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2007.09.10

9/10 介護保険制度の理念がなくなっている

●NHKスペシャル「コムスン撤退の衝撃」をみる。
コムスンの不正と撤退をスキャンダラスに騒ぐわけでもなく、24時間介護がなくなるぞたいへんだたいへんだと大騒ぎするわけでもなく、静かに、現場を追跡していてよい番組だったと思う。
また、昨年からの介護保険制度の見直しで、介護保険による介護が機能しなくなっている事態にも着眼していてよいドキュメントだったと思う。
小規模の介護業者が「2ヵ月前に作る介護プランどおりに介護が進行するなんてことの方が異常。介護保険制度の理念なんかどこか行ってしまったよね」という言葉がとても共感した。
福祉は、医療などと違って、施術や投薬のような考え方がないため、出来高払いが難しい(医療も、不必要な投薬や不必要な施術を極力なくすと、介護と同様に出来高払いだけの考え方ではたちゆかなくなる)。何をもって本人の残存能力を引き出して、人間らしい生活に少しでも近づけるのかという価値判断は、ほんとうに難しい。車いすにのった身体不自由な高齢者だけをイメージして、無駄な介護はしない、などと軽々に考えるととんでもないことになる。今はまさにそのとんでもない状態だと思う。
介護財政が6兆円を突破するという。しかし、もしそれで介護給付が行わなければ、その分かぶる家族介護によって、国民が就労や休息による体力回復が行われないことの損失、専門的技術のない家族介護による介護の質の低下、さらには虐待誘発までリスクが広がる。
そもそも介護保険制度は、その前の制度のように役所が利用抑制する(よっぽど重度か、あるいは議員のコネのある人しかヘルパーを受けられなかった)ような制度が悪くて、事業者が問題を発掘して、早期に介護を手当して重度化を防ぐという考え方で設計されているシステムだったはず。民間事業者が需要を発掘し柔軟に対応するのがいけなくて、軽度の介護がいけないとなれば、昔の介護に戻る。しかも介護保険料付きで。
年金には「払った分だけもらう」と必死に議論するが、ほんとうに高齢になったときの生活の質を支える、介護や医療がどうでもよくて、後回しに考えてしまう世論からはどうしようもないのだろうか。

また介護保険制度が未曾有の不況と雇用不安の中でスタートしたため、人件費をないがしろにしてきたツケが出てきたようにも思う。現在、一番重いのを担ぐ仕事は、介護である(次に保育という)。しかも相手は生き物で、24時間365日生き続けている。それに対応する仕事の給料が、初任給どころか、高校生のアルバイト並の給料で営まれている。福祉の専門知識を学んだ人材を、何の予備知識もいらないアルバイトと同程度の賃金で働かせることを前提としたシステムが、好況になって維持できるとは思えない。

コムスンの売却先を選定する委員会の堀田力が、「あとは現場の努力に期待するしかないですね」と記者会見で回答しているを見て、頭を抱えてしまった。介護の社会化という大目的のために努力した人ではあるが、必要以上に公的機関が提供する介護サービスを非難し、厚生労働省の役人の代弁者として、人件費を軽視した介護保険制度を作った責任をもっと自覚してもらいたいと思う。

●ちなみに朝霞市には24時間在宅介護する体制はないし、利用者もないという。これは3回前の市の地域福祉計画推進委員会での質問で明らかになったことである。
要介護の人を抱えた人は、施設に入れることに奔走せざるを得ない。地域福祉を推進しながら、地域で死ねない街である。昨年ぐらいから役所は役所の責任に関することについて市民参加を拒み続けている。サークル活動や娯楽活動なら、それでもいいが、命や暮らしがかかっている介護の問題を市民と議論することを避けて、言い訳文書ばかり作って、「財政問題」といういわば市職員の食い扶持の将来ばかり考えているような市役所では困ると思う。

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コメント

介護保険の破綻については、福祉分野への民間企業の参入の是非が問われるべきだと思いますね。

民間企業は採算が取れなければさっさと手を引きます。
民間企業至上主義からの脱却が必要と思います。

堀田氏については、底の浅さが見えたというか何というか・・・
現場は既に努力でリカバリーできる範疇をとっくに超えている状況なのですが。

投稿: 一国民 | 2007.09.16 23:02

介護の民間参入については、民間業者が入るまで、保育園や病院以上にサービス量が不足していたし、ボランティア活動として行われてきたものを育成する意味もあったのでそれなりに意味があったと思います。

問題は、質の評価や規制、人件費の下限規制、苦情解決システムの未整備が問題であったんじゃないかと思います。結局、昔ながらの官僚による行政指導によってコムスンの経営問題にメスを入れるしかなかったというのが大問題です。それも、解釈の微妙な通達を根拠にやったことの弊害は大きくなるのではないかと思います。

また医療と比べると、需要を顕在化させて発展させるという制度設計は医療と同じですが、利用上限を設けたり、利用抑制策を露骨にやっているため、結果として、家族介護なしには在宅介護ができなかったり、介護事業者が育たないということもあります。医療や年金などとの棲み分けをもう一度再設計する必要があります。

堀田氏についてはいろいろ思うところがあります。言っていることの大半は正しいのでしょうが、賃金労働ということに極端に理解のない人のように思いました。小泉構造改革左派なんでしょうね。

投稿: 管理人 | 2007.09.19 19:52

>管理人様
>また医療と比べると、需要を顕在化させて発展させるという制度設計は医療と同じですが、利用上限を設けたり、利用抑制策を露骨にやっているため、結果として、家族介護なしには在宅介護ができなかったり、介護事業者が育たないということもあります。医療や年金などとの棲み分けをもう一度再設計する必要があります。

うーん、その通りですね。
「医療問題は財源調達問題に尽きる」(権丈善一)とはけだし名言ですが、介護も同じですね。

投稿: 一国民 | 2007.09.19 23:49

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