2/12②シロウトがわからない話
マンション管理組合を支援するNPO、集合住宅管理組合センターのマンション強度偽装事件のシンポジウムを聴きに行く。シンポジストは建築構造工学博士の多田秀之氏、マンション強度偽装問題を担当する自民党は早川忠孝代議士、民主党は長妻昭代議士、一級建築士でご近所の底力にも出演した野崎隆氏。
多田氏は反建設省の建築業界人の大御所的存在のようだったが、話が生い立ちに関する話ばかりで、マンション偽装についてはわずかしか話されなかったことが残念だった。耐震強度というものは科学的に存在しない、と言い、それを役所が安全かどうかとお墨付きを与えるのはナンセンスで建築士の裁量を強化するしかない、と提言したが、それで良いのだろうか。
確かにマンションやビルは本物の地震で実験をしたことがないので、どの水準をもって安全とは言えないらしい。だからといって、エイヤッと決めた水準すら無くなれば、どこまでも不正や手抜きは可能になってしまう。姉歯事件からは、建築士もマンションデベロッパーも、建築会社もみんな監視してくれるシステムがないと本当に安心できないという気持ちにさせられたのではないか。
専門家が専門家としての職業的な使命感や誇りからそのやりたいことを裁量もって自分の責任でやりたいというのもわかるが、公務員がオレたち以上に地域(あるいは国)のことをわかっている人間はいないんだから、あまり面倒な仕事のルールにしないでくれ、と言っているようなことに等しい。各人のモラルに依存して誰も監視しない状況で仕事をするということが、この社会で通用するのか疑問である。
早川氏は優等生的な無難な回答。踏み込んだ発言は一切なし。
長妻氏はらしくもあり、自民党と建築業界の癒着の話を力説。この疑惑を通してマンションをとりまく制度や状況について熱心に勉強していることはわかったが、その対策となると、公務員嫌いからか、建築業界を監視する公務員は絶対増やせないという前提から議論をしている。それなのに建築確認の検査済証は民間検査機関の発行から自治体に移させると言っていて、自治体だけが何の権限も力量もないのに責任だけ負わされるような絵を描いているとしか思えない。
それでも保険制度でフォローして保険会社に検査させたり、マンション住宅ローンに関する銀行の貸し手責任強化などで貸し手の銀行に検査させたり、建築業界の利益と違う民の力で監視機能を創ろうとしているのが良かった。このことについて早川氏は「自民党も提言してますよ」と言うだけで熱意は感じられなかった。
会場にいた構造の建築士たちからの発言の中で食えない状況にあることの報告は痛切だった。
建築確認を98年以前のように官がやれば安全なのか、官だって見逃したんだから官による監視に戻しても意味がないということが、しばしば争点になる。今回もそうした議論があった。
そういう議論も成り立ちうるが、98年改正で姉歯事件のような問題が起きたのは、建築設計事務所が任意で建築確認を行う民間検査機関を選べて、民間検査機関は建築設計事務所の意向に沿う仕事をしないと仕事がなくなる関係性に変えられたことである。建築業者と検査という利益が背反することを好き放題にできるシステムが問題で、官が見逃したか見逃さないかということはその次の問題ではないか。圧倒的な権限のある相手にちょっと見逃してくれというのと、客として臨める相手に見逃せと迫るのは、明らかに関係性が違う。
議論の決着点として、建築士の仕事を建設会社がもらいに行くという構図にして、デベロッパーに建築士が支配されないように施工監理と建築を分けないとこうした不正はなくならない、となったことはまさにそうだと思う。
しかし、消費者からすれば施工監理も建築も供給者であり、クロウトとシロウトの情報の非対称性があり、そこにもう一つ、持つ情報が千差万別な消費者保護の視点から、市場の監視をどう行うかというシステムと公的なものの関与が重要がないと、消費者が安心をもてるシステムはありえないと思った。
余談だが、地域福祉計画でまちづくりという視点から考えると、建築業界の中での自由の縄張り争いだけとはいかない。やはり地域の開発という視点から、建築基準とは違う一定の制約も必要で、建設工事を止められる段階で自治体に顔を出して協議できる制度は必要だと思う。もちろんそれが建築確認制度では不十分とわかっているが。
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コメント
確か、似たようなことを以前もコメントしましたが、監査法人と似たような仕事なんですから、同じような論点が出てきます。
いい加減を通り越して犯罪的な仕事をした米アンダーセンがつぶれたように、いい加減な仕事をした確認機関は打撃を受けるべきですし、いい加減な確認機関を選ぶ施主もまた、いい加減な監査法人を選んだ一部企業のように困るべきです。
それが市場の本来の作用だし、あとはその作用をいかに働かせるかではないでしょうかね。
そういう意味で、有価証券報告書並みの情報開示が設計にも求められると思います。
もちろん、有報や監査だって発展途上ですから問題は出ますが、今の監査であそこまでの手抜きはそうそう出ないでしょう。
投稿: takeyan | 2006.02.13 08:55
多田先生のおっしゃっていたことの1つに、建築物というのは生産過程がすべて現場で、再現性がないから品質管理ができない、また建ってしまえば中がどうなっているかはわからない、ということです。このことが建築が他の製造業とずいぶん違うことだと思いますし、会計監査のように簡単にはいかないところです。ヒューザーも姉歯事務所もERIもイーホームズも弁償して潰れてくれればいいことなのですが、結局コンクリのがれきなんかお金にならないわけで、被害者がその被害を被る、自治体が責任を問われる、何だかおかしな話です。
投稿: 管理人 | 2006.02.15 23:28
まあ、会計監査が簡単かは別にして、確かにそこに建設業界の不可思議さの源泉がありますね。
結局、悪徳経営者への刑事罰の強化という安易な方向しか思いつかないのですが。
恣意的に悪いことをする人間に敗者復活戦の必要はありません。
投稿: takeyan | 2006.02.16 00:23