11/18② 民でできるからといってもねぇ
マンションの構造計算書を偽造して申請していた千葉の建築士のことが問題になっている。この建築士を使っていたマンション建設会社は、自治体の建築確認を求めず、民間の指定確認検査機関だけを利用していたらしい。またこの指定確認検査機関はずさんな審査をしていたと報じている。
この民間の指定確認検査機関は、小泉政権の構造改革で誕生した。これまで自治体がマンション建設反対運動や周辺の環境悪化に配慮して、唯一の規制手段である建築確認を使いながら、自治体としてのまちづくりの考え方や地域住民との合意を形成する時間を求めてきた。
それに対して不動産屋やデベロッパーが「建築確認に時間がかかってビジネスチャンスを失う」だとか何だとか、ぐずぐず言い、規制緩和委員会の宮内だかに泣きついて、小泉政権のもとで建築確認が民営化され、民間の指定確認検査機関ができた。今の日本では、ビジネスチャンスと言うと、もっと大事なことがどうでもよくなる催眠術のような言葉らしい。
こうした業務が民間でできないことはないが、究極の公正さを担保できる保障はない。指定確認検査機関が不動産屋やデベロッパーに強い立場で出たら、仕事を受注できなくなるからだ。また自治体の審査に自信のない業者はこうした民間の機関を積極的に使うだろう。悪徳業者に甘い審査機関が世間に知られているわけではないから、多くの消費者はそんなこともわからずマンションを買うことになる。
不幸にもそうした業者の悪徳の結果つくられたマンションを買わされた人は、不動産が消費者保護の枠外だから、損を取り返そうと思えば莫大な経費をかけて訴訟するしかない。その問題が今回露呈したといえる。
日本という国は、ほんとうに不動産屋やデベロッパーがやりたい放題の国。それを助長するのが小泉政権が進めている土地利用の規制緩和の本質である。不動産業者は売ったら売ったきりで仕事は成功だし、長期的視野で地域と一緒に商売していく視点はどんどん失われていく。70年維持された同潤会アパートと、規制緩和による開発された●●●ヒルズと、どちらが社会的価値が高いかは一目瞭然である。
長期的視点のない不動産業者の所作の始末は最終的に税金や、消費者のコスト高で尻ぬぐいしていくことになる。
検査機関、ずさん計算書を見落とし…耐震強度偽装
姉歯建築設計事務所の偽造構造計算書で建てられた「湊町中央」ビル 1都2県のマンションやホテルの耐震性を示す「構造計算書」が偽造されていた問題で、千葉県市川市の建築設計事務所が提出した計算書は、強度が基準を満たしている場合に印字される「認定番号」がないなど、極めてずさんなものだったことが18日、国土交通省などの調べでわかった。
建築確認を代行した民間の指定確認検査機関は、こうした単純で重大な不備を見落としており、同省では検査機関に対し、建築基準法に基づく行政処分を検討している。検査機関は同省に対し「審査の方法に誤りがあった」などと説明している。
同省や千葉県の調べによると、偽造を認めた「姉歯建築設計事務所」(千葉県市川市)は、国交相が認可した構造計算用のコンピューターソフトを使って構造計算をしていた。このソフトでは、建物の柱や梁(はり)の本数、建物にかかる外力の数値などを入力し、計算の結果、必要な強度を満たしていると判定されると、計算書の各ページの左上部分に、8ケタの英数字の「認定番号」が印字されることになっている。
同設計事務所では、少ない鉄筋、薄い壁で建てるため、外力の数値を約半分に設定するなど工作したが、コンピューターは「強度不足」と判定。認定番号の印字のない「不合格」の書類しか出なかった。このため、同事務所では、認定番号のない書類を、正規の数値を入力して計算した別の書類の間に紛れ込ませて、そのまま検査機関に提出していた。
また、計算書提出の際には、使ったプログラムが国交相の認可を受けたものであることを示す大臣印入りの「認定書」を添付しなければならないが、それも添付されていなかった。
同省建築指導課では「認定番号の印字や認定書の有無は、ごく基本的なチェック項目。そんな偽造を見落とすとは考えにくい」として、検査機関から事情を聞いている。
偽造物件21棟のうち20棟の建築確認を代行した「イーホームズ」(東京都新宿区)は、読売新聞の取材に対し、「偽造は巧妙で、簡単には見破れないものだった。当社としては適切な業務を行っていたと思っている」と説明。
一方、国交省に対しては「構造計算書に添付すべき認定書などは確認しなくてもいいと誤解していた。審査の方法に誤りがあった」などと説明していた。
また、千葉県船橋市のマンションの建築確認を代行した「東日本住宅評価センター」(本社・横浜市)では、今月11日、国交省の指摘を受け内部調査をするまで、計算書の偽造に気付かなかったという。担当者は「認定番号がついていなければならないという認識がなかった」と説明しているという。
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国交省は18日、問題となっている21棟のうちの1棟が、川崎市川崎区中瀬3の「グランドステージ川崎大師」であることを公表した。
(2005年11月18日14時32分 読売新聞)
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コメント
建築業界は単価値切りの嵐が吹き荒れています。依頼主は「この値段でいやならいいよ、他にやる業者もいるから」といい、値切りに値切っています。
値切って利益を確保するためには、「目に見えない所の手を抜く」しかありません。実は目に見えない所が構造上重要だったりします。在来工法でもリビングが広くなる傾向にあります。近く予想されている関東地震に果たして耐えられるかどうか、疑問ではあります。そして、顧客が支払う金額は土地代は安くなったとしても(土地取引は消費税非課税)、住居部分は変わらなかったりします。つまり、ピンハネする連中が幅を効かせているわけです。
不動産業界は「規制緩和」に熱心でした。首都圏近郊整備区域で市街化調整区域になっている私の住んでいるまわりでも、どんどん造成され家が建ちはじめています。農村地帯の色彩が強い土地でしたが、スプロール化が進み、魅力のない住宅地に変貌していくことでしょう。土地がお金に化けてトンズラする不動産業者には、そんなことは関係ないのでしょうけど。
国土交通省は市川市の設計事務所とその経営者である1級建築士を刑事告発するとのことであるが、私に言わせれば値切り圧力をかけ、ピンハネに勤しんだ不動産業者、建築業者も同罪です。まさしく、市場の失敗のいい例が目の前にあるのです。
良好な住環境、良好な工場環境の維持向上には、民意を代表した政府の関与が不可欠だと私は考えています。
最後になりますが、我々が予防する手として、信用のおける業界の人と友人となり、業界の噂を聞いて決める、ということもあります。
悪徳業者は下職(諸々の工事を請け負う下請け業者)の評判が悪いです。評判の悪い業者の物件は買わないことですね。一生の買い物ですから。
投稿: 窓灯り | 2005.11.19 02:02
結論はそうなんですよね。検査機関をつくったって不動産開発業者より強い立場に立てないですからね。
そうすると、地域の大工みたいな人に家をつくってもらうといいんですが、土地が高いから結局マンションを買うしかない、マンションになればまちの工務店では作れない、と話は振り出しに戻ってしまうのですね。
投稿: 管理人 | 2005.11.19 07:15