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2006.12.02

12/1 企業は豊かになっても個人が豊かになるとは限らない

ひどいデフレのときには、早く不況を脱出したいと思ったが、景気が良くなっても、この国はちっともよくならない。先のバブル景気のときには、社会の24時間化が進んだ。今日、若者がこき使われるのも、この時代に深夜残業を社会全体が当たり前にするようになってからではないか。景気回復のたびに企業だけが豊かになって個人は摩耗していく。今度の景気回復では、労働者への分配は上がらないし、ワーキングプアが解決される見通しもなく、サービス残業はもっとひどくなるような傾向がある。働く人たちは何を失っていくのだろうか、ほんとうに心配になってしまう。
国益という観点から見ても、金融か知的財産かサービスで食っていくしか未来が見いだせないこの国で、猛烈に悪いホスピタリティーで暮らしている国民が他国に勝る知的財産やサービスを提供できるか疑わしい。バンコクのBTSという都市高架鉄道の受注に土壇場で川崎重工がひっくり返され、シーメンスに決まった。そのシーメンスの作った高架鉄道のホスビタリティは高く、すし詰め満員電車か窮屈な新幹線しか作ったことのない日本のメーカーの弱さを感じた(そう思ったら、日本でも一番高密度なのに遅れないダイヤを組んでいる京急はシーメンスの車両を購入しているという日経流通の記事を思い出す)。

個人の豊かさにつながらない景気回復が、経済成長に悪影響を与え始めているのではないか。昨日読んだ「生活経済研究」の報告で、この間の景気回復は、アメリカの過剰消費、中国のバブル経済、労働コストの抑制でもらたされたと分析されている。さらにこれ以上の経済成長にとってブレーキ役になっているのは個人消費の下支えが弱いことだ、とも分析していて、それはとりもなおさず、労働コストが低すぎる人たちが大きな固まりでいるということだろう。アメリカでの過剰消費にはストップがかかり始めているから、この状況のままでは中国のバブル崩壊や、労働の質が低下することで簡単に経済成長は止まってしまうという。

そういう状況に対する政権の処方箋は、相も変わらず財政を痛めつけながら企業の蓄積を増やすことだけだ。個人消費への処方箋はまったくない。つまり、企業の富を支えるために、企業に対して減税などで直接富を補填するやり方や、労働分野の規制緩和や職安の民営化による労働力コストを抑制するやり方しか出てこない。その方便が「企業が豊かになれば個人にも豊かさがまわってくる」という。サラリーマンが会社が儲からなければ給料がもらえない、という一般常識をすりかえた理屈だ。給料が上がるのは企業が儲からなくてはならないが、儲かった企業が給料を上げるとは限らないし、今回の政権の経済政策は、まさに儲かった企業が給料を上げる必要性を薄らぐ施策ばっかりなのだ。

安倍政権になってメンバー入れ替えした経済財政諮問会議は、人材派遣業の利権づくりに加担するICUの八代尚宏と、偽装請負でやり玉に挙がったリベンジを企むキャノンの御手洗が、労働市場のさらなる規制緩和と職安の民営(営利事業)化を企んでいる。無産者相手に、金持ちや権力が最低限の生活をちらつかせて労働力を買いたたく光景はあさましい。さらに、公務員がやっている職安は非効率なはずだという非科学的な思い込みを前提に、人材派遣業を野に放とうとしている。人身売買を正当化する暴挙と言ってよい。時給3000円受け取って、本人には半分しか払わない人材派遣業の搾取率は、3K労働の風俗産業以上なのだ(都会の話。アルバイトの時給が低い地方では搾取率は6割にもなる場合がある)。

手数料を払う企業に阿って、社会的規制を守らせるインセンティブが働かない、民営化された職安が、働く人の立場を考えた人材募集をするとは思えない。労働分野の規制緩和は、労働契約を企業と無産者個人との契約におきかえ、社会的規制を空洞化させてきた。企業と無産者労働者との関係は一方的なものになっていると言わざるを得ない(中野麻美「労働ダンピング」を読んでほしい)。

法人税率の引き下げも一部(減価償却の残存率の廃止など)を除けば、引き下げそのものはめちゃくちゃな話だ。実効税率が高すぎるという言い方をするが、「実効税率」とは国と地方の税率を合算したもので経費算入や、政策減税などを無視しているから、GDP比の法人税の割合は国際比較でいえば日本は高くない。そもそも実効税率はアメリカの豊かな州の方が日本より高い。
また法人税率が高ければ税金に取られるぐらいならと給料を払うインセンティブが働くか、税率が下がってしまえば内部留保にしておいても損は少なくなる。
どう考えても、この改革で法人の利益が個人に還元されるインセンティブはどこにもないから、個人消費に火が付くとは思わない。

さらに道路特定財源の一般財源化では猛反対する自民党議員たちを野放しにして、財政を食い物にする道路族を甘やかしている。

こうした企業亡国とも言えるような状態は、この国が社会民主主義政権をほとんど経験してこなかった弱さを感じざるを得ない。重要政策を決める政府税調も、経済財政諮問会議も、今は連合推薦委員はいない。中曽根政権時代の自公民路線の財産とも言える、政府の審議会委員を確保して政策実現をめざす連合のスタンスも、そろそろ限界が近づいているのではないかと感じる。無産者を守るために、政権交代の王道を歩くべきなのだろうけど、野党も野党でそこは無産者の味方というよりは、大学教員になりそこねた大学院卒の互助会組織に成り下がっていて、さらに見通しが暗い。

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コメント

濃い内容ばかりでいつも楽しく読ませていただいています。

つまんない話で恐縮ですが、京急の車両は車両本体ではなくVVVF装置のみがシーメンス製です。あと、キャノンじゃなくてキヤノンです。

投稿: 通りすがりですが | 2006.12.02 01:27

> あと、キャノンじゃなくてキヤノンです。 by 通りすがりですがさん
細かいなー^^。オーディオ機器のONKYOも「オンキョー」ではなく「オンキヨー」ですが、通常の文章では、正確な社名表記がかえって読みにくいもの。

> 野党も野党で‥‥大学教員になりそこねた大学院卒の互助会組織に成り下がっていて…
そんな‘互助組織’があるのですか^^。‘互助’の恩恵を受けたかったなー^^。いやいや、“オマエは「大学教員になりそこねた大学院卒」じゃなくて「そもそもなりえない無能な院卒」”だからダメか^^;。

― さて、本題、深刻ですねえ。暉峻淑子さんや内橋克人さんの著書を読むたびに、共感と身につまされる思いを味わいつつ、しかし現実は何も変わらないばかりか、黒川さんご指摘のとおり、際限なく悪化してゆく、というより、もうこの方向をテコでも変えないぞ、という‘上’側の流れの圧迫感は異様です。個人消費など「何? それ?」という感じだ。メディアの扱い方も、ひたすら高価品の売行き好調ばかりを取り上げて「好況に転じた」みたいな側面ばかり報道していますね。“アニメは日本が輸出できる文化”などという言い方も、否定はしないけれど、その表層面ばかりにしか目を遣っていないし、アニメ制作現場のそれこそ「若者がこき使われる」苛酷さも見ぬふり。いずれ多くの企業がのっぴきならない“国内に顧客ナシ”の惨状を迎えそうな流れなのに、“パイを分けたらおしまい”の強迫観念に駆られ、まるで倒れる寸前の自転車が、倒れる側のほうにますますハンドルを切ってしまうが如き有様です。あーあ。

投稿: へうたむ | 2006.12.04 04:35

濃い内容のブログを本日初めて拝見させて頂きました。労働市場の問題は、ご指摘の通りだと思います。私も10年以上前、内橋克人さんが、航空業界の規制緩和が離島等の本当に飛行機が必要な過疎地への運賃の高騰につながると指摘し、返す刀で規制緩和で好景気となっているアメリカで、貧富の差が拡大していること、日本が同じ道を歩みそうなことを指摘していたことを昨日のように思い出します。

現在、貧乏医者をやっていますが、医療の崩壊も酷く、オリックスの宮内氏の企み通りに進んでいる(国民はそのことに気づいていないし、マスコミも医者叩きをすればよいと誤解しています。この辺は”元検弁護士のつぶやき”をご参照ください。)

さて、あまり悲観的になってばかりもいられないので、指摘をさせて頂きます。まず、今後の日本経済を立て直すのには、単に労働者いじめをするのではなく、”ロボット””ナノテク””燃料電池”等のハイテクを発展させ、また中国と競合する産業は放棄し、金融を発展させ、国内にある資金を海外の成長産業に投資して、高齢者の年金、福祉予算等を捻り出す等の戦略が必要と考えています。

この5年位が、それが出来るかの分かれ目だと思うのですが、残念ながらその方向に動いていません。

個人的には日本のハイテク技術は、そう捨てたものではないと、まだ信じたいと思っています。

例えば、お話の出たSiemensのVVVFインバータですが、京急以外にも一時JRでも安いので採用されましたが、性能が悪く、今は京急以外の各社は高くても性能の良い国産に総て変更されています。

決して悲観的にならず、しかし規制緩和万能主義者の意見に屈さず、辛抱強く行きたいものだと考えています。

投稿: K.西川 | 2007.01.23 02:12

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受信: 2006.12.03 11:30

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