7/14 各地の選管で行われている「違法になるかもしれない」という解釈について
多摩市議の岩永ひさかさんのブログで、選挙期間中、政治家が選挙にわたらない日々の活動について記述することについて選管に問い合わせている。
その回答が、違憲ではないかと思えるような内容である。1つは、内容そのもの。こんなこと自体が規制の対象になるかならないかびくびくしなければならない状況というのが不思議でならない。
選挙は、有権者が憲法に定める公務員を選び罷免する権利の行使であり、政治権力をかたちづくる源泉である。国民の合意と選択が表されるため、選挙に関しては可能な限り活発な議論が展開される必要があるのに、宣伝カーでわめきながら走って電話かけすることしかまかりならん、という選挙運動の規制がナンセンスだ。今回はこれ以上深入りしない。
今回指摘したいのは選管の「違法になることもある」という回答の仕方が問題だと思う。刑法にある法益保護機能と人権保障機能のうち、後半の人権保障機能では、刑罰権が不当な人権侵害をしないように、刑罰を科すことのできる要件と刑罰を明確に定義しなければならないことになっている。そうでなければ、取り締まりや刑罰権が時々に勝手な解釈をして、暴走していくからである。
選挙は民主主義の基礎をなすことであり、その刑罰権の範囲が、一般の刑法に比べて相当に不明確というのはとても問題だと思うし、選管や警察が「なるかもしれない」と言って、種明かしをせず、選挙運動に参加する有権者をびびらせて、具体的に行動したら難癖つけるように警告したり引っ張っていくというのは、民主主義国の制度としてふさわしくない。
私は意味不明の規制を緩和する意味での公職選挙法の改正が必要だと思う。ビラが増えたり戸別訪問が行われることで国民の負担が多少増えるかも知れないが、きちんと政策を国民が知り、議論をしながら投票行動を決めていくためには、不可欠だ。しかし、国民は政治家の手足を縛ることと、民主主義のプロセスをきちんとすることの区別がついていないため、選挙運動の規制緩和については、なかなか国民合意にならないだろう。選挙という機会において、いかに有権者と政治・政治家コミュニケーションが断ち切られているか、自分や身の回りの人のことで選挙運動をやってみた人だけがわかる感覚である。
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コメント
都選管とは私も何度もやり取りしていますが、そこで示される見解は「木を見て森を見ず」と断じざるを得ません。
憲法第21条は、以下のように規定しています。
第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
同条に基づく政治活動の自由について、最高裁は以下の判例を示しています。
「政治活動の自由は、自由民主義国家における最も重要な基本原理をなし、国民各自につきその基本的な権利のひとつとして尊重されなければならない」(昭56年10月22日最高裁判決)
すなわち、政治活動のための表現活動は基本的人権として保障されており、選管であっても事前または事後にブログの内容を「検閲」することはできません。また、少なくともその内容が「選挙の公正」を害するものでなければ、罰せられることは無く、「選挙の公正」を害したかどうかの説明責任は、警察・検察にある訳です。
特定の候補者の氏名を客観的事実として書く程度ならば、目くじらを立てて罰する必要は内容に思われます。
投稿: たかき | 2007.07.15 00:36
公選法改正の機運は盛り上げないといけませんね。これが改まらないと政策論争ができずに名前を連呼するだけの選挙運動の現状が変わらない。
しかし、市井の人たちは公選法なんて詳しく知りませんから、政策本位の選挙にならないのは候補者が怠慢だから、と短絡して公選法議論抜きにして選挙カーの騒音はウザイから規制しろ、ということばかりしか考えていないのが心配になりますね。(統一地方選では選挙カーを自粛する運動もありましたしね。)
現状の法律を変えないまま連呼や電話かけなんかを規制しても、市中での選挙運動ができなくなるだけで候補者が余計に萎縮するだけでしょう。屋内での演説会・集会が中心になるでしょうが、そうなれば大きい会場を借りきれて大勢を動員できる大企業や職域団体の後ろ盾がある候補がますます有利になって業界締め付け選挙が強化されるだけの話です。(たとえば、郵政選挙でトヨタは豊田市内のスタジアムを借り切って大規模集会をやった)ウチの上司が推す候補だから会社の商売を有利にするために○○先生に、とういう動機付けが起きる人以外投票には行かなくなるでしょうね。
うるさい連呼でなく政策論争を、といういかにも小市民主義的な願い注意深く考えないとがしがらみのない人々と候補者を結ぶチャンネルを失うかもしれないが逆説になりかねないって・・・orz
投稿: 北狐 | 2007.07.15 12:02
きっと違憲立法審査権を発動させるような裁判に持ち込めば、今日の公職選挙法のいくつかは違憲となるべき議論の要素を持っていると思います。もちろん裁判所は、立法府の自治みたいなことを言って、判決を巧妙に回避するとは思いますが。
あるいは、表現の自由や結社の自由に関わる軽度の選挙違反取締は、逮捕するまでの段階で警察・検察が絵を描いていて、それにのるかたちでしか起訴、判決がおりない性質のものでもあるので憲法違反にまで立ち返った裁判に持ち込みにくいという面があります。
また、検察・警察も候補者やその周辺に対する社会的制裁に意味をおいているため摘発したということ自体に意味を置いているため、刑罰については略式起訴と公民権停止で「容疑者」の実質的な生活への影響を最低限にすることで事実上の司法取引が行われている部分も多いようなので、弁護側がそもそもの違憲立法審査を持ち出して徹底抗戦しにくいという事情もあるかも知れません(こんなこと書けるのも選挙の第一線から身を引いているからです。特定の陣営を熱心に応援していたら、目をつけられることでしょう)。
世論に関しては、選挙運動が卑屈なのでうさんくさい→だから余計に関わるなという悪循環の構造にあると思います。また終戦のような混乱と民主主義の不徹底さに反省した社会の作り直しの機会でもない限り、なかなかこの構造は断ち切れないと思います。ということはこれから先、規制が強まることはあっても、弱まることはないかなぁ。
例外がありました。1993年の政治改革法案について、「あのようなものが政治改革ではない」という批判が強いですが、衆議院議員選挙に関しては、ポスターの規制、ビラの規制、政党活動の規制、政見放送の内容規制が大きく緩和されて、他の選挙よりは言論による選挙がやりやすくなったことは事実ですし(その証拠に知事選挙のように本当の発行主も応援している候補者もわけのわからないビラが配られるようなことはなくなりました)、そのことが団体動員型の選挙からの変革が行われたと思います。
これは、1930年代からの暗黒の公職選挙法の歴史(終戦直後の時代ですら満足な改正は行われなかった)の例外です。
これからはITによる選挙運動の規制緩和が課題になりますが、連立与党は今回の参議院選挙から緩和すると公約していたのに破棄をしています。選挙での表現の自由の規制は、コストがかかりすぎるからというのが理由だったはずですが、コストのかからないITによる選挙運動をいつまでも規制していることは理解に苦しむものです。
投稿: 管理人 | 2007.07.15 14:01
>衆議院議員選挙に関しては、ポスターの規制、ビラの規制、政党活動の規制、政見放送の内容規制が大きく緩和されて、他の選挙よりは言論による選挙がやりやすくなったことは事実ですし
ただ、これは原則としては、「名簿届出政党」に対する規制緩和でして、結果的に政党に属さない(属せない)候補者や政党要件に欠く政治団体の候補者には従来「確認団体」(管理人は「本当の発行主も応援している候補者もわけのわからない」とおっしゃいますが)が認められていた活動さえ、一部を除いてできなくなってしまった、と云う事実もあります。
政党政治が機能するのが本来の間接民主制のあるべき形ですが、それが機能不全に陥った場合に備えて、政党以外による選挙運動や政治活動は政党並みに保障される必要があるでしょう。
投稿: たかき | 2007.07.17 07:03
選挙後のHPの記述についても、各地の選管で見解が割れているようです。選挙法務体制が希薄そうな野党の新人への愛知県選管の「行政指導」は行き過ぎのように思えます。
http://www.j-cast.com/2007/08/03010028.html
投稿: たかき | 2007.08.04 00:52
選挙を前向きに捉えたことのない国民だからこそ、実に取るに足らない理由をもった権力の選挙規制が幅を利かすのでしょう。
選挙規制が刑法上どんなふうに捉えられるのか、今勉強中ですが、どう憲法を原点に選挙規制を考えれば、刑法や刑事訴訟法を踏まえても、行き過ぎです。人気取り商売だという弱みにつけいった取締りが行われているとしかいいようがありません。その上で、判決もいろいろ留意しながらも結局は公安警察や検察や描いたとおりの判決にしてしまうようです。
もっとも、原則的な取締りを行う警視庁や神奈川や京都などの府県警察以外の地域の警察、検察は、よほどのことがない限り、文書違反や個別訪問程度のことは、原則どおり取り締まっては地域社会がそれではまわらないとわかっていて、おおまかに取り締まっているようなところもあるようです。
最後に、きっこブログでさえも、敵陣営のこととはいえ選挙違反がうんたらかんたら書いてあって、ちょっとだけがっかりしています。
投稿: きょうも歩く | 2007.08.05 00:26