11/21 姉歯の失敗を国が負うべきか
マンション構造設計書の偽装問題で、住人たちが国の責任を声高に追及しはじめた。
姉歯氏はもちろんのこと、おそらく手数料稼ぎのイーホームも、場合によっては建築会社も損害を賠償できない可能性があって、最終的に国庫に手を打ったということになるのだろう。
私は小泉構造改革に代わる政治や社会の課題はリスクの共同化だと思っている。つまり透明性が高く合理的な大きな政府が次の目標だと思う。
しかし、今度の被害まのリスクまで共同化すべきとは思わない。私有財産の損害に税を補填するというのは、その被害が誰によっても不可避であったり、あるいはその損害を当事者たちの自助努力で復元させるより、社会が救済したほうが全体的に社会にとって効率性が追求できる場合だろう。またその補填をする場合も、その補填によって誰かが責任から逃れられるようなものではない。
今回のリスクを補填すれば、業者がいくら悪いことをやっても国が尻ぬぐいしてくれる、というモラルハザードになる。粗悪建築を繰り返して、国の金で建て替えさせてまた儲ける二重取り営業をする可能性もありうる。島本慈子さんの「住宅喪失」では、60年もつはずのマンションを築35年で建て替えさせ、住人を一生借金漬けにしている不動産業者たちのありさまを暴いている。
国に責めを問うにしても、抽象的に国家に責任を問うのでは何の意味もない。国という匿名性のもとで、国の政策決定に関与した人物たちが無罪放免されるだけで、泣くのは国民の共同財産である国庫だ。
国を追及するなら、国土交通省で確認申請業務の民営化(検査機関制度)を決定した官僚や、それをごり押しした規制改革会議の委員たち、つまりオリックスの宮内CEOや森ビルの森会長たちの責任を具体化し賠償せさなければ、国民どうしでたこの足を食べ合うことになる。それができればいい。ところが、日本は、正当性のない制度改正に関与しない限り、少しでも善意が認められる政策決定であれば、その弊害の責任を官僚個人に追及することは、過去の判例からみて難しい(薬害エイズの官僚への判決が参考になる)。
もう1つ考えなければならないのは、手抜き工事と天災とダブルパンチで悲惨な目にあった阪神大震災の被害者たちの被害補償がまだ実現していない。それをさしおいて、姉歯やイーホーム、それに群がった業者や天下り官僚たちに税金を使うということは順序として難しいだろう。
| 固定リンク
コメント
今回の事件は、黒川さんがご指摘のようにごり押しされた民営化が背景にあるようですが、これは構図としてはカリフォルニア電力危機、エンロン倒産と共通するところがありますよね。どちらも行き過ぎた民営化が最低限であるはずの領域を侵食しました。
同じような構図の事件がまだまだこれから噴出してくるんじゃないでしょうか。
投稿: 村越 | 2005.11.22 03:40
みんなが自分の能力を発揮するできる社会をつくるために規制緩和や民営化を始めたのに、いつの間にか自己目的化して、社会の安全弁を意図的に壊してしまったと思うのです。
まだまだいろいろ問題が出てくると思います。次は労働分野か、保育福祉分野だと思います。
投稿: 管理人 | 2005.11.22 23:37