2/22 貧困の罠
●東洋経済「貧困の罠」を読む。これまでニューエコノミー崇拝だった東洋経済も、少し方向転換したのだろうか。切り口がとてもよい。福祉や社会保障の落とし穴をひととおりおさえてある。
グラフや表も興味深い。OECD加盟国で日本人は最も孤立度が高いことは、朝霞市の地域福祉計画の調査結果と重なる。朝霞市の数字は、OECDの数字をさらに上回る孤立度だった。それから、学校にかかる経費。前から思っていたけど、ランドセルとか制服とか、学校が押しつけるなら学校が買えと思ってきたけど、やっぱり保護者の負担になっている。
本文の中では、所得再配分のための増税論をとなえる橘木さん、貧困層を排除した社会保険主義の誤りを指摘する岩田正美さん、生活困窮者を門前払いする北九州市のレポートが読みごたえある。
社会保険については、社会保険庁職員に対する魔女裁判とも言えるような「社会保険庁改革」ばかりが推進されているが、本質的なことは、社会保障制度全体の再設計と再定義であったのではないか。岩田氏が指摘するように、社会保障を社会保険でほとんどまかなう制度が、保険料負担できない貧困層にはまったく機能しないということを無視した制度設計を見直すことに目的があったはずなのに、何もしないで今日まで来ている。
橘木さんはもっと大きな話で、社会保険料なんて自発性にもとづく社会保障制度はこれからは機能しないし、負担の逆進性も強いんだから、累進課税制度の増税を思い切ってやって、社会保険料の守備分野を狭くするべきだという主張。
北九州市の生活保護はひどい。審査以前に申請用紙を渡さない、提出させない、そのためにいろいろな因縁を市役所が言ってくるそうだ。しかし、「生活と健康を守る会」に入って窓口に行くと、あっという間に申請が通ったりしたことも報告されている。
何より受給できてよかったと思うものの、この「生活と健康を守る会」って、何だかんだ言いながらも共産党の支援団体じゃなかったっけ(それはそれでいい。それで救われている人もいるから)。だとすると、北九州市役所はドライな生活保護行政をやっているような顔をしながら、一方では半ば市議の影響下にある市民にだけ便宜を図るような、コネ行政で生活保護支給が決定されているということになる。たぶん共産党系の団体のメンバーに出すのだから、当然与党の公明党や自民党の支持者の生活困難者に市役所は甘々だと思う。
「権利としての福祉」ということを私が言って、「誰でも福祉が受けられるなんて自治体がもたない」と言い返されたことがある。わかっちゃいない。福祉はみんなの税金でやっているのだから、その人が人として生きられるための支援がどの程度必要かで福祉サービスが受けられるべきであって、政治家の軍門に下るとか、市職員の気分次第、場当たり的な裁量にうまく乗るかで福祉が受けられないなんていうのはそもそもおかしい。自治体財政が苦しいからと絞り込みを行うにしても、基準があって審査を経て、重度の状況にある人から順番に福祉サービスの受給が決定されるべきだろうが、そもそも審査を受ける権利を否定しているし、重度さによって申請が通ったり、保留されたりしている形跡もない。
過日、月5万の基礎年金だけでストーブも点けずに細々と暮らしているおばあさんたちのヒアリングする機会があったが、まさに社会保険主義が見落としてきた高齢者であり、生活保護の絞り込みによって、生きるだけの老後になってしまっている。
●栃木県野木町の町立保育所で、人材派遣会社に一部業務委託して、人材派遣会社に所属する保育士が働いてきたが、偽装請負の疑いがあるため直接雇用に切り替えるというニュースがあった。自治体の現場サービスにあたる職員が、滅茶苦茶な雇用形態や指揮命令系統で仕事している話は、町村部を中心によく聞いてきた。契約概念がそもそもないし、業務委託をする相手に仕様書の十分な確認も行われていない、ので、偽装請負のメーカー顔負けの話が多い。
派遣会社の保育士12人を直接雇用へ 栃木県野木町2007年02月22日20時36分朝日
栃木県野木町が町立保育所に人材派遣会社から受け入れていた保育士12人を、直接雇用することが22日わかった。町は人材派遣会社と業務委託契約を結んでいたが、保育士側は「実質的に派遣状態で働く違法な偽装請負が行われている」などと主張。受け入れ期間が労働者派遣法で直接雇用を求められる3年を超えていたこともあって、直接雇用を求めていた。
財政難から公立保育所にも派遣や請負として非正規労働者を受け入れる動きが広がる中、直接雇用に切り替えるのは珍しい。
町側は偽装請負は認めていないが、保育業務を行うには直接雇用した方が効率的と判断し、12人全員を4月から、最大5年の制限付きの嘱託職員として採用する。
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