2/2 保育士に逃げられる保育所
朝霞市の広報が配られた。
市議会の議論の内容が伝えられている。発言した議員の名前が載っていないのはなぜなのだろうか。有権者は議員の活動を監視して次の選挙で審判する役目がある。議員が議会でどのような発言をしたか、ぐらい簡単に確認できないのは大問題だ。市民に発言内容が知られていないほうがいい議員や、発言しない議員にとってメリットがあるからなのだろう。
ところで、本題は公設民営で朝霞市が開いた保育所の問題について。この問題についていろいろうわさ話レベルで聞いていたが市議会でも取り上げられた。
公設民営の保育所というのは市立保育所という看板を掲げて、運営するのは民間企業、民間団体というしかけの保育所である。預けるほうは市立だと思っているが、本当は違うというもの。
昨年、朝霞市は新しく開いた市立宮戸保育園を、公設民営で開いた。委託にあたっての考え方やチェック項目についてじっくり議論もせず、フリーハンドをたくさん与えて、ほとんど単独指名のようなかたちで大手保育ビジネス業者ベネッセに運営を丸投げした。その保育園に弊害が出ているらしい。
議員の質問は、職員が半年で10人も退職し、担任がすべて入れ替わったということと、現在も職員不足が続き、その分について補助金返還を求めるべきではないか、という内容。
それに対する朝霞市側の答弁は、民間委託についてデメリットはない、とした上で、職員の定着性や不足について問題と認め、不足する職員分の補助金は返還を請求する必要がある、という回答。
確かに民間委託と、保育内容のデメリットは直接結びつかない。しかし、この議員の質問では、その委託先業者に問題が大きいと言わざるを得ない。
しかし、職員の定着が悪かったり、担任がすべて入れ替わるということに対しては、朝霞市の問題認識能力の欠如を感じる。子どもにとってそういう事態はどうなのだろうか。学校だったらこんな事態にたちいたったらまち挙げての大問題になるはずではないか。
保育所というのは仕事のほとんどが人的サービスである。子どものことのために安心して働ける(給料・待遇以外にも職場の風通しがいいなど)保育スタッフがいて、そこで子ども達は安心して育つことができる。
保育士たちを相手に仕事したことがあるが、預かっている子どもたちが二の次になっても構わないから、職場から逃げ出すという感覚に至るには、相当なことがなければありえない。特に今は保育士の就職難でもある。ほとんどのスタッフに逃げられる経営者というのは、根本的に問題があると言える。
議員の指摘のとおり、補助金の返還は当然だろう。いないスタッフの人件費を業者がかすめ取っていることになる。人がいない保育所ほど儲かるなんて理屈が成り立ったら、おかしなことになる。
保育所のに委託契約先については、新年度から今の業者を打ち切り、人材を大切にし、人材確保能力がある業者を選ぶべきだろう。
さらに行政責任も指摘したい。和光市ではベネッセへの委託がうまくいっているという。どうして朝霞市ではこんなことになっているのだろうか。市側の熱意が業者に伝わらなかったからなめられたのではないか。
あと、企業丸投げではなくて、学校協議会のように、保護者や地域住民が運営に参加するしかけをすることが必要だ。地域住民の監視のもとにおかれれば、企業もいい加減な運営はできない。
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コメント
私は昨年宮戸保育園を退職したものです。
このコメントを書く気になったのは噂で「宮戸保育園は親の間でも不信感がもたれている」ということを聞き、「あ~、何にも変わっていないんだなあ」と思ったからです。
何も変わっていないということは、今も辛い思いをしている保育士や子供たちが
いるということ。今の私の立場でできることはこの閉ざされた空間でおきていることを
つまびらかにすることぐらいしかないと思ったからです。長いですが、聞いてください。
記事を読ませていただき、「預かっている子どもたちが二の次になっても構わないから、職場から逃げ出すという感覚に至るには、相当なことがなければありえない。」
というご推察、まさにそのとおりなのです。
保育士は平成16年4月に採用になったものばかり。若いけれど、新しい保育園で
頑張りたい!と真剣に思って入った人ばかりでした。
それがなぜ1年もたたずにたくさんの保育士が辞めていったのか…。
みんな断腸の思いだったのです。
ここですべてを吐露していいのかわかりませんが、
園長、主任は「ベネッセの保育」を若い保育士に押し付けてきます。
始まって間もなくの保育園は子供たちも1年生、保育士も1年生で、
いくら「保育とはこのようなもの」という理想があってもそのとおりには
できないのが現実です。なのに、無理やりにでも「ベネッセ流の理想の保育」を
私たちにさせようとするのです。
例えば乳児組は保育士と子供との1対1の関係を大切にするというのが基本ですが、1人の子の遊び、着替え、食事、排泄、睡眠などを完全にカバーするのは
無理な話しです。
それをなんとしてでもやれと言われます。
できなければ、別の子をおんぶして、遊んでいる子は横目でみつつ、他の保育士に
「ちょっと見ていてください」と声がけしたりするように、と言われますが、
それぞれの保育士に4人ぐらいずつ担当の子がいるわけですから、
なかなか他の人の担当の子ばかりをみているわけにはいかないのです。
担当の子が4人いれば、一人の排泄のお世話に入っている
間に他の3人の遊びに関われないのです。目はくばっていても
時におもちゃで叩いてしまったのをとめられなかったり、他の子にかみつかれている
のをとめられなかったり…。そのためにサポートスタッフ(非常勤)がいるわけですが、毎日担当部屋を変えられるのでどの子にどのような注意が必要なのか
なかなか把握できないのです。だから非常勤が見ている目の前で事故がおき、
それを常勤の担当者の責にされることが多発していました。
そして怪我がおきると、怪我をさせてしまった子の親御さんが迎えに来るのを
待って担当者、しいてはそのクラスの担当全員でお詫びをします。(常勤のみです。
いくら非常勤の目の前でおきた事故でも常勤の責任です)
4時に勤務が終わる職員も7時に迎えに来る親を待ってお詫びするのです。
お詫びはもちろんのこと、保育士にも厳しく注意がされます。
怪我をさせてしまったのだから厳重注意で、当たり前ですが、
「ではどうすれば怪我が防げたのか」が全くわからないのです。
なぜなら自分は自分の与えられた仕事を懸命にやっていて、それでも防止できなかった事故なのですから。
それを園長や主任は「保育士の力不足」で片付けようとします。
「一生懸命やっているけど、まだ子供たちも手がかかるし、保育人数が足りない」と
申し出ても「その人数でやるしかない」と一蹴されてしまうのです。
色々言いたいことがあっても「あなたはまだ駆け出しなの。何も考えずに
ただ言われたとおりの保育をしなさい。」と言われ、自分で考えて保育をすることは
必要ないそうです。
「手厚い保育」「一人ひとりの個性にあわせた個別対応」は実践するのは
それはそれは難しいことなのです。
おもちゃでたたいてしまったという事故がおきると、そのおもちゃは
「保育士がきちんと遊ばせられないから」という理由で撤収されます。
砂遊びで口に砂を入れてしまった子がみつかれば、「当分の間お砂遊び禁止」
になります。そうやって環境を狭めていくことで、子供たちも集中して遊ぶことができず、うろうろ…。保育士もなんとか子供の気持ちをつかもうと手遊びなどしますが、
もって15分ぐらいでしょうか…。
子供たちもストレスがたまり、余計かみつきや怪我が増え、それもすべて保育士が悪いことになるのです。
この保育園にいた保育士はみんないい人ばかりです。
なんとか自分の担当の子を守りたい、よりよく遊ばせてあげたいという気持ちで
いっぱいなんです。それでもできない。それはなぜなのか?
そこを上の人が全然考えてくれない!!それが一番の原因のような気がします。
最後の方は保育士と管理者(園長・主任)との信頼関係もくずれ、
保育士がきちんと仕事をしているか、言われたとおりにやれているかを
主任が影で監視しているような体制になりました。
ふと顔をあげると、自分を監視する視線。
自分たちは信頼されてないんだな、と思います。
かといって、言われたとおりにやれば、時間内に食事が終わらない、長い間空腹の子を待たせることになる、イライラして怪我や事故が増える、落ち着かない環境では
他の子もお昼ね出来ない…など様々な弊害が出てくるので、
削れる手間はなるべく省こうとすると「言われたとおりにやって」と本当に
ロボット扱いなのです。
いくら書いても書ききれないのでこのあたりでやめますが、
最後に一言言いたいのは
「現場の保育士の意見をきいてください」
ということです。
そしてその意見を主任と園長どまりでストップさせず、広く議論や審議ができる
場を作って欲しいと思います。
保育士はどこへこの思いをぶつければよいのか今も出口を探しています。
投稿: 元宮戸保育士 | 2005.11.27 12:43
勇気あるコメントありがとうございます。
こうして退職後もむかしいた保育園をどうしたら良くできるのか考えてくれる保育士がいることに心動かされる思いです。
受託している企業から出しているメッセージにトラブルや事故をどうやって受け止めようか、という感性が感じられないできましたが、やっぱりという感じです。
大企業だから安心、チェーン店だから安心という市の安易な感覚も見過ごすわけにはいかないと思っています。これから民間に運営委託する保育所がある場合は、この点をきちんと詰めていきます。
すぐに結果を出さなくてはいけないのに、結果がでるかわかりません。保育はチーム労働で成り立っているもので、誰かが監視し、誰かが働かされるという関係だけでは成り立ちません。市内で福祉事業を営む事業者に風通しのよい職場をつくらせるしかけを考えていきたいと思います。
投稿: 管理人 | 2005.11.27 13:40
自分もコメントさせてください。
『この保育園にいた保育士はみんないい人ばかりです。なんとか自分の担当の子を守りたい、よりよく遊ばせてあげたいという気持ちでいっぱいなんです。それでもできない。』
『怪我をさせてしまったのだから厳重注意で、当たり前ですが、「ではどうすれば怪我が防げたのか」が全くわからないのです。』
・・・厳しい現実ですね。
この夏A市で保育中事故が起きたとき、私も「保育」に少なからず携わるものとして、胸が痛み、nekokanさんのblogにコメントした内容です。
『うちの学童でも手厚い保育が必要なお子さんを預かっていて、保育士・指導員は神経をすり減らして子どもたちのことをみています。
運営は主に親でも、子どもたちを現場で実際にみているのは彼らです!
今年の夏休みも前半が終わり、ある指導員が「前半、ヒヤッとすることがありました。後半は気を引き締めて保育に当たります」と、メールで正直に伝えてくれました。
うちは規模の小さな保育施設で、今は、預けるものと預かるものとの距離がとても近いです。
ヒヤッとする気持ちも共有できています。
それが伝わらない距離になることが恐ろしい気がします。』
運営する側のものとして、『何も考えずにただ言われたとおりの保育をしなさい』とは決して言わないけれど、『その人数でやるしかない』とは指導員に言ったことがあります。
必要な指導員配置は1対1でも、出る補助金は3対1だからです。
でもその時、「運営する親は、入るお金をそれ以上何とか増やそうとする前向きな態度がない!」と指導員から突っ込まれ、ケンカになりました。
今思えば笑い話ですが、子どもがまん中で、預ける親と預かる保育者との距離が近いという関係を、これからも大切にしてゆきたいと、黒川さんのblogと元保育士さんのコメントを読ませていただき、あらためて思いました。
投稿: m | 2005.11.28 10:28
mさんコメントありがとうございます。日々の保育の営みはほんとうに尊敬して見ています。
預ける親と預かるスタッフとの距離の短さ、大切ですね。無認可保育所でも、親とスタッフの距離が短いと、施設が貧弱でもそれなりのことをやってくれますし、親も時々苦情を寄せているようですが、関係性を大切にしようとする子ども、保育士、保護者のありようが見られます。
優秀でなくていいですから、感性のよい施設のリーダーがいると変わりますね。サービス提供者→客、監視する→監視させられるというのが中心の対人サービスはメニューは立派でも、何のためにそこでサービスを受けるのかという肝心のところが寒々しくなります。
投稿: 管理人 | 2005.11.28 14:50
「大山保育園」、これは社会福祉法人常磐会の運営になるもので、園児募集は市立保育園と一体で行われている。愚息が2年程ここにお世話になって、その後3年間転園して市立保育園に通った。違いは歴然としていて驚いた。
園児の数と園の面積がそもそも比較にならない。大山は園庭が無いに等しい。だから運動会は小学校を借りて行う。その上、保母が妙に若い。賃金水準を情報公開で開けてみて唖然とした、低すぎる。まるで生活できる水準ではない。これでは「ベテラン」になるまえに退職するだろうし、それが経営にとって都合がいいのだろう。その上、理事長とういうのが専従だが法人創設者(故人)の娘の亭主で元美容師(!)。勿論何の見識も無い。「園長」は上記「娘」。
この法人は宮戸の入札に参加したようだがはねられたようだ。どうせベネッセに決まっていて、当て馬に動員されただけだろうけれど。
宮戸の前に、すでに類似の事態は朝霞市内で現に発生していて、大体思ったとおりのようですね。自分の子供を守るのに精一杯で、何もできませんでしたが、宮戸がどうなるか、大山をみていれば大体予想ができたところです。
その意味で、宮戸元保育士さんのおっしゃること良く理解できます。
その上、学童保育にも指定管理者制度が導入されるという…。今度はどうしたらいんでしょうかねえ…。
投稿: ハンス | 2006.01.13 02:34
施設は資金がある公立が良いに決まっていますが、保育内容で私立はそれを超えることができます。しかし、自治体が私立保育所を公的なものか私的なものか、判断ミスし、チェックを怠ると、私立保育所は問題行動がおきますね。
投稿: 管理人 | 2006.01.14 08:44