5/30 弁護士・研究者になるのも資力次第
日本の知的職業の質の維持が危機に瀕している。
第一は、医師である。医師について書くとやかましいから、1つだけ。お金をかけなければ医師になれない状況が続いている中、世襲の傾向が強まっている。これは昔からの傾向で、医療の質が高くなっていることから、教育コストは非常に高くなっている。医師養成を公費でやるようにしない限り、新しい人材候補が流入してくることはないだろう。今のままの養成では極端な言い方をすると医者の子しか医者にならない。医師の質がどうなるのか、不安である。
第二は、弁護士・検察官・裁判官である。悪名高い司法制度改革のおかげで、3年で600万も払い、合格率が3分の1の法科大学院に行かないと、弁護士にもなれなくなった。しかも手をかけて教育したのに、どういうわけか司法試験の予備校で最初の頃に習うような二重売買についての権利関係も説明できない弁護士がいると報じられていた。
以前の司法試験は、資質以前に試験だけで判断することが問題だと言うことだったが、今は資質よりも試験の能力よりも、財力で弁護士になるようになった。弁護士が増えたが、大半が企業舎弟に成り下がっている。人権を守るようなことは二の次になった。養成にお金がかかりすぎるので、やがては医師のような問題が起きてくるだろう。
田中森一のようなすごみのある司法試験合格者は出てこないかも知れない。
第三は学者である。博士課程を修了しても、食べていける研究者になかなかなれない。平均6年の浪人期間を過ごさなくてはならない。その間、コマ取りの非常勤講師で食いつなぐ。資産家や金持ちの子でなければ、その期間を耐えて過ごすことは難しい。研究者になるのが、能力ではなく、資力による耐久レースになっている。金持ちの子には、時間が過ぎれば過ぎるほど、どんなに優秀でも資力のないライバルが脱落してくいわけで、そのことが学者の資質を下げているのは言うまでもないだろう。
最近、常勤講師を縮小する傾向があり、ひどい状況になってしまったらしい。その上、文部科学省は、高等教育機関に行く人が増えることが教育の質を高めていると誤解にもとづき、大学院新設の利権があるのか、需給バランスも考えずに大学院を増やし続けてしまった。90年代の大学新設と大学全入、バカ大学化と状況が同じである。
折しも就職難の時代が続いており、無理して就職するなら、と大学院に行くような人も増えて、大学院生の供給過多の中で、もっともっとひどい状況になるのだろう。
こうして、医師、弁護士、学者が新しい人材や、貧しくても耐えて勉強するような人が入れなくなり、競争圧力が特定の恵まれた階層の人だけ無くなることで、世襲化や階級社会の上の人たちのものだけになる。そのことの弊害は大きいだろう。
どんな制度でも一定の上層階級の人たちが恵まれた職を取っていく。しかし、経済的に恵まれない階層からはいあがる道がきちんと保障されていないと、本当にこの国はダメになると思う。
ポスドク:倍増も職なし 海外流出は加速 大学准教授調査
2009年5月30日 15時0分 更新:5月30日 15時0分
ポスドク会員の所属先内訳 10年間にポスドクが就職するまでの期間が平均6.4年と倍近くに増え、職が見つからない若手研究者の海外流出が加速していることが、大阪府立大の浅野雅子准教授(素粒子論)の調査で分かった。国が常勤職を確保しないままポスドクを増やした計画が背景にある。素粒子論分野のみの調査だが、海外在住の研究者を含めてほぼ全数を調査した例は珍しく、他分野でも同様の傾向があるとみられる。日本の将来の科学技術発展への影響が懸念されそうだ。【石塚孝志】
◇就職まで6.4年
素粒子論研究者で作る学術団体(素粒子論サブグループ)の98~08年度までの名簿を基に調べた。
それによると、全体の人数は700人前後で推移しているが、ポスドクの人数は107人から193人と1.8倍に増え、逆に博士課程に進学する人は85人から47人に減った。
博士号取得後にポスドクを続けている期間は98年度の平均3.4年から08年度の平均6.4年と増加。海外流出したポスドクは98年度の3%弱から04年度28%、08年度41%と急増した。
◇基礎科学先細り
03年以前の同団体の会員制度は現在と異なるために単純な比較はできないが、ポスドクが海外に職を求め、昨年秋のノーベル物理学賞受賞者の南部陽一郎さんが米国籍だったことで話題になった頭脳流出が年々増えている傾向を示唆した。特に、台湾や韓国など東アジアへの流出が目立つという。
浅野准教授は「若者が就職難を心配し、博士課程に進んで研究を続けなくなっている。このままでは日本の基礎科学は先細りしかねない」と危機感を募らせている。
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