9/20 プライベートな時間の国家公務員の政治的自由をどう考えるか
赤旗を配布した共産党員の国家公務員が国家公務員法違反で有罪という判決。
そもそも国家公務員法が、職権も何も関係のない全くの勤務時間外、サービス残業時間以外で、役所の用務ではなく私人としての政治信条として政治活動をした分について処罰するのは憲法違反ではないかと思う。
憲法が公務員に要求していることは、第15条に書いてあるとおり、一部の奉仕者であってはならない、ということと、第99条の憲法遵守である。
そこから考えると、国家公務員法が規制している政治活動の禁止は、極力最小限に留まるべきでだろう。なぜなら、政治活動の自由は基本的人権の中でも最も優先度が高い自由権ではないかと思う。なぜなら個人の自由を否定する政治勢力を抑制する担保は、政治活動の自由を保障しなければならないからだ。一方、公務員の政治活動の規制の目的は、公務員が政治活動することによる害悪を阻止すればよいわけで、国家公務員がその身分を示さずその権限の範囲外の相手に、勤務時間外に、私人として行っている分には、とくにビラ配布程度のことは、政治活動による害悪が発生しないはずである。
しかし、そんなことを規制しても公務員が政治活動を行うことの害悪はなくなっていない。全く無法地帯になっているが、官僚が与党議員の選挙区や後援組織が利益を受けるようなかたちで個別に便宜を図る政策を打ったり、箇所づけ順位を便宜図ったりということはほんとうは害悪だが、そうしたことはよほど悪質な事例でないと取締りが行われないし、国家公務員が省庁ごとに与党の族議員のために業界団体などを使って動いているというのは半ば常識だが、そんなことも国家公務員法違反として取り締まられないでいる。露骨に賄賂でも贈らない限り規制の外にある。しかし、税金を使った後援組織の培養なわけで、これは害悪というしかない。
不思議な現象である。となるとこの国家公務員法の政治活動の規制は、キャリア、ノンキャリアの差別法として機能していることになる。
町村官房長官とか、国家公務員を経験し、かつ自らの親を政治家としてもっている人は、完全にきれいだったのだろうか。国家公務員時代に、親の選挙を多少とも手伝わないなんて考えられるのだろうか。
政治活動規制の適用範囲を考えるほかにも、考えることがある。
近年、国や自治体の業務の民営化や民間委託が進んでいる。そうすると、身分としての公務員と非公務員という切り分けで何かを規制したり、別な法体系で管理することは、矛盾が出てくる。極端な例だが、民間委託した体育館で、支持政党によって利用者を選別して優先順位をつけても、法律には違反しない(普通はそんなことないよう委託契約でやんわりとそうしたことが書かれているはずだが、公共施設が自民党系の団体なら演説会に貸し出してくれて、野党の団体には政治目的利用の禁止とか言って断ったりすることも多い)。しかし、一方で国家公務員であれば、アフターファイブでさえ一切の政治活動ができないとなれば、町内会が推薦している議員の講演会すら出られないということになる。
こんなものが妥当な法律解釈だといえるのかどうか。身分で切り分けるのではなくて、国民との関係で解釈すべきなのではないだろうか。
公務員が政治活動をしてはならない、という日本人の常識だが疑ってみる必要がある。第一に、地域の署名から何から実にささいなことまで政治活動とみなすことができてしまう問題点がある。実際、司法に関する市民シンポジウムに出席したことが契機に政治活動をしたとして最後は解任されている裁判官までいる。どこまでひっかけられるか、警察や検察の裁量にあるようなものだ。それが法律としてどうなのか。第二に、公務員の市民的権利を制約することで防げる害悪より、市民と公務員の間の壁を厚くしているように思う。そのことで公務員が囲われた特権性をさらに強めてしまうようなところがありやしないか。そんなことを考えてみるきっかけにすべき判決である。
赤旗配布の厚労省元職員に有罪判決 政治的行為を認定
2008年9月19日15時31分
05年9月の総選挙の投開票日前日に、東京都内の警視庁職員官舎の集合ポストに共産党機関紙「しんぶん赤旗」の号外を配ったとして、国家公務員法違反(政治的行為の制限)の罪で在宅起訴された、厚生労働省元課長補佐の宇治橋真一被告(60)=3月に定年退職=の公判で、東京地裁(小池勝雅裁判長)は19日、求刑通り罰金10万円とする判決を言い渡した。
公判では、公務員の政治的活動を禁じ、罰則を設けた法律の規定が、表現の自由を定めた憲法に違反するかなどが争点となった。
弁護側は、宇治橋元課長補佐が休日に個人で配布した行為は「公務員の政治的中立性を損なうものではなく、犯罪には当たらない」と主張。一方検察側は、「政治的偏向の強い行為で、厚労省の事務処理全体の公正な運営への国民の信頼を著しく害するおそれがあった」と訴えていた。
宇治橋課長補佐は、住居侵入の疑いで現行犯逮捕され、国家公務員法違反で追送検された。しかし、検察側はこのうち住居侵入罪については「事案が軽微だ」として、不起訴処分としていた。
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