負わせようとする試みは、平和のために高い犠牲を払った我が国民への侮辱だ」としている。
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