6/2 年金行方不明の処理を数字で考える
●行方不明の年金記録が5000万件あるというニュースについてその数字からいろいろ考えてみたい。
行方不明の年金の総額が960億円というニュースについて。
960億円÷5000万件=2000円。1件あたり総額2000円だということ。つまりほとんどが短期間で退職した職場で払われた年金記録がつながらなくなっているというのが実態だといえる。転職が多かったり、1号、2号、3号と保険者の種類を変えてきた人がなりやすいということのようだ。与党の肩を持つ情報は流したくはないが、払っている大半の年金は行方不明になっていないと言える。終身雇用を満喫した人は不安に思う必要はないと思う。しかし、私の父のように若い頃に転職を繰り返した人は自分でも、いつからいつまでどこにいたのか、正確には覚えていないぐらいだし、年金保険料の納入開始月と納入終了月には就業期間と数ヶ月のずれがあるから、本人もよくわからないだろう。
次に調査費用が1000億かかるというニュースについて。
行方不明の年金額より調査費用がかかるということの奇妙さをどう考えたらよいのか。もちろん調査コストを圧縮せよという意見になりがちだが、1件2000円ちょっとだから、派遣職員1時間分程度の人件費。派遣職員が1時間でそれぞれのデータの持ち主を突き止めるのだから、効率的にやれてという数字だと思う。
5000万件を1年以内で調査するという与党について。
社会保険庁の職員は2万人もいない。通常業務をやったり、未納者の取り立てをやったりしながら調査をすることになる。半分も職員もあてられないはずだから、最大半分と見積もっても1万人未満の職員で、5000万件を当たるのだから、土日すべて返上しても1人5000件以上、1日10件以上調査しなくてはならない。社会保険庁は職員が多すぎると批判してきた与党だが、人減らししている中でどのようにこの膨大なデータの調査をやるのか、誰もその手法を検証していない。
数字をひっくり返して見ると、①どんなにコストや時間や人手をかけても最後まで正確に行方不明データをつきとめていく、②1件のデータに二重三重に権利者が発生することになる可能性があっても、就業期間や住所が証明できればエイヤって払ってしまう、③西友札幌元町店のように不払いを申告した人すべてに払ってしまう、④給付額決定の制度を簡素化したり、一部または全部の年金を税方式化する、の4パターンぐらいの対応策にまとめられると思う。
①の場合は、二重の権利発生を認めないという考え方だから、行方不明データの行方を全件つきとめるまでは給付できない。②の場合は、一部詐欺が発生するリスクと、1件の年金データに複数の給付をぶらさげるシステム改造ができるかどうかという難しい問題にいきたある。③は、詐欺師や暴力団などがむしり取る危険性が高い。④は本格的政治合意を形成するための努力が必要になる、などの障害が待ち受けている。
しつこいけども、今回の年金行方不明事件では、申請主義の年金制度がそもそも国民皆保険の理念にそぐわないシステムであることを露呈したと思う。転職したり、住所が変わるたびに、市役所や電力会社だけではなく、社会保険庁に報告してやらないと年金がつかない、というシステムが問題だと思う。実際に、今年転職した家族に年金の変更申請用紙が届けられたが、いったい何のために届け出を要求されて、何がメリットになって、どこの欄に何を書いたらいいか皆目わからない。こんな手続きを中卒で東京出てきたような人たちに申請させることの方が奇跡とも言える。それから社会的に立場の弱い人ほど、未納期間や行方不明になりやすい納入記録をつくりやすくなり、本来、高齢になったときの経済弱者を発生させないシステムである公的年金が、社会的強者に手厚く、社会的弱者に手薄なシステムになっている。
●安倍首相が、行方不明の年金について、「国民の目線に立って」救済するとばかり声が大きい。でも具体的な方法は何一つ出てこない。一方で、責任追及ばかり強調して、救済策の具体的な手法について明らかにしないまま、強引に社会保険庁の解体と、職員に対する制裁(不誠実な仕事をした職員より組合活動に協力した職員に制裁されるのだろう)することに結びつけ、国民のフラストレーションだけ社会保険庁職員にぶつけてうやむやにするのだろうか。もともと国税と一体化する話以外の社会保険庁解体論は社会保険を外資系保険会社に売り渡す話から来ている。
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