1/23 総務省の自治体非正規労働への認識の質
総務省の「地方公務員の短時間勤務の在り方に関する研究会」の報告」が発表された。
昨年3月18日と12月18日の参議院総務委員会などで、この問題を直視する、総務大臣、厚生労働大臣の答弁があり、マスコミも総務省が非正規問題に取り組んでいる、などとミスリードしたため、期待を持たされていたこの報告だが、内容があまりにも悪い。労働側委員、民間委員が奮闘してくれたが、現実論より神学論争に持ち込んだ総務省・行政法学者たちの勝利で終わった。
1つは、地方公務員の非正規労働問題の解決を前進させるために、2004年に制度化された任期のある短時間勤務職員制度を普及させる目的があったが、これが全く前進しなかった。任期の定めを外すどころか、適用範囲を資格職に拡大しただけで、他はこれまでのままにである。一時金も手当も退職金も出してならない、3年の間一度も昇給はしてならない、焦点の雇用更新の手続きも、読みとりに含みを感じない自治体にとっては、3年に一度新規の人たちと同じ条件で競争試験を受けよ、とする解釈になる。
1つは、現行の地方公務員の臨時職員、非常勤職員に対するひどい仕打ちの温床となっている現行法を遵守せよ、と喚起し副作用をつくりかねない内容であること。
1年ごとに契約を切れ、3~5年で人を入れ替えることも考えろ、長期雇用の期待は抱かせるな(裁判起こしても無駄だと教えよという含み)、昇給はやってはならない、正規職員との均衡・均等待遇は考えなくてよい、そうしたことを本人に周知徹底しろ、などとするもので、およそ時代の流れに反しているばかりが、民間非正規労働者に同じことをやれば、雇用では違法や不当とされる内容のオンパレードである。まして実情で判断する裁判所では全く意味のないことばかりを求める内容である。
現行の地方公務員法で自治体の臨時職員、非常勤職員については、任期満了となったら、裁量権で雇い止め自由になっている。法律では何も書いていないのに、公権力は正しい、という大陸法の考え方からだ。法律どおり考えればきれいな考え方だが、現実には、公権力といえども恣意的な運用は行われがちで、好き嫌い、職場に異論を持ち込んだから、などの理由で雇い止めが行われている。民間ではこうした雇い止めは不当解雇とされている。苦情解決の仕組みすらない。裁判所も門前払いである。
そういう待遇で働いている人が、図書館で文化を守り、保育園や学童保育で子どもの安全を預かり、消費者トラブルの解決にあたっている。
そうした仕事を非正規労働者で充ててきたことそのものを批判する人がいるが、私は仕方がない面もあると思う。財政問題や総務省の公務員数の削減が最大の原因だと思うが、その上に、待機児童問題、延長保育という行政ニーズの拡大、公務員数の削減で定期異動ができない専門職の常勤職員を雇いにくくなっている現実がある。住民サービスをあれこれ求める割に、人員削減に拍手喝采する有権者が大半だ。そうした条件の中でできることは、自治体で働く非正規労働者の是非論を問うのではなく、彼らに待遇改善と安定雇用を、労使の中で整備していくことである。
正規職員が雇えず、非正規労働者が最前線の職場を支え、スキルを蓄積していく、というのは、地方自治体でけではなく、スーパーやデパートなど、サービス産業全般に共通する現象である。民間サービス産業では、パート労働力の戦力化ということで、待遇改善、正職員化への人事制度、正職員との中間的制度の整備などに取り組んでいる。同じサービス産業なのに、公権力を振りかざす公務員像が働くことしか想像できず、非正規は非正規なんだと、サービスを支えスキルを蓄積している労働者を虐げ続けることになりかねない今回の報告には問題が多いと思う。
●今回の報告のベースになっている、解雇に関する認識には、整理解雇と不当解雇の混同がある、と思う。
自治体は、住民から強制的に徴収している税金で運営されているから、不要になった事業について、他の部門で仕事が吸収できなければ、整理解雇されるべきという考え方を覆すのは難しい。そういうときには公法の論理が出てしまうことに対抗しにくい。そうなれば労使で努力して、自発的退職と、他の就職先の斡旋など調整すべきだ。
しかし、今自治体で行われて、問題になっている雇い止めの大半は、図書館や保育園が閉鎖統合されて臨時保育士を雇い止め、という整理解雇ではなく、市議会議員の紹介者を押し込むために誰かをクビ切らなくてはならない、とか、民間がそういうことになっているらしいという事実誤認のもとで3年~5年で人だけを入れ替える雇い止め、若くてピチピチした労働力がいいから、という本音が見え隠れする雇い止めとか、不当解雇そのものが大半である。
そうした解雇に、地方公務員法の総務省解釈で、解雇する側に保護を与えることが正義なのだろうかと思う。先日労働相談を受けた事例では、復職をかちとったものの、解雇する側の法的保護を背景に、連日のパワハラが待ちかまえていた。ひどい人権侵害であった。
労働力によってかたちづくられる住民サービスなんか二の次にした、予定調和の論理しかないことに涼しい顔をしていられる総務省や行政法学者とは何だろうかと思う。
この問題に関しては政治家の方がまともな判断できそうなので、今後は政治ルートでの問題解決に期待したい。12月18日の参議院総務委員会では、民、自、公、共、社の5党がこの問題に誠意をもったやりとりがされている(もちろん自民党は一方で公務員の労働に関する不祥事についてあれこれ言い足すことを忘れてはいなかったが)。
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