12/12 マンションでのビラ配布が違法という高裁判決の暴挙
共産党のビラをマンションの住戸に投函した僧侶を、住民(公安警察の職員だという)が警察に告発し、住居不法侵入罪で起訴された事件があった。それに対して、一審の東京地裁は無罪判決を下したが、検察が抗告して持ち込まれた二審の東京高裁判決が昨日おり、有罪判決とした。
この判決は、共産党ざまあみろなんて思っていると偉いことになりそうだ。政治活動のビラだけではなく、マンションでのちらしを配布されることに迷惑を感じたり嫌だと思う住民が存在するだけで、ほとんど無制限にビラ配布を禁止できるので、すべてのちらし配布、具体的には、商業活動や地域活動、地域のボランティア活動のビラまで、出前のメニューの投函した飲食店の店主まで住居不法侵入による犯罪を成立させる危険性も含めている。
また、事実関係の争いもなく罰金5万円という微罪のために被疑者を23日も拘留し、控訴まで行った検察庁の意図を考えると末恐ろしいと思わざるを得ない。新聞では、やはり検察内でもまずいのではないかと慎重な検討を求める意見もあったことが伝えられている。
被告は最高裁までたたかうと言っているので、がんばってもらいたいし、最高裁の多数派の判事に民主主義の原理にのっとった判決を下してもらうよう期待したい。
●この事件について事実関係について争いはなく、上位法である憲法解釈をめぐって違法性の有無が争われてきた。住居不法侵入の構成要件はあるものの、それが犯罪とするほどの違法性があったかということと、取締の側が表現の自由を規制できるほどの違法性があったか、ということである。
それから両方の面から違法性を認めた内容で、マンション住民に対する社会的働きかけがかなり規制されることになる。
高裁の判決の要約は以下の内容。
①オートロック方式であるか否かにかかわらず、玄関内ドアより先は部外者の立ち入りが予定されていないため、立ち入り禁止できないというのは住民の権利を不当に制約する。
②立ち入り禁止を知っていた以上、玄関ホールを含めて住居侵入罪を構成する。
③政治活動のビラ配布は違法性はない。しかし住民が住居の平穏を守るためマンションに部外者の立ち入りを禁止でき、管理組合の理事会により決定が行われ、住民の総意に沿うものであると認められる。
④しかし住民の許諾を得ていない。
ということで、住居不法侵入罪の構成をしている。
さらに、表現の自由とのかねあいでは、
⑤表現の自由は絶対的無制限ではなく、公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を是認する。
⑥そのため財産権を侵害すること許されない。
⑦マンション共用部分といえども財産権の及ぶ範囲内であり、住民は立ち入りを受忍すべき地位にはないから住居不法侵入罪で処罰しても憲法に違反しない。
さらに
⑧ドアポストの投函以外の方法でビラ配布をすることは可能(マンションの出入り口で待ち伏せしてビラ配布をすべきか)
⑨個別の住民の許諾を得て(どうやってするのか)ドアポストにビラを投函されることは禁止されていない。
⑩住民等が管理組合の決議等を通じてビラ配布のための立ち入り規制を緩和することができないわけでもないことから、マンション住民の情報受領権や知る権利を不当に侵害しているわけでもない。
全体的に判決の内容には、立憲政治の根幹にかかわる問題があるが、とくに問題なのは②の玄関ホールを含めたこと、⑥表現の自由の上位の権利として財産権をもってきたこと、⑩表現の自由について原則自由・例外規制ではなく、原則規制・例外自由を認めたことではないか。
②で玄関ホールを含めると、集合ポストへの投函もアウトということになろうか。このあたりは新聞報道の限りでは不明確なままであるが、「共用部分」「玄関ホールも」ということであれば、マンション住民の情報入手の権利(情報受領権や知る権利)自体まで相当広く否定されていまうことになる。
⑥は、公共の福祉は何を価値に置くかということだが、自由主義社会では、ほぼ無制限に権利を肯定されるべき表現の自由や政治的意思の自由によりも、共用部住居侵入による財産権の侵害に、価値かがあると裁判所が認めたことになる。極端な話になれば、財産権が優先されたということは、持てるものの権利のために公権力が発動されてもいいが、持たざる者の権利のために非暴力の行動を取って公権力が弾圧されても保護される法的解釈はないかもしれないと宣言されたようなものである。
⑩については、自由主義社会の基本的なルールをこの裁判官は理解していないといか言いようがない。私たちは自由主義社会に生き、原則自由・例外規制という社会の根本ルールで生きてきた。それがおかしいということでここ10年、社会全体で規制緩和、規制の見直しを進めてきた。中には乱暴な規制緩和も多かったが、その前提自体は否定されるべきものではなかった。しかし、今回の高裁の判決では、マンション理事会で配布を許可しなければ、住居不法侵入は成り立つと解釈したわけで、迷惑さが明確にならず、情報受領権とのかねあいで、平穏な生活を維持する権利の濫用ともいえる規制強化が認められたということになる。
また過去の政治活動などの現場をふんだ経験からは、③の部外者立ち入り禁止については、マンション管理組合が開かれていないようなできたてのマンションにも管理組合名で掲示されている事例も多い。つまり竣工直後からマンションデベロッパーがエントランスに管理組合名で警告プレートを掲示している事例も多く、これが住民意思かどうかは実に微妙な問題になる。
⑧の異なる方法をとるなどということは極めて不合理な方法であり、マンション住民の多い地域では、今後は駅頭やスーパー前、交差点でのチラシ撒きしかできないということになる。
⑨のちらしを渡すために個別の人の許諾をもらうという手続きを求めている。現在も公選法の解釈では資料の送付等はそのことを求められているが、それがどれだけ難しく、浮動票が爆発的に増える90年代半ばまで、地方選挙ではしがらみだらけの団体しか選挙を動かせなかったことを思い出す。
裁判所が、今回の検察の強硬姿勢を追認し、このような危険な判決を下したことを、社会問題にしないでいいのだろうか、と私は思う。私は管理組合の理事長だったときに、住民の情報受領権を否定することはできず、ちらしなど個々でごみとして処分すればいいことなので、管理員が配布を断ったり、ごみ回収をすべきでないとして対応した。
●この判決を下した池田修という裁判官は、国策捜査と話題になったムネオ事件の鈴木宗男の高裁判決や、オウム事件の遠藤誠一に対する裁判など、政治色の強い刑事裁判をいくつか担当されているようだ。刑事訴訟法の手続きでは有罪にしにくい事件に「そんなの有罪に決まっているだろ」というときの判決書きに使われる裁判官か。検察筋にかなった判決を製造する才能のある裁判官のようだ。
●関連記事
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和光市議・松本武洋さんのブログ
こんな御用判決なら九官鳥で足りる
●この判決に対して、ポスティングを、支持者ボランティアの組織化・育成の中心的な取り組みとして位置づけている民主党や、同じくビラ配布を主要な戦術として採っている公明党など、強く批判すべきではないだろうか。共産党だから摘発されたという色彩は強いが、対岸のことだと思っているといつかこれは政治的に厳しい局面で使われることになるのではないか。
ポスティングを活用している民主党の若手議員、人権を重視している社民党の保坂展人などからコメントが見られないのが残念である。
●また、逆にこの判決を利用して、取り締まりが、他の政党の政治活動や、地域の住民運動のビラ配布の規制にまで立ち入ってきたら、逆に、市の広報を投函する町内会の役員や、防犯ビラを配布する協力員、ドアフォンを勝手に押す保健など、ふだんは権力の側でマンションに無断で立ち入っている人々を告訴することを検討しなければならない。あと、権力寄りの読売や産経の販売員なんかも告発してやりたい。読売に関しては無理矢理ドアをこじあけ、「景品だけ受け取って」といって物をとんどんドアの隙間から押し込み、「はい受領書書いて!」とよく見ると契約書だったりして、住居不法侵入どころか、ほとんど押し売りだ。
●過去のビラ配布の経験から言うと、ビラ投函禁止の看板が出ているマンションや、ビラ棄て用のごみ箱がポスト下に用意されているマンションほど、エントランスの汚れがひどいと感じている(調査したわけではないけど)。ポストに投函されるものは自分の家の財産である、という意識が徹底しているほど、ポストまわりをきれいにするものである。必要じゃないものは誰かが片づけるものだという意識で公共の場がつくられれば、汚くなるのは当たり前で、管理人、管理会社任せの対応をしていれば、全住民的に綺麗にする努力が積み重ねられないのは当然である。
政党ビラ配布事件:東京高裁判決(要旨)
「政党ビラ配布事件」で東京高裁が11日に言い渡した逆転有罪判決(罰金5万円)の要旨は次の通り。
■住居侵入罪の成立
本件マンションの構造、管理・利用状況、張り紙の内容や位置等によれば、玄関内ドアより先は部外者の立ち入りは予定されておらず、各住戸のドアポストヘのビラ配布を目的とする者も立ち入りを予定されていないことは明らかだ。マンションはオートロック方式でなく、管理員を常駐していないが、それらによらない限り部外者の立ち入りを禁止できないというのは、住民らの権利を不当に制約する。
ビラ配布のための部外者立ち入りを許容していないことを被告が知っていたと認められることなどを考慮すると、被告がビラを配布するために7~3階の各階などに立ち入った行為は、玄関ホールへの立ち入りを含め住居侵入罪を構成する。
政治ビラを配布する目的自体に不当な点はない。しかし、住民らは住居の平穏を守るため、政治ビラの配布目的を含め、マンション内に部外者が立ち入ることを禁止できるのであり、本件マンションでは、管理組合の理事会によりそのような決定が行われ、これが住民の総意に沿うものであったと認められる。住民らの許諾を得ることなくマンション内に立ち入り、多くの住戸のドアポストにビラを投函(とうかん)しながら滞留した行為が相当性を欠くことは明らかだ。
■表現の自由との関係
憲法21条1項は、表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく、公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を是認するもので、たとえ思想を外部に発表するための手段であっても、他人の財産権等を不当に害することは許されない。
マンション共用部分といえども私人の財産権等の及ぶ領域であり、住民らはその意思に反する立ち入りを受忍すべき地位にはないのであるから、住民の許諾なしにマンションに侵入した本件の行為について、住居侵入罪で処罰しても憲法に違反するものではない。
なお、このように解しても(1)ドアポストヘの投函以外の方法によってビラを配布することは可能(2)個別の住民の許諾を得た上でドアポストにビラを投函することは禁止されていない(3)住民らが管理組合の決議等を通じてビラ配布のための立ち入り規制を緩和することができないわけでもない--ことなどから、マンション住民の情報受領権や知る権利を不当に侵害しているわけでもない。
(毎日新聞 2007年12月12日 東京朝刊)
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コメント
自分がよくヲチしているネトウヨブログでは、事もあろうに「マグナ=カルタ」を持ち出して判決を擁護してましたねぇ。
http://empire.cocolog-nifty.com/sun/2007/12/post_6afc.html
で、この方某維新政党の活動家らしいのですが、
>拙者も分譲マンションに住んでいるがビラの類はハッキリ言って「ゴミ」でしかない!捨てるだけである。
>今は捨てるにも何かとお金が掛る。それでもなお・入れるなら
「入れさせていただく・・・」という謙虚な姿勢が必要である。
・・・・・って、この方ビラも何も見ずに身近な政治問題を理解できるって思ってるんですかね?もっとも、ネットで理解できるからビラなんてゴミ、って見解もあるのでしょうけど。
投稿: 杉山真大 | 2007.12.12 20:03
杉山さま
維新新風なんか笑って許しておきましょうよ。
でも彼らだってまじめに選挙で勝とうとすれば、いずれマンションのビラまきは避けられなくなるはずです。自ら泡沫政党でいいやとどこかで甘えているから、そんなこと言っていられるのでしょう。顔の見える人間関係をつくって運動をしたい、信頼される運動をしたいと思ったら、職場か地域できちんとした情報伝達手段を獲得しなければなりません。
マグナカルタとか何とか言っているのですがそれは勉強不足ですよね。当時は、財産権すら人権として確立していなかった時代の話です。財産権で守られた人が支配層になってくると、人権問題の課題が変化してくるのは当然です。18世紀以前の議論ですから無視しましょう。だいたいマグナカルタなんて人権思想の基礎にあるものではないですか。それを人権思想を批判する政治運動をする人間が口にするなんて・・・。日本のウヨは劣化しています。
社会主義者や水平社運動が戦前、右翼運動家と対立したと思ったら、権力との関係では助けあったり、そんなロマンが今のウヨにはないですね。高度成長期の左翼のまねどまりです。
投稿: 管理人 | 2007.12.12 20:34
そのネトウヨのブログがことさらに財産権の優位を力説するのって暗に自分は共産党の活動家と違って自由主義者なんだといいたいんですかね?だとしたら違うと思いますが。
財産権が人権として確立された近代自由主義のテーマって私有財産の自由より人身と内面の自由でしょうに。公権力によって無辜の人が不当にしょっぴかれないように公権力が人間の行動に干渉出来るのはその行動が他人に差し迫った危害を与えそうなときのみであると。(他者危害の原則)そしてこの考えを推し進めたのがこの原則にそむかない限りどんなに愚かなことでも阻止されてはいけないという愚行権。
然るに日本はたとえ他者に危害をおよぼさなくても、愚かそうなことには本当に不寛容ですよね。そういう非自由主義的な風土に市場万能主義が接ぎ木されて古典的自由主義社会ですらない歪な世界に変質している様子がこの判決に垣間見える気がしますね。今の日本の政治が新自由主義的って本当でしょうか?新しい「自由主義」の社会と規定したらアングロサクソン圏の人達に失礼だと思うなぁww
反日サヨクの陰謀から自由社会を守れと声高に言う自由で民主的な勢力の皆様は加藤尚武の入門書あたりから自由主義思想をお勉強して欲しいところ(苦笑)
投稿: 北狐 | 2007.12.13 22:46