5/20 年金積立金運用利権の手のひらにあるマスコミの年金報道
社会保障国民会議で年金制度の基本設計について議論が始まったようで、そのことで今朝の新聞は基礎年金を税方式でやるか、社会保険方式でやるか、試算が行われている。
しかし悲しいのは、損か得かという議論しか行われていないこと。年金は何のために払われるのか、年金は誰がどのように負担するのか、それを逐一考えていけば、個々の損得をあげつらうような報道は慎むべきではないかと思う。
私は基礎年金は税方式が優れていると思う。基礎年金に関しては過去の保険料納入実績はチャラにしてもらっても構わないと思う。同級生や年下たちの中にいて、安定した就職の機会を失ったワーキングプアや、日々年金保険料のことなんか考えていられないぐらい必死に生きている人のことを考えたら、年金保険料を払えているのはたまたまの状況であると痛感する。私の生活を支えてくれるさまざまなサービス産業の人たちは、まさに時給労働をしているわけで、そういう人たちが年金が払えなくて貰えないことを、金融業界に就職した若者のように、日経新聞読んでざまぁみろなどとは言う気持ちにならない。それから、心身の障害や生活環境から、最低限の収入で働くことができても、年金制度について理解できない人が一定おり、そういう人も救われることになる。
そういう意味では、最低年金相当に当たる部分については、税方式がよいと思うし、そういう改革は避けられないのではないかと思う。非正規雇用や失業者が老後も痛いめにあいつづけることになる。非正規労働者を増やした以上、全て社会保険方式というドグマに囚われないかたちでの改革を避けるべきではない。この改革を避ければ、待っているのは年金制度の民営化、つまり投機ファンドの資金にされるということになる。
そういう状況におかれた年金制度の議論をすべきなのに、今日の新聞のネガティブキャンペーンのレベルの低さにはほんとうに呆れた。公正だったのは東京新聞だけ。毎日は関心のある人だけ読む欄できちんと報道していたが、目立つところは損得の議論ばかり。朝日はサラリーマン家庭は損と断定していた。サラリーマンにもよるんじゃないかと思うが、おそらく年収700万円以上で専業主婦がいる家庭を想定しているのだろう。夫しか社会保険料払っていないから。
またマスコミは、増税(もちろんその裏側で社会保険料の減額が行われる)が消費税だけ行われることを想定しているのも問題だ。社会保険料は個人だけが払っているのではない。自営業以外の人は雇用主も払っており、マスコミの報道では、その負担がチャラになっている。ここまでは報じられているが、だったら企業負担が軽減された分法人税を上げればいいという議論がない。その方が現行の社会保険料企業負担分より、ずっと企業の体力にあった負担が行われるはずだが、その改革については全く無視されている。
結果として、税方式は損という印象がばらまかれて、社会保険方式の枠内での議論しか選択肢が残されなくなっている。しかし、すべて社会保険方式にしていることが、年金を積立方式のような積立方式じゃないようなわかりにくさをまきちらし、年金に対する信頼をいつまでも回復できない状態にしている。こうした印象報道で誰が得するかというと、疑似積立方式で年金運用金を運用できる厚生労働省の幹部官僚たちである。社会保険庁をあれだけバッシングしておきながら、結局はお釈迦様の手のひらの上である。
社会保障制度を、パチンコの損得のような議論しかできないマスコミが、社会保障制度の議論を不毛にしているんじゃないかと思う。もっと勉強してもらいたい。
年金制度を考えるための前提となる現実からの視点
・非正規労働者の年金権をどう実現するか
・転職が珍しくない社会での年金制度をどうするか
・2組に1組が離婚する時代の年金制度をどうするか
・4割を占める高齢者生活保護の問題をどう解決するか
・巨額の年金積立金を運用することは公共事業に浪費されるか投機マネーに使われるだけ
・豊かな老後は送れなくても、どんな挑戦して失敗しても最低限の生活は保障されているという安心感をどうやってつくるか
・金融リテラシー教育などできない人たちがいるという前提があること
・経済が大混乱になっても持ちこたえられる制度であること
など。今までの全額社会保険方式でこの問題が解決できるとは思えない。
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コメント
私は育ちが良くないので、やっぱりパチンコの損得レベルでしか考えられません(笑)。
今回の「税方式」の試算は、本気で税方式を導入するつもりではなくて、単に消費税率のアップをスムーズに持っていくための、政府による世論操作が主目的じゃないのですか?
本当に税方式でやるのなら、各省庁の特定財源(特別会計)やODA、そして思いやり予算などの無駄遣いを削減した上での試算でないと、単に「消費税上げないと、これから大変ですよ」と脅すだけでは国民は納得できませんよ。それに、政府・与党をみていると、消費税率上げた分が年金予算にまわる保証なんてどこにもないし。
それに「税方式」は、日本経団連が今度提言に入れようとしている。それはご存知のように「税方式」だと企業の保険料負担がなくなるから。当然その分の法人税率増税なんて、連中が容認するわけがない。それに法人税率はいまだに優遇されたまま(一方で個人の定率減税は廃止ずみ)。今の政府はこれを本来の税率に戻す気配は全くない。
「税方式」なんて、胡散臭さ満載の提案ですな。
投稿: iulius | 2008.05.20 23:36