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2008.05.04

5/4 暗い現実を隠さずに

労働法の研究者、浜口桂一郎氏のブログから、「ビジネス系フェミニズムの悪弊」という記事を見つけてその皮肉ぶりが面白い。

日系もとい日経新聞系のミリオネーゼだかマヨネーズだかの女性キャリアが、育児も仕事も楽しくやりました、と、何の屈折もなく語るシーンが一時期流行したが、まだいたよと揶揄する記事。もう5年早く読みたかった。

引用にあった

メディアは育児に関する後ろ向きな話題を“社会問題”として追及するだけでなく、前向きに両立している人たちを紹介することに注力した方がいいように思う。

という下りに、日経新聞の意志力念力主義をまた感じ取る。

子育てしながら仕事をするということは、ほとんうにしんどいことであるし、様々な世間の冷たい眼、言葉にさらされるわけで、社会を恨んだり、制度を恨んだり、ときには人を恨んだり、そんなことが当たり前のようにあることだが、女性経営者となった人たちは、実際どうだったの、という検証できる素材を一切与えず、ポジティブな証言しか与えない。比較的恵まれている条件にあり、しかも男である私でも、いろいろ壁にぶち当たって、何かを諦め棄てる判断を迫られ続けているのだから、世の女の人たちはもっといろいろ壁に当たっている。

17時32分ぴったりに仕事をブチッと切って帰宅し、乗換駅ではダッシュして急行に飛び乗り、保育園にお迎えに行き(これは仮定の現実ですが、時間とか「急行」などという言葉を適当に入れ替えれば子育て中の人とりわけ母親の日常だと思います)、などというような現実の中で、自然な雰囲気もくそもあるかと、思う。

浜口氏にやり玉に挙げられている川本裕子氏は、よほど恵まれた職場環境にあったか、それとも子育てにまつわる暗い事実を隠蔽しているかどちらかだろうと思う。
実際に自分が外せない発表のある日に、子どもが熱を出して保育園から追い返されたときにどうしたのだろうか。世の多くの人は、ここで仕事を犠牲にしている。その結果として、みそ扱いされるしかなくなる。
川本裕子氏のように東大出ているおばちゃんならともかく、どこにでもある(と言ったら失礼な)大学・短大出ているおばちゃんが、夫が名古屋に転勤したので名古屋に転勤させてください、などと申し出て、ほいほい転勤させてくれる会社なんかあるだろうか。偶然のポストがあればいいが、そんな人事を認めるわけにはいかないと却下どころか永遠にその話をさせてもらえないぐらいのことになりがちではないか。

川本氏のように「前向きに努力」したって、無理なものは無理だし、そこで無理を無理して頑張ってもいいが、そんなことでは仕事と家庭の両立などという万人にとって解決しなければならない課題のための薬にはならない。私は、障害児を抱えてあらゆることを絶望しながら、その中から一筋の光を見いだして抑圧してきた感情と折り合ってきた人や、自分のおかれた状況の不当さについて、周囲から冷たく言われながらも声を挙げ続けた人たちの話の方が信用できる。

川本氏の楽天的な話より、結婚も子育てもせずに猛進する奥谷礼子氏の方がすっきりしている。まぁ、どちらも多くの働く人たちの現実にあえて眼をつぶって、観念的な念力主義と新自由主義経済の限りない可能性を盲信しているあたりよく似ているのだが。

●この川本氏の記事にあるような「社会問題」に「追及する」のではなく「前向きな人を」「紹介する」運動論的なものは、最近、左翼や市民運動の運動論でも見かけるもので、そのことで運動は発展することが多いが、何か大事なものを落っことしていっているように思うこともある。

●昨日の大阪府の職員人件費に関して労組を「抵抗勢力」と書いた朝日の渡辺哲哉という記者、労働問題でも何でもなくて、ただの橋下の追っかけ記者だったことが判明。橋下寄りの記事になるわけだ。

●連合が出している月刊「連合」5月号に自治体の臨時・非常勤職員に関する原稿を掲載していただく。連合は民間労組の役員がよく読むので、自治体の臨時・非常勤職員があまりにも法律の保護がなさすぎることを書いたが、周囲の記事と比べると、文章が硬かったかと少し反省。

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コメント

そう言えば、きくちゆみ氏も「みどりの会議」で呼ばれて講演した際に、「前向きに」って言っていましたね。

大体、「前向きに取り上げろ」って言われても苦しい現実が無くなる訳でもないのに、それを覆い隠して「前向きに」って何処か性質の悪いスピリチュアリズムを想起するんですよね。そういう意味では(一部で非科学的だとか陰謀論者とか批判されている)きくち氏が、その様なことを言うのって象徴的と言えば象徴的かも知れませんけど。

投稿: 杉山真大 | 2008.05.04 01:28

ハマちゃんこと濱口教授が今回槍玉に挙げたのはまさに、アメリカ成功哲学(≒新自由主義)妄信者がしばしば繰り出す言説ですね。社会に現実にある問題や幸福追求の上での障害などを「自己責任」と考えることで自分の問題として初めて捉えたことになる、と主張し、問題への着眼を否定ないし非難するというこの手の言説はかつて日教組が教育現場で唱えたものですが、現在では経団連がその悪事から眼をそらされるためにすぐにでも教育に持ち込みたくてたまらないお家芸となりつつあるようです。
解散した教育再生会議も、メンツをみればそのような人物ばかりが並んでいました。

投稿: Lenazo | 2008.05.04 14:52

そりゃいつも前向きにやっていければどんなにいいか、ねぇ。

投稿: Yuri Ishtar | 2008.05.06 02:17

>>杉山さま
きくちさんがどういう人なのでコメントは控えますが、あんまり前向きにやっていると労働や生活の課題はついつい言いにくくなって、金持ちのお嬢さんや、所得の高い配偶者に恵まれた人か、左派系政治家のための運動でしかなくなってしまう現実はありますよね。
>>Lenzoさま
日教組はそんなに主体性を問う労働組合ではなかったように思います。むしろ、啓蒙主義といった方が実態に近いのではないでしょうか。
>>yuriishterさま
ですね。ネガティブなものの見方考え方は社会や人間の成長のためには大事です。
優秀な組合活動家や市民運動家のなかには、ネガティブな思考しかしない人から、行動への参加を通して成長しリーダーに変わっていく人が少なくありません。

投稿: 管理人 | 2008.05.06 23:32

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