1/5 待機児童ゼロ作戦の評価
朝霞市次世代支援育成計画のパブリックコメントに提出する意見をまとめるために、自宅で市内の子育て政策に意見をいいたい人に集まってもらい、文章を作成する作業を行う。
毎日新聞の政治欄「拝啓小泉さま」第1回が自民党の野田聖子さんで、「少子化対策なっていません」という題の文章が面白い。
政府の少子化対策がどうしてダメなのか、実感にもとづく文章ながら的確に指摘しています。
小泉首相も保育所さえ入れれば女性が出産・育児と労働や自己実現を両立できる、そうすれば少子化は回避できる、という前提に議論していることを間違いと指摘しています。首都圏・大阪・兵庫・沖縄以外の地域では、保育所は余っていて(そういう状況にありながら保育所の定員に対する入所者の比率が90%を超えていることはどれだけ首都圏・大阪・兵庫・沖縄の保育所が逼迫しているか、という証明でもある)、そこで少子化が進んでいるという現実と矛盾しているのです。
この小泉首相の「待機児童ゼロ作戦」という政策、そのスローガンは、仕事と育児の両立のために大切なのですが、少子化対策として正当化されるにあたって、だんだんゆがんだものになっています。ここ数年の保育所制度の改革は、規制緩和委員会(現在の規制改革会議)を中心に議論が進められました。そこでは、規制緩和さえすれば保育所待機児童問題は解決し、少子化の解決と男女共同参画社会が一気に実現するという神話が常に主張されてきました。
しかし結果は、都市部で満員電車状態の保育所、地方では止まらない少子化という現象がますます拍車がかかって、結局何にも解決していないと思うのです。男女共同参画にしても、本質的に変わったというより、男の所得が下がり続けるから、男が女を家庭に引き留める理由がなくなったというのが実態です。保育所が増えようが増えまいが、進んでいる現象と言わざるを得ません。
この「待機児童ゼロ作戦」はそもそも筋が違っていると言わざるを得ません。もとよりある程度正確な予測ができていた厚生労働省保育課が、①国債費②公共事業③厚生労働省内の医療④薬⑤高齢者福祉⑥障害者福祉の順に予算がぶんどられていく中で、言葉が悪いですが、小泉首相のこの考え方に悪のりしてまとめられた「作戦」とも言えます。これによって保育課は、いくばくかの予算増を勝ち得ましたが、抜本的な待機児童問題が解決されるような金額とはなりませんでした。
そもそもの作戦を打ち出した小泉首相が狙っていたのは全国の公立保育所を民営化しよう、という思惑でした。その背景には規制改革会議の動きがあって、会長の宮内義彦オリックスCEOと八代尚宏上智大学教授が、保育所を民営化して競争原理を導入すれば保育所が良くなる、という理論のために公立保育所不要論を全面展開したことにあります。2人は規制緩和委員会や規制改革会議に、現在あちこちの自治体で民営化された保育所の受託企業になっている大手のベネッセや、ポピンズなどの経営者を繰り返し呼び、彼らの意見を一方的に採用し、厚生労働省ばかりか、保護者団体にまで口汚い批判を浴びせ(私の労働組合も保育所が良くならない主犯扱いされました)、保育所の企業運営化のためにだけする議論を続けてきました。マスコミも、東京の苛烈な待機児童問題の実感だけで書く記者しかいなかったので、どうしても規制改革会議の考えを鵜呑みにする一方的な書き方になってしまっています。
民間企業のほうが競争して良くなるという理屈には、一概に間違いとは言えません。しかし、待機児童問題の最大の原因は大都市部の施設不足です。これは土地取得から考えると民間の努力でどうなるものでもありませんので、民営化では解決するというものではないのです。公益事業で大きな設備投資が必要な鉄道、道路、郵便、電話なども同じで、最初に政府部門がきちんと投資しないと、全然設備投資がされません。JRと私鉄の線路の立派さを比べるとわかります。こうした小泉構造改革の民営化チチンプイ神話で結局待機児童問題は解決せず、自治体の自己満足的な民営化だけが行われています。
私の住む朝霞市も例外ではありません。昨年、保育所1園を大手の株式会社の保育業者に委託しました。ふつう自治体の事業を委託する場合には、様々な面から妥当性や、委託後の事業の内容について検討し縛りをかけるものなのですが、満足な検討がなくあっさり委託されてしまいました。マニュアルが整備されてきれいな保育はされているようですが、保育士はしょっちゅう入れ替わるし、秘密が多く、よくわからない運営がされているようです。福祉のように地域に対する責任の高く人と人との関係性のなかで営まれる事業を委託するには、私は地域から逃げられないNPOや既存の保育所を運営している団体に委託するのが望ましいのですが、市役所もコンビニ感覚です。そこで、全国屈指の待機児童問題が解決したかというと、全く解決していません。
2人の政府委員の勝手な理屈、それに期待した民間大手の保育事業者、それに踊らされた小泉首相、それにエールを送る、保育所と喧嘩ばかりしてきたキャリアウーマン出身の評論家たちが、有権者のニーズとは全く異なるトンチンカンな施策を展開し、ちっとも問題解決が図られなかったと言わざるを得ません。一方で海千山千の保育所が増えていると言えます。
少子化の問題解決のためには、こうしたためにする議論を排除しなければなりません。そのためには、子ども政策全体のプライオリティーを上げていく必要があります。いつまでも親の自助努力の延長に政策を位置づけて、子どもや子育てしている親に損な役回りばかりを押しつけていては子どもを産み育てるということにプラスのイメージが描けません。その上で、子育ては親と社会との協力で進められるものだ、という全国民的合意をつくることが必要です。個別の政策を打つには、かつて子育てした人たちではなく、現に子育てしている当事者の声を聴く、子どもの声を聴くということが大切になります。
ところが、子ども関係の団体って、なかなかシンプルなところが少なくて、伝統的なところは調査能力があっても政治的思惑が強すぎるし、新興勢力はエキセントリックなところが多く、本当に困った話ということを全国的な水準で話すことが不可能なところが多いのです。
そんなことを考えて、今日も作業していた私ですが、毎日新聞の野田聖子さんの切り口。とてもよいと思います。念願の子どもが授かることをお祈りしていますし、こういうまともな議論がちゃんとできる政治家がもっと増えてほしいです。特に子ども政策の分野は。
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