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2005.12.07

12/7② 政権はしたたかに私たちの情報源を絶つ

立川市のマンションの集合ポストに反戦ビラを入れていた運動員が住居不法侵入で逮捕される事件があった。一審は無罪判決だったが、検察が控訴し、9日、二審判決が下されるという。

マンションに住民外の人がビラを配る、ということに気持ち悪く思う人はいるだろう。しかし、現実的にそれで実害があるだろうか。逆にマンションにビラを入れていたら住所不法侵入となるのだったら、マンション住民は一戸建て住民より情報収集で不利な立場になる。一審判決は妥当なものだと思うし、二審判決も一審判決を支持してくれることを願う。

私はときどきとりつかれたように選挙運動をやる。地方選挙や、衆議院の小選挙区のような選挙区が小さな選挙の場合、マスコミに滅多に取り上げられることはなく、候補者の宣伝をどのようにやるか、というのは頭の痛い問題だ。政策本位もいいが伝わらなくては何にもならない。駅前でのあいさつや演説会とビラ入れ、ポスター貼りを地道に続けていくしかない。これは市民運動や地域の活動でも同じで、市民運動も、みんなの見られるところでアピールをして、市民に共感と働きかけを行い、ビラやインターネットで地道に会員を増やしていく。

ところが個人情報保護法で名簿の使用に強い規制がかけられたり(同窓会名簿から興味持ってくれそうな人にビラを送ったりすることをためらうようになる)、マンションの集合ポストにビラを入れたら住居不法侵入になる、となると、もはや個々の市民に直接働きかける運動は成立しなくなる。たぶん、今はどの選挙の陣営もマンションへのビラ投函は躊躇しているのではないか。たとえ無罪になるとしても、警察に引っ張られる可能性のあることは選挙陣営はとても嫌うからだ。

その結果、このブログを含めて主観的なネット情報と、マスコミの情報しか、一般人のところには届かなくなってしまう。
また、安倍晋三のように、NHKと朝日新聞をけんかさせて、両方を政権批判できなくしてしまうような、手練手管に長けた陰湿な政治家だけが情報発信源を独占していく。一般人はその情報しか入らなくなるのだ。特に選挙のように、どっちに投票したからといって大きな損を実感しないものは情報に踊らされやすくなる。
市民の自由と、政治の自由が脅かされている事件だと思う。

以下、立川の事件での警察・検察の対応に問題があるとする法学者の声明が送られてきたので転載する。

立川反戦ビラ入れ事件控訴審判決に関する法学者声明

 2004年2月27日、市民団体「立川自衛隊監視テント村」のメンバー三人が、東京都立川市内の防衛庁官舎の郵便受けに「イラク派兵反対!いっしょに考え、反対の声をあげよう」という内容のビラを投函したことを理由に、「住居侵入罪」の容疑で逮捕・勾留され、同年3月19日に起訴されたことは、全国に衝撃を与えました。なぜ、ビ
ラを配っただけで逮捕され、75日間も自由を奪われなければならないのか、日本は本当に民主主義国家なのか、という深刻な疑問の声が多く発せられました。また国際的人権擁護活動で名高いアムネスティ・インターナショナルは、被疑者三名を、日本で初めての「良心の囚人」と認定しました。
 2004年12月16日、東京地方裁判所は、三名の被告人に無罪を言渡しました。この判決は、三人の行為が住居侵入罪の構成要件に当たると認定したところに問題を残していますが、本件のビラの投函を「憲法21条1項の保障する政治的表現活動の一様態」と認め、「民主主義の根幹を成す」のであり、商業的宣伝ビラと比して「優越的地位」があると明言し、無罪を結論した点において、人権感覚にあふれた判決と高く評価できます。
 東京地方裁判所の判決を受けて、全国の124名の法学者も連名で、この判決を支持し検察に控訴を行わないことを求める声明を発表しました。しかし、東京地方検察庁は控訴を断行したため、今日に至ってもなお三人は被告人の立場に置かれています。
本日、再び、本件被告人を支援してきた法学者で声明を発表するのは、本年12月9日に下される本件の高裁判決が、今後の日本社会における政治的表現の自由の保障の行方を左右する大きな意味を持つことに鑑みると、判決を目前に控え、表現の自由の重みと、それに対する国家刑罰権の恣意的な発動が許されないことを、社会に対してアピールをすることは、わたしたちに課せられた社会的責務だと考えるからです。
 民主主義社会には、自由な言論が不可欠です。言論の自由は単に言論を発する自由を意味するのではなく、言論を受け取る自由を論理必然的に含んでいます。というのは、民主主義社会は、市民が相互に信頼しあい、意見を交換しあう中で世論を形成していくというプロセスを不可欠な要素としているからです。このような民主主義社会のあり方からすれば、自衛隊員とその家族に対して、ビラ配布という社会的に見て穏当な手段で自己の政治的見解を伝えるという行為に憲法21条1項の保障が及ぶのは当然であり、表現内容が、回復しがたい深刻な人権侵害をなすものでないかぎり、政府は、両者のコミュニケーションを妨げてはなりません。一審判決が認めるように、宿舎の居住者はそれぞれ多様な意見を持つことに鑑みても、このようなビラ配布目的での共用部分への立ち入りが、居住者の住居権を侵害することにならないのは明らかです。
住民の住居権は、法によって守られるべき大切な権利ですが、本件で被告人が立ち入った集合住宅の共用部分は、さまざまな人がさまざまな用事で立ち入る公共的な要素も持つスペースです。したがって、共用部分のこのような性格を無視して、一律に共用部分への立ち入りが住居権を侵害するということはできません。ましてや、本件のように、穏当な方法で、政治的意見を伝えるという目的での立ち入りまでもが住居侵入罪に該当するとすることには、疑問を持たざるを得ません。
さらに、この逮捕・起訴は、「住居侵入罪」を適用し、本件ビラの内容は関係ないかのように見えますが、その本質は、自衛隊のイラクへの派遣に反対するという特定の内容を抑圧するものであるという疑念をどうしても払拭できません。一審判決でも指摘されているように、もしビラをどうしても入れて欲しくないのであれば、直接当該団体にビラを投函しないように要求するという手段がまず取られるべきでしょう。
そのような対応が十分にとられていないところで、しかも、全国で同種の行為が頻繁に行われている状況で、いきなり国家刑罰権が発動されたのは、この逮捕・起訴が、特定の意見を抑圧することにその目的があることを疑わざるをえないのです。
 権力が、自己にとって都合が悪い表現活動を抑圧することは、残念ながら、世界各国でしばしば起こることです。しかしそのような反対意見の封殺は、自由な市民の言論で運営されている民主主義社会を崩壊させるのであり、そのような危険を防止するために憲法をはじめとする法が存在するのです。本件は、特定内容の表現を特に狙い撃ちにしたとしか考えられない逮捕・起訴の事案です。検察はそもそもこの事件を起訴するべきではなかったとわたしたちは考えます。
 以上のような本件の特徴を考えるならば、東京高等裁判所の12月9日の判決は、今後の日本社会の方向性を左右するほどの重要性をもっています。わたしたちは、日本国憲法で保障された自由なコミュニケーションに基づく民主主義社会が今後も確保されなければならないと考えています。わたしたちは、東京高等裁判所に対し、本件の重要性を踏まえたうえで、自由と法の擁護者として責任のある判断を示すことを要望いたします。
 また政治的表現の大切さを理解している多くの市民が、12月9日の判決に大いに注目し、警察と検察の横暴を許さず、政治的表現の自由を守り、実践する行動をすることを切に期待します。

安達光治(立命館大学法学部助教授・刑法)、石埼学(亜細亜大学法学部助教授・憲法)、浦部法穂(名古屋大学法科大学院教授・憲法)、奥平康弘(東京大学名誉教授・憲法)、小田中聰樹(専修大学法学部教授・刑事訴訟法)、笹沼弘志(静岡大学教育学部助教授・憲法)、成澤孝人(三重短期大学助教授・憲法)、松宮孝明(立命館大学大学院法務研究科教授・刑法)、山内敏弘(龍谷大学法科大学院教授・憲法)

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コメント

ビラ配りやブログだけでなくメーリングリスト等の活用は出来ないのでしょうか? ケイタイにもそうした配信システムはあるし、こうした情報を拡大させるようなシステムは他にもいろいろあるはずですよ(外を歩く人ならどこでも見かけるはず)。
最終的には逆手に取る、という手段もあるようですが(どのみち穴だらけの法律しか作れないのも「現実」)、共謀罪とやらもそうそう甘くはないのでしょうね。

投稿: 匿名さん | 2005.12.07 23:22

コメントありがとうございます。
メーリングリスト使っている人に対しては有効だと思います。市民活動ではだいぶ、いろいろな情報ツールが使われています。運動の内容やめざす効果によって、使い分ければいいと思います。
ただし選挙は難しい。その理由はいろいろありますが、簡単なことからいうと、メーリングリストだとメールアドレスを市議選挙では最低3000、国政選挙なら10万もゲットする方法が難しいのです。駅前であいさつしながら教えてもらうなんて有権者の立場に立てば非現実的です。
また、メールアドレスがゲットできればそもそもそんなにしつこく宣伝しなくてもいい有権者でもあるわけです。誰が自分に投票してくれてしてくれないか、秘密投票ですからそもそもわからないところに無限の労力が待ちかまえています。
しこしこブログを書いて、駅前であいさつ、これに勝る方法は今のところないようです。

投稿: 管理人 | 2005.12.07 23:44

なるほど、難しいところなんですね。
それから実に単純素朴な質問で恐縮なんですが、フリーメールで使われている(スパムに良くあるヤツですね)アドレスはどういった扱いをする(あるいは「される」)のでしょうか? 噂では近いうちにネットで選挙という話を聞きますが……(ここで既に「穴」が?)。

投稿: 匿名さん | 2005.12.08 00:20

検証不能でしょうね。コメントいただくフリーメールも検証不能です。フリーメールのコメントに回答する必要があるものか、いつも迷いながら返答しています。
ネット選挙はHPやブログ中心でしょうね。メールやり放題ということは、ネガティブキャンペーンが放置されることになるなどの理由をあげているようです。規制だらけの公職選挙法のモチーフと矛盾することになるみたいで慎重なようです。

投稿: 管理人 | 2005.12.08 00:50

少なくとも、左翼のビラだから逮捕されて当然、という反応の人は次が自分の番だということを認識して欲しいなと思います。

投稿: takeyan | 2005.12.08 00:55

逆の立場の人に行われていることが、自分の場合にどうなのか、その想像力がないとまずいですよね。
純粋に議論と政治力で決着をつけるような政治にしてほしいです。
こんな時代に候補者やるのも大変ですよね。私にはなかなかできない仕事です。これからもがんばってください。

投稿: 管理人 | 2005.12.08 01:15

>少なくとも、左翼のビラだから逮捕されて当然
ビラで逮捕、というのは変な話ですね。
>純粋に議論と政治力で決着をつけるような政治にしてほしいです。
自分もそう思っています。それからコメントに付けたのはスパム対策用の虚アドです(あまりにも多くて困っているので……申し訳ないです)。

投稿: 匿名さん | 2005.12.08 01:49

インターネットの言論が自由なので決めつけられませんが、反体制言辞を書いたビラ配って逮捕とは、旧ソ連並みです。

投稿: 管理人 | 2005.12.08 09:12

判決文、読みました?

(1)表現の自由が尊重されるとしても、他人の権利を侵害してよいことにはならない
(2)居住者から抗議を受けながら同じ行為を繰り返した
(3)管理者は対応策として禁止事項表示板を設置するなどしており、法で保護された利益の侵害の程度が軽微とは言えない

投稿: 夏目 | 2005.12.17 03:09

その程度の認識はしています。しかしこの判決を鵜呑みにできるのでしょうか。一方的な視点を感じざるを得ません。
①ビラ入れが「他人の権利を侵害」といえるほどのことなのか?意見を書いたビラ配りができない社会にしてまで、イヤなら読まずに棄ててしまえばいいビラを配れなくすることが妥当なのか?
②居住者とはどういう住民かご存知ですか。警察が執拗に居住者に告発状を提出するよう求めていたようです。
③繰り返しますが、ビラ配りで日常生活が滞るような迷惑ではないはずです。禁止事項というのは私法です。拒む権利はあっても、「軽微」です。刑法で有罪になる問題か?という疑問がつきまといます。
ビラなど読まずに棄てればいいのですから。それよりしつこくて迷惑な押し売りだって、リフォーム詐欺だって、読売新聞の販売員だってちっとも取り締まらないじゃないですか。
ポストに投函されるマンションの買い取り広告だって、寿司屋の出前メニューも、棄てる手間の迷惑より、何も情報が入らなくなる不便さを克服するために、我慢とまではいかないまでも、許容しているわけです。
政治的主張や選挙の候補者のビラがポストに入らないとなれば、地域でどんな問題がおきているのか、候補者が出ているのか、他人はどんなことを考えているのか知りうる機会を失います。
投函できるのは市役所か町内会か友人・知人だけで地域ボスが圧倒的に有利な社会になります。そうなれば一方的な主張だけが社会で発言権を持つようになり、この社会はおかしくなったときのブレーキがなくなるわけです。
単にうろうろされて迷惑だ、という体感治安の問題ではないのです。私たちが自分たちの未来を自分たちで決めていくための手だてを失うのです。

投稿: 管理人 | 2005.12.17 08:58

迷惑かどうかを決めるのは法律ではなく、そこに住んでいる住人ですよ。世の中にはピンクチラシを歓迎する物好きもいれば、ピザが嫌いだから見たくもないという人もいます。そういうケースにいちいち法律が対応できるとは思えませんから。
今回の件はシンプルに「住民がやめろと言っているのに無視したから通報された。」に尽きると思います。

投稿: 夏目 | 2005.12.17 23:30

迷惑かどうかを決めるのは住民ですが、住民の迷惑という判断だけで有罪なら、シンプルな法律的合理性はありません。恣意性です。法律ではないのなら、罰せられる理由になりません。

投稿: 管理人 | 2005.12.17 23:57

> 住民の迷惑という判断だけで有罪なら、シンプルな法律的合理性はありません。

あります。
公の場所ならばそうかもしれませんが、今回の舞台は私有地、しかも居住空間です。
住民がビラ投函をやめろと言っているのにやめなかったのですから、やめさせるためには警察に通報するしかありません。

> 法律ではないのなら、罰せられる理由になりません。

不法侵入は成立していますが?

投稿: 夏目 | 2005.12.18 07:59

迷惑だから有罪、迷惑かどうか決めるのは法律ではないと書かれたのは夏目さんです。ですから法律論ではなくなるでしょ、と言ったのです。不法侵入の構成要件は満たしていますが、誰も通らない道路を赤信号で渡った歩行者が処罰されないように、副次的に器物損壊などやっているのでもなければ、処罰する程度の問題ではありません。
器物損壊や傷害を犯しあるいは玄関より中に入る危険性もない人を有罪とすれば、民主主義国の存立基盤を壊します。
自分や家族や知人に救いがたい問題が起きて、社会に働きかけなくてはならなくなったとき、ビラ配り程度で不法侵入だ何だと法律論争をしなくてはならない社会であることに何にも救われないことを痛感することでしょう。
政治的自由という近代社会の自然権と、迷惑を取り締まる法律とどちらを優先すべきかの水掛け論なので、議論を打ち止めします。

投稿: 管理人 | 2005.12.18 09:03

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<font size=3>立川でプロ市民が行った自衛隊官舎でのビラ配りに関する平成17年12月9日の東京高等裁判所の判決の余韻が続いている。被告側のプロ市民は上告して争う構えであり、19日にはこれらプロ市民を応援する<font color=red>『法学者声明』</font>が出された(この事件に関しては下記URLの拙稿もご参照いただきたい)。 ・プロ市民の立川自衛隊官舎ビラ配りに<No!>の控訴審判決  http://www31.ocn.ne.jp/..... [続きを読む]

受信: 2005.12.24 11:55

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