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2008.01.09

1/9 高福祉高負担を正面から紹介する東洋経済「北欧」特集を読む

組合づくりの技術者向けの教材VTR作りの仕込みのために、埼玉の地方組織に行く。

埼玉県の地方組織は、16年前、共産党を支持するグループが根こそぎ組合を連れ去った後、連れ去られるのが嫌だという組合だけで再建したところ。なけなしの組織で再出発したので、自治体の委託先や臨時・非常勤職員の組合員化に熱心なところである。VTR作りの協力依頼をする話の3倍ぐらい、労働運動のさまざまなヒントをいただいた。

自治体の臨時非常勤職員のワーキングプアぶりに関心が高まっているのか。夕方、新聞記者の取材の前の予備調査を受ける。自治体の臨時・非常勤職員にとって悩ましき地方公務員法の制約について話をする。
自治体の職員の定員抑制、自治体の財政難、広がる公共サービスのニーズとそれを必要以上に煽る無調整な国の補助事業、出世競争させることでのスキルアップしか想定していない最近の自治体職員の人事の運用、そんなことの矛盾を臨時・非常勤職員に、責任がありながら最低賃金すれすれの労働者として使われる実態になっている、と話す。

●東洋経済「北欧はここまでやる 格差なき成長は可能だ!」を拾い読み。

これまでの「北欧はいいなぁ、だけど税金はあんなに払いたく無いなぁ」という負担と給付の関係にとどめず、質の高い社会をどう作るか、という課題設定から負担が実際にどのようなものかという議論をたてたのがよい。それから税金を払わないことばかり考える日本の左派が、どうしてダメなのかを教えてくれるいい教材でもある。「軍事費削って福祉にまわせ」とあまり実現可能性と効果が見えない念仏唱える前に、いい社会サービスを実現するためにはそれ相応のコストを払うものなのだという認識を持つべきだろう。今自民党政権が観測気球を打ち上げている増税に反対するのは結構だけども、本当に質の高い社会サービスを作ろうとすれば、いつかそれとは別の何らかの増税案を提起せざるを得ない。それが嫌ならば、今よりももっと、手持ち現金がなければ良い教育も、良い福祉も受けられない社会がやってくることを覚悟しなければならないと思うべきだろう。

高福祉高負担の内容について、公的セクターは明確な役割分担として、国は現金給付を中心とした経済的保障(歳出の49%が社会保障費)県は医療サービス(歳出の71%が医療費)市町村は福祉・教育サービス(歳出の80%が福祉・教育費)と図解しているのがわかりやすい。日本の場合、これらの比率ががくんと下がり、道路や橋(朝霞では国家公務員宿舎とシビックコアと地区センターと児童館)ばっかり作っている財政支出内容になる。
北欧諸国は、高い税金を取っているが、現金給付、医療、福祉、教育で実益として国民に8割方を返している財政構造といえる。税金で生活のリスクを調整しているとも言える。日本の場合、税金は低いものの、社会保障や教育で返ってくるのが半分。それも高所得ほど高い給付を受けられる年金制度とか、児童手当、敬老祝い金などの再分配にもリスク管理にも結びつかない支出も目立つ。

また、国地方の関係についても興味深い。日本の場合、国、県、市町村それぞれの社会保障の権限が不明確で、中央官僚が補助金で権限を手放さないで、帯に短したすきに長しの社会保障政策をやっている。自治体も独自財源を手に入れると、地方議員の顔色をうかがってハコモノ投資や祭に使ってしまうので、分権の効果がなかなか出ない。

公共サービスの民営化についての報告もよい。福祉サービスの民営化もスウェーデンで行われているが、同じ仕事には同じ賃金という賃金決定の社会合意があるために、日本のように民営化の効果を人件費ダンピングによる財政効果ばかり説得する下品な議論にはならない。日本では、臨時・非常勤職員や委託先労働者を官製ワーキングプアとして送り出し、ときには生活保護受給者まで発生させている状況から考えると、民営化の内容も大きく違う。

福祉を手厚くすることの問題に対して、サービス提供者とは中立的な認定士(日本ではケアマネージャーに認定委員会の権限を付加したような職)や、相談員などをきちんと整備している。日本のように財源不足からケアマネージャーや地域包括支援センターが介護事業者の営業活動を事実上やることを認めて福祉の押し売りが横行していること、それを見て福祉を削れ、介護を削れ、という議論が起きている悪循環とは逆の仕組みが動いている。

少子化対策ではノルウェーが紹介され、デイケアセンター(保育所と同内容)の整備と最低6週間認められる男性の育児休暇制度が後押ししていることを紹介している。産前産後・育児休暇制度は、有給であることが日本より優れているが、休暇期間は、日本より短い。産前3週間、産後6週間、育児39週間、父親のみ取得可が6週間で、日本の母親がおおむね1年産後+育児休業を取得するのに比べ少し短い(もっとも親族の支援がない場合は、保育園の入りやすい4月に育児休業を止める親も多い)。464万人の人口で6000ヵ所も保育所があり、5歳以下児童の80%が入れる定員があれば、育児休業期間が短くてもしのげる(日本はその25倍の人口で保育所の数は4倍。幼稚園と統合しても8倍)。その上で、在宅育児の保護者に手当を給付している。
日本の場合、子育てというと税控除と現金給付の話ばかり進んでしまって、所得の再分配も、機会の再分配も、親たちの経済的自立も、何も考えないまま、感情的なばらまき政策が進められている。必要で効果が上がる政策は何かという十分な検討がされずに、親たちに迎合する政策ばかりが進められる。
参考 原田泰さんのレポート「どうしたら子どもを増やすことができるのか」児童手当より保育所整備の方が少子化対策に有効というレポート

●よく国民負担率という言葉が使われるが、これは強制徴収となる税や社会保険料だけを指しているにすぎない。
実質的な国民負担率は、ここから社会保障費や教育など国民の能力開発に使われた支出を差し引いて国際比較すべきだろうし、逆に、公共サービスの怠慢や未整備による支出、いわゆる税外税とも言える、塾や私学の教育費、無認可保育所の保育料、有料老人ホームの入居一時金や利用料、民間の年金保険料などは、負担に加算すべきだろうと思う。そうすると日本は実質的な国民負担がかなり高い国ということになるし、何のために税金を払っている国なのかと思える感覚がついてきても仕方がないと思う。

懇意にしていただきながらも、税負担や政府の規模について主張が全く違う松本和光市議が、増税は国民への虐待であるという意見をおっしゃるのも、日本の国や自治体の収入と支出の内容を見るとそう言われても仕方がないと思う。自治体の支出の増やすべきところ減らすべきところについて、具体的な部分では意見が合うことが多い。

●朝霞市の未来が暗澹たるものだというのも、基地跡地のシビックコア建設での巨額投資が予定されており、この自治体負担分の支出で、3年後ぐらいから、福祉や教育の財政支出をおそろしく刈り込まなくてはならなくなるということである。
このままいくと朝霞市が北欧の自治体のような機能を果たすことなど夢のまた夢であり、市外のセメント業者、鉄筋業者が食い散らかすだけ食い散らかして、去ったあとには借金の山と赤字PFI事業をどう始末するかという重い課題だけが残されるだろう。とても教育や福祉の質を上げられる状況ではなくなる。高度成長期に家を買った60代の老後は本当にお気の毒だ。

●もう一つ、東洋経済の特集の中で「政策決定に当事者参加」という項目があり、パブリックコメントを超えて、政府が政策形成をする過程で、関係するあらゆる団体に原案を送付し意見を求めなければならず、さらには対象とならない団体や個人も自由に意見を述べられることになっている。
「パブリックコメントを実施するが、意見反映はさせない」と幹部が公言してはばからない、常識はずれのどこかの自治体と大違いである。

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コメント

基地跡地のシビックコア建設での巨額投資について

「シビックコア建設での巨額投資」は大きな問題であり、基地跡地利用という観点からではなく、これ単独で問題にしたほうが、戦術上より効果を上げられるのではないでしょうか(基地跡地問題と並行させる)。

箱物をどんどん作ることに関する嫌悪感(財政圧迫、まだ耐用年数があるにも関わらず作り変えることの無駄、作り変えることで得られる市民側のメリットのなさ)は、幅広く市民間で共有できるのではないかと思われるからです。基地跡地利用にかこつけての箱物行政への反対と言う視点で運動展開はできないものでしょうか。

投稿: 朝霞のチャリダー | 2008.01.10 19:03

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