トップページ | 2004年7月 »

2001.10.01

労働調査2001年10月号掲載 労働組合は保育とどうかかわっていくか? 連合保育ニーズ調査から

はじめに

 現在、小泉内閣の「骨太の方針」をはじめ、保育制度改革についてさまざまな議論が展開されている。自治労は労働の現場から保育に関与してきた。制度改革には一定の責任ある立場である。
 本年1月に連合が乳幼児をもつ保護者と保育士を対象に実施した、「保育ニーズに関する調査」(1)を織り込みながら、保育所が求められていることや、保育所をめぐる状況などを説明してゆきたい。

自治労と保育所のかかわり

 自治労は、組合員約IOO万人、「地域公共サービス産別」と位置付け、自治体職員と、自治体の委託先を中心に、福祉、医療、清掃業務、衛生などの公共サービスに携わる事業所の職員を組織する労働組合である。
 保育分野に関しては、全国で22万人の保育労働者のうち、公立保育所を中心に約6万4千人(自治労の保育士資格保有組合員数)の保育士が加盟し、他に調理員、用務員などの保育労働者と、幼稚園、学童保育所、児童館の職員とともに保育部会を設けて保育運動に取り組んでいる。また、組合員の42.3%、42万4千人が女性組合員であり、仕事と家庭の両立支援という視点での保育所のあり方についても十分検討すべき立場にある。さらに、保育所施策を企画するために、児童福祉行政を担当する自治体の職員も組合員である。そのた
め、保育所のあり方については、利用者(子どもと保護者)・提供責任者(行政)・保育労働者の三者の立場から考えなくてはならない労働組合である。

保育制度に関する課題

 保育所制度に関しては現在、5点の課題が抱えている。第1に、男女共同参画社会の進行や長期不況による家計の悪化によって、女性の就労率(パート、派遣労働なども含む)が上がっている。そのため少子化を上回る勢いで保育入所希望者が激増(3)し、待機児童問題が発生している。第2に、労働時間の多様化と連動して保育を希望する時間が多様化してい看。第3に「保育に欠けない」専業主婦の家庭に対しても、さまざまな理由に一時的な保育やベビーシッターの派遣などが必要になっている。第4に、保護者の育児不安解消や児章虐待防止のため、育児相談や保護者のネットワークづくりなど、「子育て支援」に取り組む必要がある。第5に少子社会で適正な子ども集団をつくるための核となる役割が必要になっている。
 保育所の役割が広がり、変わりつつあるなかで、保育制度改革は必要になってきている。自治労も保育制度の改革を必要とする立場である。
 しかし、政府が「聖域なき構造改革」の一環として提起する、市場原理の全面展開を柱とした保育制度改革とは異なる立場である。

政府の保育制度改革

 政府の改革は首相の諮問機関を舞台に、経済学者や有識者が中心になって検討、推進されている。代表格は、「総合規制改革会議」だが、委員にユーザーや現場職員、児童福祉の専門家がいない。そこでは、参入する法人格や質を問う「児童福祉施設最低基準」などの事前規制があることは新規参入意欲をそぐ、劣悪な施設は保護者が選ばないかたちで廃業させればよい、そのために事後評価を確立する、との論理の一点張りで議論が進められている。中間とりまとめでは、バウチャー(保育切符)制の導入や、保育の質を保障している「児童福祉施設最低基準」の緩和、「事前規制より事後チェック」として第三者評価の導入、公立保育所の民営化・民間委託推進などを提起している(4)。
 小泉政権や政府も、男女共同参画社会の進行や、保育労働の雇用誘発効果などから保育の充実をめざすものの、財政構造改革が立ち遅れ保育所の予算を確保できないため、「コストのかからない改革」として原理主義的な規制緩和論に夢を託して、乗り切ろうとしている。
 規制緩和・競争原理の導入は、技術革新によって省力化や生産性向上が可能な分野に効果があるのだろう。しかし、機械化も省力化も不可能な保育を経済競争にさらしても、利益は生まれない。利益を生むためには、サービスメニューを広げつつ、反対側に1人ひとりの子どもに対するケアは低下させるしかない。
 規制緩和論が主張する「保護者の選択」だが、保育所を必要とするすべての保護者が一つ一つの保育所をていねいに調べることが可能だろうか。また、子どもは日々生きている。事後チェックでよいことはない。質の悪いサービスを受けてしまった子どもは心の傷を負う。その人生は誰が補うのだろうか。
 市場原理で保育のサービス供給量を増やすためには、保育事業で利益が上がるようにし、新規参入意欲を刺激するしかないが、そのためには補助金に適正利潤を加算するか、必要な職員を削るか、人件費を削減するか、いずれかの方法しかない。今の政府財政のもとで補助金の増額は不可能である。補助金単価の積算根拠となる現行の保育の職員配置基準〈別表1〉を引き下げることも困難である。もともと8時間保育を前提にした配置基準をそのままに、1980年代にH時間保育に拡大されている。今の配置数も限界に近い。職員配置が少
なければ、職員は子どもを力で「コントロール」し、人権侵害に至る危険性があることは、ベビーホテル虐待死事件で明らかにされている。
 人件費について、総合規制改革会議は、パートや派遣の制限を緩和し活用せよ、と提言している。専門教育を受け人命や人格を預かる労働者の人件費が自立した生活が維持できない水準でもよい、とする規制緩和論の考え方は、現場労働を蔑む発想が見え隠れしている。なお、保育の補助金の積算根拠では、保育士の人件費は月額19万7千円(5)程度で計算されている。そのため民間保育所の経営者は、人件費が補助金の枠内におさまるように苦労している。
 施設と保護者の個別契約を基本とするバウチャー制については、保育制度を市場原理で行うためのシステムとして、さまざまなところで注目されている。しかし、サービス供給量が確保できない現状のまま施設と保護者の個別契約に移行すれば、保育所が不足する地域では選択の余地がない上に、施設が子どもや保護者を選ぶ関係(逆選択)や預かりやすい環境の家庭の子だけが優先的に入所できる危険性がある。待機児童問題が深刻な地域は、障害児保育や、軽度の虐待ケースにおかれた子どもの通所ケアなど、厳しい状況におかれるだろう。また、施設の整備は市場まかせになるため、国や自治体がサービス供給量を新たに確保する責任も放棄することになる。バウチャー制をうまくやれるとするのは楽観的な見通しである。

保護者は保育所のどこを見ているか

 待機児童問題をテコに強引に議論をすすめた総合規制改革会議の改革案が、保護者が求める子育て支援とかみあうのか、連合の保護者調査(1)から検証をして考えたい。
 現在の保育所に対する不満では、保育料が高い、園庭が狭い、年度途中の転所が困難、親同士の会話の不足、保育士の人数が少ない、保育終了時間が早い、保育所の施設が古い、と保育のインフラやサービスメニューの不足を指摘する声が中心である。保育そのものに対する不満は予想外に少なく、園長・所長とのコミュニケーション不足は若干高かったものの、えこひいきや、職員の態度が悪い、という回答は僅かで、逆に不満とは思わない、という回答数が多かった。
 保育士の働き方が、保護者には評価されているとみてよい。逆に不満項目は、当該自治体の児童福祉行政または国の責任であるものだ。保育事業を市場化しても解決しない問題ばかりである。総合規制改革会議の方向性は、保護者のニーズに応えられない。保護者の漠たる不満によりかかった提案をしている、といわざるをえない。
 調査のなかで保護者は、あらゆる質問項目の筆頭に保育料の高さを問題にし軽減を求めている。保育料の負担感が一番強いのは、月40万円前後の所得の世帯である。保育料の決定に税額転用方式が採用されているため、保育所を必要とする保護者の年齢層(20~30歳代)でフルタイム労働での世帯は、税控除などの恩恵がなくなる一方で、保育料負担が高くなるところにいる。経済的自立の限界域の所得層の福祉施策が不足している日本の現状を端的に表している。
 保護者による育児が困難な子どもが入る施設以外に公的保育が存在しないアメリカで、日本の保育所と同じ水準の託児所に子どもを預けたら2,000ドルかかった話もある(6)。市場原理を保育に導入した場合に、保護者負担が増加する危険性がある。受験競争がそうであったが、保護者の努力と金次第で子どもの育ちが既定されれば、社会に分断をつくる。

保育の社会化をめざして

 調査の「子どもを育てる上での必要な支援」の項目では、1位に「保育料の軽減」が挙がっているが、2位、3位には、男性が児童手当の増額や保育料の所得税控除といった経済的支援の項目を挙げ、女性が子育てに対する社会や職場の理解といった環境や周囲の意識に関する項目が挙がる。子育てをすることで男親が過度に経済的責任を負い、女親が子どもと直接向き合う責任を押し付けられる、性的役割分担が現れている。
 子育てを家族だけに責任を負わせている限り、子育ての性的役割分担と女性の負担感は解消されない。保育・子育てを社会化し、公的なサービスの力を使いながら子育てをする必要がある。
 与野党、経済界、労働界は、子育て支援の大きな柱として児童手当の増額を提言(7)し、ここ数年の政府の予算編成では児童手当の増額をめぐって攻防されている。
 子育ての全責任を保護者におしこめたまま、保護者にお金を流しつづけても、育児中の保護者の孤立感、閉塞感は解消されない。保護者が肩の力を抜いて子育てできる社会を再構築しないと、子どもが人生設計の障害でしかなくなるだろう。そのような環境は子どもにとって不幸だ。介護保険制度が現金給付を見送った理由を、子育ての場合もあてはめて検証し、政府や社会は子育ての現物サービスを充実させることが必要だ。そのことが、男性の経済的負担感を軽減することにもなる。

保育を通じた社会的統合が課題

 政府は、規制改革3か年計画(8)の方針や待機児童問題を理由に保育の質をずるずる引き下げている。規制緩和は、待機児童問題が解決しない上に、財政規模の小さい自治体で便乗して保育の質を引き下げられる実態がある。
 国や自治体、特に自治体は、社会の未来を担う(下品ないい方をすれば将来は税収源にもなる)子どもの育ちを積極的に応援すべきであり、保育の充実から逃げるべきではない。具体的には保育所の施設を増やし、サービスメニューを充実し、病児や障害児も受け入れる普遍性をつくりあげていくことが必要である。
 一方で、今の保育所制度でサービス内容を拡大していくことだけで、子どもが育つ社会環境全体の改革になるのか、問い直しが必要である。
 1980年のベビーホテル事件以降延長保育や夜間保育がスタートしたが、rベビーホテルの利用者でもっとも多い接客業を仕事にする人たちの子どもが夜間保育所に移ったことではなかった」現実は、保護者をとりまく人間関係のつながりが疎遠な社会で、公保育との接点をもてなかったことが原因と、石毛えい子(現衆議院議員)は指摘している(9)。
 社会的なつながりのぎりぎりのところにいる保護者や、労働時間の拡大や長時間通勤などで地域とのつながりをつくりにくい状況の保護者の子育てをサポートしていくシステムを考えなければならない。
 児童虐待事件との関係も重要である。児童虐待は児童相談所の仕事、と割り切ることに限界があることが指摘されている。発生後の対応より地域での防止に取り組む必要がある。
 児童虐待の発生要因として、保護者の被虐経験、配偶者の育児無協力、保護者の社会的孤立、子育て未経験などが挙げられている(10)。被虐経験以外は、地域社会に子育てを分担、共有、応援する仕組みがあれば、防止できる要因である。保育所の育児相談などの「子育て支援」事業をソーシャルワーク的に展開していく必要がある。
 保育所制度の改革の課題を保護者や子どもを支える地域の拠点をどうつくるかというところに設定し、保護者や保育所とともに地域住民などがみんなでたすけあって、地域全体で子どもを受け止めていくシステムづくりが、安心して子どもが育ち、育てられる社会の責任ではないか。

分権・自治型の保育制度を

 保育政策と密接な地域社会がどうあるべきか、ということと、保育の供給量の地域的なアンバランスを背景に、保育が国策として画一的に政策展開されることの限界を克服し、地域に必要なサービスを柔軟に構築できる仕組みが求められる。そういう意味で、中央集権的な改革にこだわる総合規制改革会議の改革は限界がある。
 子どもが育つ、育てるということを、保護者や保育所の個と個の関係にとどめず、地域社会や自治体がみんなで考え、取り組むシステムづくりがほんとうの改革ではないか。そのためには、自治体が主体的に子育てに関する政策に取り組める分権・自治型の保育システムを考える必要がある。地域社会や自治体がお金の流し方、費用負担のあり方、入所システム、保育内容などを多様に選択できるシステムを考える必要である。

必要な子どもの権利擁護
子どものオンブズマン

 ここまでは、おとなの視点で、子育て支援または保育政策について検討してきたが、子どもの最大の利益を実現するために、子どもの権利擁護との関係に言及しなければならない。
 総合規制改革会議は市場化する保育事業に対して第三者評価と、情報公開が必要と提言している。「事後的チェック」という表現で目的を市場原理による不良事業者の淘汰のための制度と位置付けている。自治労は、市場化とは関係なく第三者評価を導入し、サービス提供者の自己改革につながる制度にすべき、また苦情解決(オンブズマン)と組み合わせていくことの必要も訴えている(11)。
 苦情解決は、第三者評価機関の評価や、保護者による苦情申し立てにとどまらず、法律的な権利が制約されている子どもからの苦情解決にも対応することが必要である。
 苦情解決は、告発者であってはならず、子どもの利益が保障され最善となるよう、関係者を説得するため、適切な調整をするものではなればならない。

保育労働者による改革が重要

 保育制度改革にあたっては、保育現場にいる保育労働者が当事者能力を発揮することが求められる。保護者や、地域住民、学校などと連携し、自らの地域の保育所の役割を再構築し、提言し、改革できるかが問われている。
 保育に関しては、現場労働者や労働組合(自治労)が労働条件を楯に反対するからサービスが悪い、と批判されることがある。一部の単位労働組合にそのような事実はあっても、全体としてそのような指示・指導をしたことはない。このような批判は責任を負うべき人が責任逃れするために利用しているのではないか。そのような偏見に対し、保育労働者が保育労働に対する意識から検証したい。
 連合の保育士調査では、保育労働者の職に対する意識を過去(就職の理由)、現在(やりがい)、未来(継続志向)について調査し、自己改革の可能性について探っている。
就職の理由については、「子どもが好き」68.2%「保育という仕事に関心があった」51.9%「福祉関係の仕事に関心があった」25.3%の順で上げられており、「雇用が安定している」11.9%、「賃金労働条件等がよいと思った」6.5%を大きく引き離していた。雇用・労働条件以上に仕事そのものに関心の強い労働者といえる。
 今のやりがいを「強く感じる」48.5%、「多少感じる」42.2%で、やりがいを感じないのは総計もどの個別の層も10%を超えない。
 仕事を継続していく意思は「できるだけ長く続けたい」が61.6%。逆に、結婚退職、出産退職を望む人は、10%にみたず、「ほかによい仕事があれば変わりたい」も特定の層で10%超える程度で少ない。女性労働者に支えられる職場という特性からみても、極めて高い継続意思である(1)。
 保育労働者の労働条件を整備するとともに、この結果からは、やりがいや、職の役割を保障することも労働組合の重要な仕事といえる。今回の調査結果は、安易な現場批判やレッテル貼りに十分反論する材料ができたと思う。
 そのような保育労働者像を踏まえたうえで、労働組合が保育労働者との関係の実態を調査したのが〈別表2〉である。労働組合は、保育士の意見を聞き、労働条件やレクリェーションなどの基本的な取り組みを評価しているが、政策活動や住民との共闘関係の構築などでは、やや努力不足という評価している。
 これに保育士が抱える仕事上の不安・不満に「予算不足で民営化、民間委託の不安」44.7%「自治体の保育政策がわからない」31.8%が多くあげられており、保育労働者は職場のあり方に関心が高く、労働組合は保育労働者にどう応えていくかが課題である。
 労働組合が保育労働者や住民などとともに一定の未来像を描いて、自治体や国をリードしていく運動づくりが必要である。とりわけ利用者(子どもと保護者と地域)にじかに接している立場を活かした改革提言、活性化提言は、強みとなる。
 また、現場の保育所と本庁で企画をする児童福祉行政をつなぎ、縦割り行政、複雑な意思決定プロセスなど、公務職場の職制を克服するために運動を通して労働組合が機能することが可能である。
 仕事に前向きな保育労働者も、疲れがとれない、腰痛がある、精神的にきつい、など、健康問題としてあがっている。1997年の児童福祉法改正後、基本的な保育にとどまらず保護者の子育て支援を要請されているが、改正前の旧法で養成教育を受けたとみられる30歳代以上に精神的疲労感が強い。労働組合は自己改革を支援するとともに、研修権の保障や、適正な人員配置の実現など、保育労働者の努力が続けられる取り組みも当然必要である。


(1)連合「れんごう政策資料132号保育ニーズに関する調査」2001.6
(2)自治労「第7回組織基本調査」2000(非公開)
(3)平成13年度厚生白書によれば、毎年出生数が1万人ずつ減少している。保育所入所者+希望者は5万人ずつ増加している。
(4)総合規制改革会議「中間とりまとめ」2001.7
(5)「平成13年児童福祉主管課長会議資料」2001.3
(6)前田正子「保育園はいま」岩波書店1999
(7)民主党「すべての人に公正であるために/7つの改革・21の重点政策」2001.4、連合政策集「政策・制度要求と提言」2001.6など
(8)政府規制改革委員会r規制改革3か年計画」2000.12
(9)石毛鎮子「育ち合いの保育」現代書館1987
(10)庄司順一「子どもの虐待の理解と対応」2003、児童福祉主幹課長会議企画課長説明2001.3
(11)自治労社会福祉評議会「保育サービス評価システム検討会報告書」200L6、オンブズマンの実践例については兵庫県川西市が教育委員会内に子どもオンブズパーソンを設置し活動をしている。

〈別表1〉
現行保育士の配置基準
年齢 保育士1人あたりの子ども数
 0  3人
1~2  6人
 3  20人
4~5  30人
1~5歳児は児童福祉施設最低基準第33条(厚生省通知1963年)による。O歳児は、1998年児発第305号厚生省児童家庭局通知「保育所における乳児に係る保母の配置基準の見直し等について」による。8時間保育の基準のまま、ll時間保育実施したため、実際には上記配置を割込んでいる。

〈別表2〉保育士の労働組合の評価 肯定的評価 否定的評価
保育士の意見の反映         54.1    30.3
賃金労働時間等労働条件の取り組み  61.1    26.0
国や自治体への保育政策への対応   38.0    38.8
レクレーション活動         55.3    18.1
保育所と保護者・住民をつなぐ運動  36.O    36.1

| | コメント (0)

トップページ | 2004年7月 »