1/6 朝日新聞埼玉支局の政務調査費バッシングに思うこと
朝日新聞埼玉版で、政務調査費の特集をでかでかと組んでいるが、その内容が、全国版社会面でもできることで、ムダといったらありゃしない。人事ローテーションで築地本社にい続けられなかった記者が、中央に戻ることを夢見て、ステロタイプな記事でトレーニングするのに読者がつきあわされてはたまらない。最近の朝日の埼玉版は、警察情報か、お祭りの記事ばかりで、日々の基礎的な自治体や政治の情報が全然流れない。その方をきちんと流してほしいものだと思う。さらには12行も使って、情報提供の要請をでかでかと読者にお願いしている。情報も無いのにキャンペーン張っているのだろうか。またそこまでしてキャンペーンを張る価値のある問題なのかと思う。
そして記事の内容も、「市民オンブズマン」の垂れ流し情報、「市民オンブズマン」の設定する生活感覚が基準のまま、議員と市民の関係、議会活動の内容、普通のサラリーマンの場合ではこういうときにどういう経費負担がされているか、という検証が全くされていない。昼食が4000円もかけている、視察先の宿泊費が2万円もかかっている、などと確かに金額は高いが、議員という人間関係の広い仕事をしている人なら、4000円の昼食を食べることが年に数回あってもとりわけ違法性や問題があるとは思えない。2万円の宿泊費についてはよくわからないが、温泉旅館しかないような自治体を視察に行って、迎える側がそれなりの待遇で迎え入れれば、そのぐらいのコストは不思議ではないだろう。宿泊費、1次会、懇親会を合計すればそのぐらいになるのではないか。
高いは高いと思うが、だからといって、貴重な地方欄のスペースの3分の1も潰して毎日キャンペーンを張るほど問題にすべき高さではないと思う。
こうしたことばかりに目が向く、朝日新聞埼玉版の記者や「市民オンブズマン」と称する人たちは、何を問題にして、どういう社会にしたいのだろうかと、疑問に思えることも少なくない。人権擁護をすべき「オンブズマン」が、その本分である行政や議会の人権侵害について果敢にたたかって、市民を守った実績などあるのだろうか。そういうのは「変わった」「一部の市民」の運動任せだったのではないか。いつもいつも、数百円の職員給料のかさ上げとか、議員報酬や政務調査費の使い道を、スキャンダラスに調べることばかりに血道を上げているだけである。
公権力による人権侵害とも言える、保育園入所決定や生活保護受給決定の不透明さを調べ上げて、本当に必要な人がひどい思いをし、必要でないのに書類のごまかしや議員の介入でおいしい汁を吸って税金をむしばんでいることなんか調べようともしない。そういうことに立ち向かい、必死に人権を守っている活動家に、市民オンブズマンが協力したなどという話は聴いたことがない。議員や公務員の待遇をめぐって論争をしたいなら、そのための運動を作るか、議員になればいいことである。今や福祉や教育などいろいろな分野でオンブズマンが必要とされているが、あらさがしの「市民オンブズマン」のおかけで、行政職員の偏見ばかりが先立ち、なかなか設置に前向きな動きが進まない。
議員の待遇をつっついて、なかなか動かない体制の揺らぎをつくっていくことは政治的に効果があるとは思うが、市民生活から市役所がどう変わるのか、という観点からでは、あんまり意味のあることではなく、まさに政争の具を提供しているに過ぎない。
確かに書いてある政策調査費批判は、「庶民感覚」からはごもっともな内容ではあるが、だからどうなの?という読後感がないわけではない。いったい政策調査費がどうあるべきなのか、議員の報酬や議員活動のコストをどう考えたらよいのか、全体的な考えがあるわけではない。ただ、議員はわけのわからないお金を掴んでいる、という感覚からスタートするやっかみ記事にすぎないのではないかと思う。
地方議員の議員活動のコストについて共通の議論がないことが実は問題であり、そのことをきちんと検証してもらいたいが、そうはならないのが日本のマスコミと「市民オンブズマン」である。
地方議員は、議員報酬と、政務調査費しか自由になるお金はない。その他、視察旅行費や、議会事務局を通じた調査を行えばその経費は公費でみてくれる。しかし、この視察旅行は、議会質問のニーズに応じて経費を使えるようなものではなく、議会全体での教育・研修活動と、質の悪いところでは社員旅行として行われるようなものであり、議会質問そのものをこさえるための調査費は自弁しなければならない。また、議会事務局の調査も、議会事務局の能力によるし、能力の高い職員を長期間にわたって議会事務局に押さえておくことができないという人的資源の限界から、図書館のレファレンス以下の能力しかない議会も珍しくなく、結局、新聞記事の寄せ集めや、本の取り寄せ以外の本当の話を調査するためには、自治体を超えた議員どうしのネットワークを使ったいろいろな学習会や視察活動に自腹を切って参加しないと得られないのが実態である。埼玉県内では一般的な水準である月2万円程度の政務調査費で、本を買ったり、話を聴きにいく交通費にあてたり、勉強会に参加したり、市民との懇談会を開けば、ペイするどころか赤字ではないかと思う。
さらにまた埼玉県内での議員の待遇は、さいたま市を除き、大都市圏ではかなり低い水準でおかげでよい人材が集まらない、というのが私の実感である。とくに埼玉県西部の自治体は低すぎる数字である。
朝霞市で言えば、市議は年収620万程度。その中で、さきほど挙げたように経費はすべて自分持ちである。ところがその経費は、税金の経費認定がされず、給与所得控除で丸められている。経費を使って報告会や報告ちらしを作ったり、勉強会に参加している議員ほど損するように所得税・住民税制度でもなっている。
税制では給与所得者扱いされながら、社会保険は、給与所得者が入れるはずの年金制度や健康保険制度に入れず、サラリーマンとの兼業でもしてなければ、割高な国民年金や国保にしか入れない(小泉元首相の「人生いろいろ」発言はサラリーマン兼業議員なら水準の高い社会保険制度に加入できる制度を、勤務実態のない会社に就職したことにして脱法的に利用していたことの開き直り発言である)。
そうして差し引くと、手取りの実質的な収入は、25歳から30歳のサラリーマンと同程度である。だから、県内のほとんどの自治体の議員は、地主や不動産屋の息子か、自分の全人格を委ねている団体の組織的要請で議員になる公明党・共産党しか立候補者がいない。埼玉にも若手議員が進出するつい最近まで、サラリーマンから直接的に転身してきた議員は、各市議会に1人とか2人しかいない。
そんなことを考えると、政務調査費バッシングなんかして、埼玉県内の地方議員の質が高まるどころか、逆効果しか生まれてこないと思う。
議員の報酬が少ないと、議員はその地位を利用した副業を始めがちになる。公共事業が予定されるたびに、誰それは何万もらったらしい、という噂がまことしやかに流れるのも、報酬だけでは虚勢を張れないことが見えるからだろう。
本質的にそういうことを追いかけるべきだし、4000円の昼食が780円になることも大事だが、自治体による有力者の保有地の割高な買い上げ、朝霞市で頻発している公共工事の一斉入札辞退、介護事業者と一体に運営されている地域包括支援センター、いっこうに解決しない待機児童問題、おしくらまんじゅうの学童保育など、埼玉県独特の問題として取り上げてほしいところだが、全然報じられない。
先頃、朝霞や上尾で市議選があったが、一体何が争点で、どういう人脈が動いているのか、朝日新聞地方欄では候補者名と届け出所属政党名しか情報が入らなかった。こんなことでは市議選や候補者に緊張感が生まれるわけがない。朝日新聞の埼玉欄は地方自治をバカにしているのだろうか。
朝日新聞埼玉支局にはもっと地域に必要な情報を集めて、役に立つ地方欄になってほしい。
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コメント
自分には、藤末健三議員の以下の2つのエントリが脳裏に浮かびましたね。
国会議員一人当たりの支出に関する質問が新聞に載りました
http://www.fujisue.net/archives/2007/11/post_2187.html
日本のために、官僚を褒めて、がんばってもらうべき!
http://www.fujisue.net/archives/2007/12/post_2215.html
ここ最近の公費濫費批判には仕方が無い面があるのかも知れませんけど、その代替が一部少数エリートの寡頭政治(&利権分配)ってのは何か違和感感じまくりって気がしますね。年金問題でも現場職員の何十万円の横領は徹底的に叩くけど、それとは桁違いの濫費を招いたエリートへの批判は余りに聞かないし・・・・・「出過ぎた杭を叩かない」で暴走に任せたのが戦前の官(・軍隊)組織の問題だったってのを忘れているのかしら。
それにしても、いわゆる「プロ市民」って声高に非難しまくる"ネトウヨ"は、こんなのには批判の矛先を向けないのですかね?
投稿: 杉山真大 | 2008.01.07 01:34