6/26 リスクの高い人がいない組合健保の加入者が保険料を高いというなかれ
後期高齢者医療制度への移行で、派遣社員の健康保険料が急増したという話題がちらほらある。派遣社員=ワーキングプアというイメージから、かわいそうという議論になるが、ちょっと待ったと思う。
朝日新聞の記事では、手取り月収19万の派遣労働者の6100円の健康保険料が7600円になったということだが、一般の中小企業で働く人は政管健保に入るしかないから、同じ月収でずっと前から健康保険料9500円ぐらいは払っている。「官製ワーキングプア」と呼ばれる人たちも政管健保だから、やはり総収入額の4.1%を払っている。この派遣労働者の健康保険料が今まで低かったと考えるべきなのだ。
低くできたからくりは、大手派遣業者が派遣業者どうしで健保組合を作っていることにある。そこに入る派遣労働者はどうしても若年者が中心になるから、当然若くて医療の世話にもならず給付額が少ない。かつての高齢者医療費の持ち出しの計算式も、年齢が若い人から低めにとるようにできていた。したがって保険料をぐんと下げられる。病気がちになる50代の派遣労働者など、まだこの社会ではほとんどいないからだ。
ではその分の負担はこれまでどこに行っているのか、ということである。当然、50代の多い業種の健保組合や、中小企業の労働者が入る政管健保がかぶってる。健康保険の世界は、少数派がその他カテゴリーで国保や政管健保、斜陽産業の組合健保に束ねられるため、収入の低い階層ほど高い保険料を払うハメにおちいりがちである。
後期高齢への移行で、健保間のこうした年齢バランスによって高齢者医療への負担が変わる仕組みを是正する措置が執られた。その結果、若年者しか入らないような組合健保の保険料は上がった。
そういう前提条件をふまえずにかわいそうな派遣労働者が後期高齢の導入で保険料が上がった、という直情的な記事を書くようでは困ると思う。派遣業界のように独自の組合健保を持っているところはいいが、そうでないところの労働者は元から高い保険料を取っていて、それはとりもなおさず派遣業界が負担しない健康保険料を肩代わりさせられていたと言ってもよい話である。
組合健保の負担と給付の問題は、まだまだいろいろ理想と矛盾するところがある。制度の動きをもっときちんと観察せよ、朝日の福間大介記者よ。
派遣社員保険料25%増 高齢者医療導入で健保に負担2008年6月26日21時54分朝日
4月に後期高齢者医療制度が導入されたのに伴い、サラリーマンが加入する健康保険組合の負担が増えている。高齢者の医療費を賄うため新たに支援金の支出を義務づけられたためだ。派遣社員が加入する人材派遣健康保険組合(派遣健保)の保険料は前年より25%アップ。収入が少ない派遣社員からは「私たちも大変なのに」と、当惑の声が出ている。
愛知県内の女性派遣社員(34)は、知人から医療制度が変わったことを聞き、1月分と3月分の給与明細を見比べて驚いた。健康保険料が6100円だったのが7600円と、1500円増えていた。時給は1400円程度で、手取りは毎月19万円ほど。貯金を取り崩しての一人暮らしだ。「時給より高くなるなんて知らなかった。これじゃあ、1時間ただ働きしたようなもの」
東京都内の製薬会社に派遣されている女性(29)も保険料が6710円から8360円に。5年以上も派遣社員だが、昇給は時給1640円から1670円になっただけだ。「どうして、年収が低い派遣社員からこんなに保険料を取るのか」と話す。
直接の原因は、保険料率のアップ。約40万人の派遣社員が加入する派遣健保は3月、保険料率を6.1%から7.6%に引き上げた。被保険者の平均月収は約23万円。この場合、保険料が1800円高い9120円になる。
保険料率を上げたのは、高齢者の医療費を支えるための負担が増えたためだ。
07年度まで、老人保健制度による拠出金約62億円(07年度)を支払っていたが、派遣健保のように若い現役世代の多い健保には軽減措置があった。
4月に始まった75歳以上が対象の後期高齢者医療制度では、各健保が加入者数に応じて支援金を出す仕組みに変わった。大規模健保ほど負担が大きくなり、派遣健保の負担は08年度211億円。さらに、高齢者が多い国民健康保険の財政を支える納付金制度も4月から始まり、新たに156億円の負担が増えた。
08年度の負担金は総額で465億円。総支出に占める負担金の割合は30%から43%になった。同健保の渡部尚典業務部長は「派遣社員の方には本当に申し訳ないが、うちの拠出金の急増ぶりは異常。保険料を引き上げるしかなかった」という。
健康保険組合連合会によると、健保組合全体でも08年度の拠出金総額は前年度より5094億円多い2兆8423億円に上る見通しだ。(福間大介)
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