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2006.05.27

5/27 埼玉県の良好な介護財政をどう評価するか

昨日、子どもの病気で職場を早退。
午前中、東洋大学で開かれた地方財政学会の地方財政と福祉分科会を傍聴。事情で1つめの長崎県立大学の綱辰幸助教授の「介護保険における介護サービスの高支給地域と低支給地域との比較分析」だけを聴く。

低支給地域の埼玉県と、高支給地域の徳島県や沖縄県を比較して、介護給付の内容を分析する報告を受ける。タイトルが魅力的だったが、内容は、施設介護が多い地域は介護保険給付額が多くて、在宅介護が多い地域では介護保険給付が少ない、という報告。その結果から出てくる提言が、介護保険財政を維持するためには、家族介護への報酬を出せ、介護度の低い高齢者には、NPOやボランティアを(タダまたは安く)使え、というものだった。

埼玉県は介護政策が成功しているから給付額が少ないのではない。
施設が作りたくても作れないし、だから入るべき介護度の高い要介護者が施設に入れず、病院を渡り歩いたり、押しつぶされそうな家族介護で耐えたり、サービスの割に費用が高額な負担の有料老人ホームを利用してしのいでいる。こうした現象は東京の多摩地区や神奈川県、千葉県も同様のことがおきている。また一方で家族介護によって、家族が労働力にならないため、市町村の財政収入にも影響があるはずである。社会全体の介護コストをもっと広げて把握しないと、介護財政だけを取り出して分析しても意味がない。

埼玉県は、これまでたまたまふるさとを離れた就労人口の割合が高く、高齢者が少ないプレミアムを享受できた地域だっただけではないか。埼玉県が今後20年ぐらいで最も高齢化が急速に進むと言われている。おそらくあと15年ぐらいすると、埼玉県の人口増をもたらした団塊の世代が介護の必要な高齢者になってくる。このままの埼玉県の状態を学者や経済評論家たちが評価しているととんでもないことがおきる。今のようにサービス供給量にあわせた介護保険の運用をやっていると、大量の介護保険難民が発生し、介護保険の外側で自治体がさまざな施策を打たなくてはならなくなるだろう。

討論者として立ったのが、北海学園大学の横山純一教授(私の大学時代の財政学の先生で北海道民主党が作って市民の政策提言テーブル「未来への扉21」でもご一緒した)。横山さんは綱さんの報告に対して、施設の整備率との関連性や、埼玉県の短期入所施設への給付が突出している現象についてさらに突っ込んだ調査を求めた。また提言に対しては、家族介護への給付は、介護しないのに給付をもらうという(児童手当も同じだ)家族、高齢者虐待などにどう対処するのかという回答がなく危うい、NPOやボランティアを労働力として使うという前に、介護予防を自治体でしっかりやることが介護給付を下げるということを指摘した。

埼玉の短期入所施設の利用の多さは、全国平均に対する専業主婦率の高さと、施設入所がほとんど絶望的な現実とのはざまにある数字ではないだうろか。その状況が今後も通用する環境だと思えない。また、軽度介護を制度外におくことは危険だ。重度化するまで放置されてしまうということを意味する。それでは措置制度時代の介護地獄の復活だと思う。介護保険財政や自治体財政を軽くするが、たまたま要介護者を抱えた家庭だけに運不運でものすごい金銭的、時間的、精神的犠牲を求めるものになる。

地方財政とはもっと政策論とリンクしなくてはならないが、地方財政の議論では、「地方財政が危機だ」という掛け声にそのまま反応して、財政の帳尻あわせのためにトータルコストを無視したパッチワーク的なコスト削減提案合戦が流行している。ほんとうに財政を健全化するということはどういうことなのか、もっと慎重な議論をしてほしいと思う。

その後の、関西学院大学大学院生の的場啓一さん「自治体の少子化対策はなぜ効果が上がらないのか?」の報告はとても興味があったが時間切れで退席した。
配布されレジュメを見る限りでは、自治体は「少子化対策へ取り組む姿勢は見せているが、施策の有効性はともかく、それ以前に解決しておくべき課題は多い」として、施策の周知ができない体制であること、施策の総合的なコーディネートができていないこと、相談窓口はあっても相談しやすい仕組みになっていないことを指摘している。そして自治体の次世代育成支援行動計画について、「既存計画を集め、再整理した」だけと評価している。ほとんど同感。
朝霞市の次世代計画の策定を側面で見ていたが、個々のセクションが子育てを応援する施策に変更していくという熱意がなく、今やっている事業を変えずに追認してもらうために次世代育成とか少子化ということに強引に結びつけている施策ばっかりだった。目標項目と、具体的施策とに矛盾する内容も多い。
ただし、次世代計画の意図は少子化だけではない。子育てを大切にする社会的価値観を作り、子どものポテンシャルを高めること。次世代計画の評価を少子化の回避だけで測るのは良くないだろう。

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