6/20 本人の心構えにすりかえる方法
●洋泉社新書「心を商品化する社会」を読む。
学校カウンセラー依存や、何かというと心のケアという、心理学依存の心理主義が間違っているメカニズムを教えてくれる。心理士関連の資格をめぐって学会がいくつも分裂しているのに、文部行政も、災害救助も心のケアに偏重してきて、特定のイデオロギーの心理専門家集団だけが厚遇していることに警鐘をならしている。
心理学は、本人の精神的部分に働きかけて状況改善を図るためにあるものだが、それが心理主義にまでいくと、本人の人間関係や生活環境が悪いことを棚上げして、自己責任にさせる効果をもってしまう、とも言う。事故や災害で最近、心のケアだけが迅速に対応されることに疑義を呈している。
そうした心理士依存社会になりつつある状況に、いろいろな視点からこれで良いのか問題提起をしている。
心理カウンセラーの有効性についても物言いがついていて、まだ技術未確立の世界だということもわかった。それなのに何かというと心理的に対応すれば本人のケアになると思われている、最近の物事のとらえ方に対するカウンターパンチャとしてとても学ぶところのある本だった。
また、文部科学省が音頭を取って全国の小中学校で配布している「心のノート」の批判の中身は、専門的で勉強になった。
先日の組合の福祉労働者の集会でも厚生労働省の課長が説明に来ているというので、児童相談所の心理判定士から専門職の確保を求める意見があった。この意見は労組として一見反論しにくい。しかし、今日の児童虐待はじめ子どもの問題って、心理判定士増やせば解決するのだろうか。もっともっと保護者たちに社会的関係をつくらせて、煮詰まらないようにしていくことが大切で、県の大きな市にしかない施設がいくら専門性を高めても、本当の問題解決にはならないという気がしていた。
職場でもメンタルを病んで退職一歩手前まで行った同僚がいる。メンタル対策が打たれていたが、当時はカウンセラー治療の奨励だけだった。結局、医師や療法士の前で治癒しても、久しぶりに職場復帰しては、改善されていない職場環境のもとで病気が再発し、休みに入るということが続き、何とかしなくてはという議論になっていった。昨年から、職場の人間関係の調査も入れ、職場のコミュニケーションの改善課題を浮き彫りにしている。
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コメント
記事を拝読しました。
確かに心理的サポートが不要とまでは言いませんが、何かというとカウンセラー出動、というケースが多いような気がします。それに加えて、管理人さんの文章で「技術未確立の世界」という内容を読んで驚きましたが、すぐに納得もしました。もともと心理カウンセラーには、非常に高度なテクニックが必要だと思うし、簡単に名乗るものでもないと思います。人間の心ほど扱いが難しいものはありません。状況や環境などその人に影響を与えているあらゆる現実を考慮しなければならないことを考えると、心理カウンセラーになる、それを名乗るということは非常に難しいことだと思います。
そのような中で心理士依存社会化が加速し、技術が未熟な心理カウンセラーの量産も加速する状況が来ることは大きな問題ですね。
この国でも家族や地域といった比較的小さな社会によって、個人の中の心理・精神の自浄作用が促されていたと思うのですが、少しづつそのような効果がなくなってきているのでしょうか。原則的には精神・心理の問題はその個人にしか理解できないし、解決も個人によるものです。その解決を促す(あくまで促すだけ)のは、家族、地域や学校といったその個人が普段から接している環境・社会であることが理想です。その人が生きていく状況の中で解決されなければ、真の解決になりません。(管理人さんの同僚の方のケースが顕著です。)
心理士がその人に四六時中つきそうわけにはいかないのです。このことからも心理士がその人の周囲の環境、状況を包括してカウンセリングしなければならないため、技術と時間が必要なことは明白です。それでも個人が精神・心理の傷を治すきっかけを与えることしかできないのです。(でもそのきっかけが大切だから心理士の存在価値があると思うし、がんばって欲しいと思っています。)常に人間は環境の中で生きていること、精神・心理の形成パターンは人間の数だけあるという原則、これらを踏まえて心理的ケアをする必要があります。
同時に比較的小さな社会の個人に対する影響、すなわち個人を守る効果の向上を議論していく必要があるのでは、と思います。
当たり前なことを長々と書き連ねてしまいましたが、非常に興味を持った内容でしたので、コメントをさせていただきました。
投稿: 上野武志 | 2005.06.22 21:21
コメントありがとうございます。
専門家が人間関係の修復を働きかけ、日常が過ごしやすいものにならなくては意味のないことだと思います。安易にカウンセラーを濫用することがどうなっているのかいま1つ検証が必要ですね。専門家に頼って、全然改善しない人もいますし、逆に、小さな人生の転機であっという間に症状が改善することもありますよね。
投稿: 管理人 | 2005.06.25 08:16