5/11 セーフティーネットの再建に、財界ブレーン、政府審議会常連学者、金子勝が合意する
NHKスペシャル「セーフティーネットクライシス・緊急警告社会保障が危ない」を見る。ゲストは、門脇英晴日本総研理事長、吉川洋東京大学大学院教授、慶応大学教授金子勝の3氏で、それぞれ財界ブレーン、政府の審議会の常連学者、体制批判の学者のそれぞれから人選されたのであろう。しかし珍しく、意見が大きく対立することはなく、最低限の共通認識が共有化されたことが目をひいた。しかしそれぐらい今回紹介されたセーフティーネットの割れ目にいる人たちの問題が深刻であるということだろう。
紹介された事例は、①リストラで非正規雇用に転換になったサラリーマンが病気になったときの健康保険制度の問題、②介護保険制度の見直しで軽度の介護が切り捨てられたことによる自立が閉ざされた要介護者、③母子家庭である。
①については、私が過去から感じている問題意識そのものである。労働者の非正規化で社会保険逃れをしている企業が出てきていること、リストラが過酷になればなるほど病弱な人が正規社員で残る余地は少なくなり健康保険を必要とするような人が社会保険の網から外れること、したがって大企業や同業者組合が強い業界の組合健保の財政は黒字になるのに対して、市町村国民健康保険は失業者や非正規労働者のふきだまりになって財政が悪化していくということなどが指摘されていた。
健保組合という制度は、そもそも無産者の自衛手段として始まったものだが、今やその役割は大きく変わってしまい、大企業の正社員だけが医療コストつまり必要な社会連帯コストを低減できる仕組みになってしまっている。健保組合側の医療コストの議論は、主に健保組合内給付以外にあてられる拠出金、つまり社会連帯に必要なコストの大小に集中していることが残念である。それが社会連帯を阻害するようなものになりかけている。非正規雇用やフリーター、失業者をどのように正規社員も支える健康保険制度にしていくのか、考えなくはならないのではないかと思う。
②については、介護保険について何回も書いてきたので簡単に書くが、自立を支援する制度であればある程、軽度の人の介護については、2006年度の改革以前の状態程度には戻さないと、話にならないということが如実に現れた事例の紹介であった。紹介された、自立志向の高い元キャリアウーマンの老後でさえ、ひとたび要介護になれば重度介護になるまで苦労するということだ。東京のベッドタウンなどでは高齢のみ世帯が増え、輪をかけて子ども世代が正社員であれば忙しく、非正規社員であれば所得が低く、とても親の面倒など看ていられなくなっていることについて十分着目しておくべきだろう。これについて財界ブレーンの門脇さんがきちんと指摘したことはよかったと思う。
③離婚の割合が増える中で、これからひとり親、なかでも母子家庭が増えることは避けて通れないのではないか。しかし生活保護の枠組みで捉えるのが精一杯で、母子家庭の再建、子どもの不利益の回避ということに何の力も注がれていない実態が紹介されている。
離婚=ふしだら、という文脈で母子家庭を突き放してきた福祉の枠組みというのはもっともっと考え直さなくてはならないだろう。ふしだら論にこだわる人に認識してほしいのはひとり親になるのは離婚ばかりではない。事故や病気などの死別もある。
離婚はふしだらである、離婚を誘発する、したがってふしだらな人を税金で誘発する、というわけのわからない三段論法で社会保障の対象とすることから逃げ回っている今の福祉行政は問い直さなければならないだろう。
こんな中、慰謝料・養育費の取り立てを厳しくすることが検討されていて、それはそれでやったらいいと思うが、養育費はともかく(ただしこれも結構恣意的なもので、親の学歴や職種などで子どもに期待される利益が変わったりする差別性もある)、慰謝料頼みの離婚後の生活設計というのもどうか、と思ったりする。同じ理由で同じ原因なら男女が入れ替わっても払うべき人が払うというのが慰謝料のあり方だが、示談や和解で決着する場合、女性側が原因を作っておきながら男が女に払うことになっているケースも少なくなく、慰謝料って結構ジェンダー丸出しの世界でもある。
ひとり親家庭の親は仕事さがしに結構苦労している。そういう職場にいるうちの組合員に話を聞くと、生活保護行政の担当者は、いやいや3年だけやらされている職員が多く、しかも役所に入ってすぐ担当させられ、マニュアル通りにしか対応できない場合が増えたという。職安との連携などほとんどされていない。同じ厚生労働行政で、同じ貧困者を相手にしている業務なのだから、何とか連携する方法を考えていくべきだろう。
●余談だが、先日、私の勤務先の労働組合で、男女平等の取り組みをする期間の掲示ポスターのデザインの選定をしていた。デザインの選定なのでスローガンについてどうこういう段階ではなくなっていたが、そのスローガンは正しいことを言っているが物足りない。パンチがない。で、担当者に「●●労は離婚家庭も応援します」とか、「父子家庭にも豊かな晩ご飯を」とか、それぐらい書いたらどうかなどと言ったが、多分冗談半分にしか受け止められていなかっただろう。
●母子家庭の実態、父子家庭の実態は、ミネルヴァ書房の「日米のシングルマザーたち 」「日米のシングルファーザーたち」がよく捉えているので紹介したい。
●朝霞市は1世帯平均2人ちょっとの自治体である。一戸建て、マンションで家族で住んでいる人が少なくないことから、そういう人以外は2人や独居の人が半分近くいる計算になる。また終戦直後の人口が10000人行っていないから、三世代以上市内にいる人も少ない。となると、セーフティーネットを強く必要としている人がこれからどんどん増えていくことになる。しかしそれに対して市役所はノービジョンで、せっかく、市民参加や研究者たちの努力で作られた福祉関連の諸計画も、その実行された中身が検証されていない。施設など作りっぱなしで後の運営などほとんど関心が払われず、市民にまともな報告がされているとは言い難い。
一方で、よさこい彩夏祭のための道路拡張だとか、市役所など20近い公共施設の建て替えはご執心で、何考えているんだと思っている。
●厚生労働省では、今日のNHKニュースで21時以降に食事をする人が増えている、ということが紹介され、社会問題だと騒がれていた。モラルの問題であるかのように。しかしそもそもその調査をした厚生労働省が、サービス残業や名ばかり管理職問題を高度成長期からきちんと摘発していれば、こんな問題はほとんど問題にならなかっただろう。
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