7/18 民主党の子ども手当の損得と政策効果
民主党の子ども手当2万6000円/月/1人という政策に、議論が出始めている。
読売は、子無し世帯は増税として、主に専業主婦家庭を的に批判を喚起する内容の記事を書いている。
私は事実の指摘としてはその通りだと思うが、それに煽られて損得で議論するのは間違いだと思う。税は、財の再分配をする機能があり、誰が損して誰が得するか言いだしたらきりがない。財政支出を受ける側がトクで、財政を支える側が損である。
高速道路1000円に、犠牲になっている業界以外全然文句を言う声が挙がらないが、私のようなマイカーを持たず、自動車をできるだけ利用しない人間にとって損でしかない。
医療費にしてもそうである。
この記事に触発されて損だトクだと議論するのは愚かでしかない。諸外国の子育て政策への予算配分と比べると、日本の予算配分はあまりにも少なく、財源配分の問題では、子どもや子育て世帯への支援ということで、今よりましということになろう。
読売の記事を裏返せば、低所得者で子どもが多い家庭がトクをし、高所得者で専業主婦で子どもがいない人が損をする。そうなるのは子ども手当だから当たり前の話だ。これまで、高所得者ほどトクをする所得税の扶養控除で子育てを手当したとしてきたことの軌道修正が必要で、民主党の政策はその点、整理したものと思い、配分の問題としてはいいと思う。
しかし考えるべきは子ども手当の政策効果である。
いったい児童(子ども)手当の増額で、何を狙っているのか。少子化対策(多産化)なのか、子育て環境の充実なのか、若年家庭への支援なのか、子どもの能力開発なのか、まったくわからない。金持ちも貧乏人もほとんど一律に配分されることも意味がなさそう。
子どもへの支援は、教育、福祉、医療、文化と具体的なサービスとなって提供されてはじめて結実するはずだが、具体的なサービス提供を保障する方策がなく、価値判断なしにとにかくお金を配布すればいいという発想は、克服したはずの小泉構造改革と大して変わらない価値観であり、麻生首相がやった低額給付金とあんまり変わらない。給付金はあくまでも最低生活費+αぐらいを基準に、それを割り込むような低所得者に限定して行うべきではないか。
子どものための医療、福祉、教育、文化の施策に、具体的なサービスを作っていくためには、財源が必要である。しかし子ども手当で何兆円もばらまいてしまっては、その財源がことごとく食いつぶされてしまう。それが私がこれまで児童手当増額論に反対を続けてきた理由である。
子ども手当ではなく、直接サービスの充実、提供体制の確保に政策転換してもらいたい。お金もらっても小児科はない、保育園はない、教育は生徒指導にうつつを抜かして質が低い、子どもの居場所が塾とコンビニの前しかない、そんな社会に何らかの手当をすべきである。
この間、高齢者や障害者にやってきた政策は、働ける人が働けるようになる支援(そのことが自己目的化していることの妥当性は問われる)であって、現金バラマキはもっとも最初に削減された政策ではなかっただろうか。子どもの場合は全く逆のことが起きている。児童手当を充実させると、働かないインセンティブが生まれるのではないか。
世界の保守政党に対抗する政党は、子どもや家族政策をきちんと確立している。保守政党以上にお金を払っておしまい、というのは日本だけである。
やるべき具体的な施策の中で、大都市部の認可保育園の整備が緊急課題だろう。前回の待機児童問題が起きたときから10年以上も課題でありながら、育児休業期間の上限の延長(1年→3年)とか、父親の育児休業取得とか、ワークライフバランスとかそれ自体は反対できない言葉でまぶされて、ヒト、カネ、モノの投入を怠ってきたのではないか。
さらには昨年秋からの世界同時不況で、専業主婦の多かった首都圏、近畿、中京圏で働きに出る女性が急増し、保育園不足が深刻な事態になっている(地方都市をみればそれが当たり前の姿に近づいていると思うが)。
保育園に当たらなかった家庭にとっては、月数万円の現金をもらうより、保育園を何とかしてもらいたいのに、現金バラマキで数兆円の支出をしてしまったら、保育園の整備なんかやっていられないだろう。
さきの都議選では、民主党の保育園政策がいちばん悪い。自民公明が認可保育所+自治体独自認証保育所の組み合わせ、共産党が認可保育所、社民党や生活者ネットワークが認可以外も含めた保育所の質の向上を政策に掲げているが、民主党は質は問わずに保育サービスを増やすと掲げているだけ。具体的な財源や技術的裏付けは何もない。
当面は、低劣な保育サービスでも、貧困にあえいだり、育児放棄されるより充実して保護した方がいいが、そうして提供した保育サービスを、認可保育所(都基準ではなくて国基準でいいから)、せめて認証保育所まで到達できるロードマップを示すべきだろう。
民主党はいっとき規制緩和委員会などと、保育園業界を既得権益として規制緩和の対象としてみなしていた時期があった。さらに党内の脳内保守派の一部の議員(脱党してなんとか新党に流れた連中もいる)が、ネット右翼におもねって保育園は育児放棄みたいな議論もしたりしていて、保育園問題に直視した政策を打ち出したことはなかった。一部の良心的議員が何とかおかしな政策を打ち出さないようにしていたところもある。
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